第7話

そうか。その手がある。


だけどやりたくない。絶対にやりたくない!


放っておいてもそのうち元に戻るんじゃないか?


本当に中二病になっているのだとすれば、黒歴史が出来上がるだけで実害は出ないはずだ。


――でもそんなことになったら手代木はどうなる?


学校中で噂されて、馬鹿にされて、ショックのあまり野球に復帰できなくなったらどうする。


――それだけはダメだ。


「摘麦、俺に考えがある。昨日手代木と話してたメガネの、宮地ってやつを呼んで――」





「くっ――やっと落ち着いたか」


妄言癖の人間は人気のない場所を好む。やはり校舎裏ここに居たか。


「――おい。おい、そこのお前」


「誰だ!俺を呼ぶのは」


手代木は苦しそうな顔で振り向いた。たぶん苦しくないと思うけど。


「お前の右腕、なにかを宿しているな?」


「――芦原、お前なぜそれを知っている!」


「その異様な殺気――見れば解る。お前、その手で何人を傷つけた?」


「傷つけただと?」


「ああ傷つけた。友、家族、師――多くの人間の心を傷つけた」


「それはあいつらが勝手に――」


「変わりなかろう。見たところお前の宿しているものは邪悪なものではない。闇を掴むためでも剣を手にするためでもない。ただ己の力を強化するだけのようだが――」


「――――――――??」


ヤバイやり過ぎた!パンクしてる!素人にこれは早過ぎだ!


「ふん。疼きの正体も分かっていないとは。これだから初級能力者との話は長くなる。お前の腕の疼きの正体、そしてお前の能力――」


「――俺の能力」


「それは……魔球を投げることだ!」


「魔球……だと……?だが俺はもう……球なんて投げれない」


「たわけ。いつの話をしている。お前の腕は既に覚醒し始めようとしている」


「――覚醒」


「どうだ、私と決闘デュエルをしないか?お前が覚醒することができなければ私に勝つことなく未来を失うだろう。覚醒できたとしてもこの力の差、私に勝てるかは分からないがな。クククッ」


「――いいぜ。その挑発に乗ってやる」


「いい返事だ。では場所を変えよう。ここはいささか狭すぎる」


「何をする気だ!」


「グラウンドで待っている。せいぜい尻尾を巻いて逃げないことだな」


「あっ、おい待て!!」

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