並行世界-パラレルワールド-ｻﾁside

満月-ｻﾁside-

レンが飛び降りて三年半。

今年の夏も記録的な猛暑になるらしい。

「サチちゃんお疲れ！」

「うん、お疲れ様」

十八歳になったうちは私立大学に進学するために猛勉強中。

息がつまるような毎日を過ごしていた中、息抜きに、と地域の夏祭りに誘われた。

自転車で待ち合わせ場所に向かっているとＬＩＮＥが鳴った。

　》ごめん少し遅れる

　サチ》了解

待ち合わせ場所に着いた五分後、後ろから声を掛けられる。

「ごめんサチ！待ったよね」

しょんぼりとした彼女に当時の面影はもうない。

「大丈夫。ジュースおごりね」

「言ってること反対方向に飛んだね……」

思わず笑うと彼女もつられて笑った。

「表情豊かになったね」

わずかに驚いた彼女。

でもすぐに笑って

「じゃあその話をするとしようじゃないか。今、こうして息をしている話を」

「うちが思い切り笑い飛ばしてあげるよ、

―レン」

うちが答えると、いたずらに微笑んだ。

夏祭りに行くと、そこにはたくさんの人がいた。

｢ねえ、レン。あそこにいるのアヤじゃない？｣

｢あっ本当だ！でも男の人といない？｣

｢本当だ。結構イケメンじゃん。声かけないでおくか。｣

アヤにも彼氏出来たんだって、みんな変わっていくんだなって思った。

｢待ってレン。あそこにリクに似た人いない？｣

｢あれ絶対そうだ。ほんと最悪〜｣

｢じゃああっちに逃げよっか！｣

うちはレンの腕を引っ張って走って逃げた。2人で笑いながら──

うちは、レンが退院してからずっと隣にいたつもりだ。

休み時間も帰りも、休みの日も。

そしてたくさんお腹の底から笑った。

レンは退院してから別人のように明るくなって、いじめられるどころか、友だちがたくさん出来たように思う。

でもうちは1番の友達として、親友としてこれからもずっと隣にいるつもりだ。

うちは今でもレンが書いた遺書を持っている。

これはレンには内緒。

知られたらきっと怒るから。

レンはきっと自分の遺書のことを忘れてると思う。

うちはあの時のことはもう思い出して欲しくない。

でも忘れて欲しくもない。

あの時のことは決していい思い出じゃないけど、その後の楽しい日々のことを思うと悪い思い出でもない気がする。

｢あ、満月｣

空を見上げたレンがつぶやいた。

｢月が綺麗ですね」

うちが言うと

｢死んでもいいわ」

レンは微笑んだ。

きっとその言葉に含まれている意味を一番理解しているのはほかでもない、レンだと思う。

レンが笑ったのをきっかけに二人で笑いながら祭りに向かった。

あの日のような満月に背を向け、うちとレンは三年半を笑った。―――