第6話

「落ち着け手代木!」


五月蝿うるさい!お前が悪いんだ!お前が封印を解かなければ!」


手代木がこんな大声を出しているところを俺は見たことがない。


「――ごめん。あれ、私のせいかも」


「――は?どういうことだよ」


「私の薬のせいでああなっちゃったのかもって言ってるの!」


ただでさえ既に混乱しているのに、摘麦は急に何を言い出すんだ。


「そんなわけないだろ。あんな……あんな妄想じみた行為は他人がどうこうできるもんじゃない」


「それがそうでもないの」


なんで引き下がらない。


「お前の薬のことなら良く分かってる。性格を変えるようなものなんてきっと作らない」


「あれを作ったのが私じゃないなら?」


まさか――


「まさかお前のお母さんが作ったのか?!」


「試作の薬を借りたのよ」


「泥棒じゃねーか!そんな立派な試作品を俺に使おうとしてたのか!」


「あんたならいいでしょ!」


「良くねーよ!百万歩譲ったとしても俺以外に使うな!」





「でもあんなの……何のために」


「お母さんは鬱について研究してるの。世の中にはすでに鬱になりにくい薬っていうのはあるのよ。でもそれは元気になる薬じゃない。ポジティブでもネガティブでもない、ゼロに近い状態にするだけ」


「こんな時に何言ってんだ」


「聞きなさい!お母さんは肯定的で行動的な感情を刺激すために、思春期の子供に見られる特徴的な言動に注目してたの」


「――それが、中二病だっていうのか」


「そうよ。だから薬を飲んだ彼の状態は正しいの。お母さんすごいわ!」


「『お母さんすごいわ!』じゃないだろ!あんな風になっちまうなら薬は失敗だ。凶暴すぎる。それに――」


感情が変わったとしてもあんな言葉をどこで覚えたんだ。


って言うかいつの間にか手代木が居ない!大男が横になって倒れてるだけだ!


「あれはきっと彼が薬を二つ飲んだからよ。本来は一つで良かったんだと思う」


「とりあえず原因は分かった。それで、あれを元に戻すにはどうすればいい?」


「知らなーい」


「知らないってお前……待ってれば勝手に治るとかないのか?」


「分かんない。昨日の夕方に薬飲んで今日まで効果が続いてるってことは相当効き目が良いみたいね」


「効果を打ち消す薬とかは?」


「あっはは!薬の効果を打ち消す薬なんてあるわけないでしょう。馬鹿を言いなさんな」


「こんなときにふざけてる場合か!」


「もとはと言えば彼方が実験に協力しないのが悪いんでしょ!彼方がなんとかしてよ!」


「なんとかする方法が分からないから困ってんだろ!」


――でもマジでどうする。


――中二病にかかった人間をもとに戻す。





「すごい勢いで出て行ったね」


「先生、廊下は走っちゃダメだって怒ってたよ」


「なにそれダサーい」

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