残酷-サチside-

うちは家に着いた。

「ただいま。」

いつものように出迎えてくれる家族。

幸せな家庭に生まれてきてほんとに良かったって毎日思う。

「学校どうだった?」

お母さんはうちに聞いた。

「今日はアヤっていう子が、レンの悪口を言うトキたちに、全部聞こえてるよって言ったの。多分その後の部活でアヤはトキたちにいろいろ言われてると思う。これでターゲットがアヤに代わったら、結局意味が無いから、怖いな。」

「そっか。悩んでても何も変わらないから、部屋で宿題でもしてきな。」

「うん。」

そう言ってうちは部屋に行った。

いつものようにベッドに倒れ込んで、そのまま寝てしまった。


気づいて目が覚めた時にはもう0時をまわっていた。

部屋にある勉強机の上に、お母さんの文字で

[夕飯の時起こしたけど起きなかったから、夕飯冷蔵庫入れときました。食べたかったら温めて食べてね。]

と書いてあった。

すると急にぐ〜とお腹がなった。

リビングに行くともうみんな寝ていた。

暗いリビングに電気をつけて、一瞬眩しかったけどすぐに目は慣れた。

冷蔵庫にはプレートにラップがかかっていて、「サチの夕飯」と書いてあった。

電子レンジでチンして、物音1つしない静かなリビングでとても遅い夕飯を食べた。

夕飯を食べ終わってお風呂に入った。

寝起きのお風呂はとても気持ちよくて、つい長風呂してしまった。


お風呂で温まった体を覚まそうと思って外に出た。満月がとても綺麗な夜だった。

大きくて丸い月に吸い込まれそうな、そんな夜だった。

しばらく外で月を眺めながら外に立っていたら、急にお母さんの携帯電話がなった。

こんな夜に夜中に誰だろう。

そんなこと思ってるうちに、電話に出るお母さんの声がした。

「えっ?ほんと?うん、わかった。サチに伝えときます。」

その声は驚きと恐怖が混じったような声で、電話を切ったお母さんは、うちの部屋に入った。

うちは慌てて家の中に入り、部屋にいなかったうちを探しにリビングに出てきたお母さんと会った。

「どうしたの?」

「あのね、落ち着いて聞いてね。」

そう言うお母さんの声は泣き声に混じっていった。

「レンが、マンションから飛び降りたって。」

「えっ…?」

信じられなかった。

幸い、すぐにマンションの住人に発見されて救急搬送されたそうだ。

でも、まだ意識不明。

そしてレンの机の上には、5枚の遺書、レンのお母さん、お父さん、弟のレオ、学校、そしてうちの分が置いてあったそうだ。

うちはその場で泣き崩れた。

どうして学校で話しかけなかったんだろう。

どうしてうちは何もしてあげられないんだろう。

ずっとそう考えて一晩中泣いた。


次の日、レンが奇跡的に目を覚ましたという知らせを聞いて、レンの病室に向かった。

そこには頭に包帯を巻いて、困ったように笑うレンと、心配そうに見つめるレンの家族がいた。

「レン!大丈夫?」

うちは病室に入ってすぐにレンに向かって抱きついた。

「サチ苦しいよ〜」

レンは苦しいって言いながら楽しそうに笑っていた。

久しぶりに本当の笑顔が見れて嬉しかった。

やっと自分に出来ることが見つかった気がする。

それは、ずっと一緒にいてあげること。───


数十分話したところで、看護師さんが、まだ体に負担がかかっちゃうから、と、うちらは病室から出ることになった。

病室を出たところで、レンのお母さんは

「これがサチ宛の遺書だよ。まだまだレンは生きていくけど、受け取ってあげて。」

その場でうちは遺書という名の手紙を読んだ。

そこには、『本当にごめんなさい。今まで、ありがとう。大好きです』と締めくくられたうちへの感謝の言葉が綴られていた。

レンの家族への遺書にはいじめられていたこと、先生たちに相談したくても怖くて出来なかったこと、今までの感謝などが書かれていたらしい。

その後、学校ではレンへのいじめが問題となり、トキたちソフトテニス部は活動停止。

レンは退部しうちと同じ帰宅部になった。

レンが帰宅部になってからは、帰り道に色んなところに寄り道した。また2人だけの思い出が増えた。


色々なことがあった中学校生活。最後は心から笑って卒業することが出来た。

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