絶望-サチside-

朝、いつもより15分早く起きた。

昨日リクとケンカして別れたレンが逆恨みでなにかリクにされるんじゃないかって思うと怖くて、今日は早く行こうと思った。

早く支度を終わらせて家を出た。


いつもより15分早く学校についた。

まだレンは来ていない。

次々と来るクラスメイトに作った笑顔であいさつしながら内心

『レンじゃないのかよ』

って思ってしまった自分は性格悪いなと1人でつっこんでレンを待っていた。

そして5分ぐらい経っただろうか、レンが来た。

おはよう、そういつも通り言おうと思ったけど、その前に他の人がレンに話しかけた。

バスケ部の男子。そしてリクと仲がいい人。

「レン、リクとなんかあったの?」

そいつがレンにそう声をかけた瞬間、うちの目に映ったのは、一瞬驚いたように固まるレンと、新しいネタを探しているのだろうか、ニヤニヤしながら見ているトキたちソフトテニス部。

「ちょっとトラぶってLINEブロックしたけど……なんか言ってた?」

「あぁいろいろ言ってたから……」

「そっか。ごめんね」

そういう会話が聞こえてきた。

どうしてレンは今謝ったのかな。

レンはいつもそう。

何も悪くないのにとりあえず謝るクセがある。

性格がいいからしょうがないのかな。

そう考えてるうちに、結局レンに話しかけられず、朝の会が始まった。

入院中の担任の代わりに来た学年主任のつまらない話を聞きながら、早く担任帰ってこないかなって思いながら、レンがどんどん嫌な思いするのになって思いながら、朝の会終わったら話しかけようと思って早く終わらないかなってソワソワした。

朝の会が終わって次の自習の準備をしてからレンの席に行こうと思った。


でもタイミングを逃してしまった。

レンはいつも1人だと机に突っ伏してしまう。

寝てたら申し訳ないから、そういう時は話しかけないで起きるのを待っている。

だけど今日はレンを起こす人がいた。

「レン」

その声でレンは顔を上げた。

でもきっと顔を上げたことを後悔しただろう。

レンに話しかけたのはリクだった。

「話がしたいんだけど」

しんと静まり返る教室に、レンに刺さるトキたちの視線。

「早く消えろよ」

トキが小さく呟く。

でも、静まり返った教室には、大きくその声は響いてしまった。

クラスメイトみんながレンたちを見つめる。

「私は話すことなんてない。聞きたくもない」

レンの声がかすれて手が震えているように見えた。

「だから早く……早くここからいなくなって。今すぐに」

リクの顔が絶望と怒りに変わった。

「クズだな」

吐き捨て踵を返したリク。

レンはその後ろ姿に

「知っているよ」

そう今にも消えてしまいそうな声で呟いた。

『クズはどっちだよ』

そう喉の奥にまで昇ってきた言葉をうちはそっと閉まってしまった。


休み時間ずっと机に突っ伏しているレンに話しかけることが出来ず6時間目になった。

6時間目はレポートをまとめる時間。

まぁもちろんそんなのまじめにやる人は数少ない。

レンはその数少ない人の1人だ。


1人でレポートをまとめているレンの後ろ姿をみて、なんだか虚しくなったから、隣に行って一緒にやろうと思って、席を立とうとした時、レンに話しかける人がいた。

アヤだ。

アヤは人懐っこい性格でみんなと仲がいい。

そしてレンと同じソフトテニス部。

普段はトキたちといることが多いけどレンにもたくさん話しかけてくれる子だ。

レンとアヤはなにか話しながら結局レンの隣の席はとられてしまった。


レンたちがレポートをまとめている時も、トキたちは相変わらずレンの悪口を言っていた。

主に朝のリクのこと。

もちろん9割はでっち上げた話だ。

トキたちのところに行って、止めようかなとも思った。

でもうちにはそんな勇気は無かった。

そんな時突然笑顔でアヤが叫んだ。

「トキー、レンが全部聞こえてるって!」

急にみんなが話をやめて静まり返った教室。

誰かが話し出したのをきっかけに何事もなかったかのようにうるさくなった教室。


その波に乗り遅れたただトキを除いて─


トキはハッと我に返るとアヤに駆け寄って

「全部ってマジ?」

そう言っているのが聞こえた。

『わざと聞こえるように言ってるんじゃなかったんだ。』

うちはそう思った。

そのくらい大きな声で毎日言っていたから。

それよりも、うちが勇気出なくて出来なかったことを、アヤは笑顔ですぐに出来た。

その事にうちは親友失格だなって思った。


そうこうしてるうちに6時間も終わり、それぞれ部活の時間になった。

いつもは1人で部活に行くレンに今日はアヤが付いていた。

アヤの6時間目の行動は、たしかにレンを助けたと思うけど、その代わりにアヤはみんなを敵にしたことになるもんね。

ある意味ずっと中立にいる自分が情けない。

いつもはバイバイって声をかけるけど、レンに合わせる顔がなくて、帰宅部のうちは家に帰った──



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