第4話
「え〜っと……それにしてもお昼は怖かったね。あの人、こんなふうに目を吊り上げて怒ってた」
摘麦は両目の目尻を人差し指でくいっと持ち上げ「こんなふう」を実演する。
突如呼び出しを受けて困惑する彼女なりの間の持たせ方だった。
相手はとくに反応もないまま屋外の昇降口へ繋がる廊下を歩いている。
運動部の生徒たちの声が遠くに聞こえ始めた。
二人がやってきたのは校舎裏だった。
大勢の生徒が在籍する学校という場所で唯一と言ってもいいほどの人気のない場所。生徒たちは示し合わせるようにそこを神聖な空間として扱い、あえて立ち寄らないようにしている。
校舎の柱の間を縫って斜めに夕日が差し込む。
「俺と付き合ってくれないか」
「えっ、そんな……急に言われても……」
摘麦は相手の靴の先を見ながらもじもじしている。
「ずっと気になってたんだ。蛭子は明るくて前向きで、それに――綺麗だ」
「えっ、えっと――私たちそんなに話したことないし、付き合うとかよくわかんないし、まずは――まずは、お友達からとかでもいいんじゃないかな……?」
破天荒、天真爛漫、波乱万丈の彼女はどこへやら。こういったことには点で疎かった。
「ダメか。それとも昼休みに一緒に走り回ってるアイツのほうがいいのか」
「返事は今じゃなくてもいい。俺の気持ちは変わらないから」
言葉の猛襲だ。
「そんなに迫られても、怖いよ」
「ああ……悪い」
らしくない行動を恥じ、彼は目を逸らす。
だがここで閃いてしまったのは摘麦のほうであった。
「あっ、で、でも――たとえばこれを飲んでくれたら〜もっと仲良くなれるかもな~なんてー」
おそらく彼女は下種な顔をしていたことだろう。
スカートのポケットから取り出したのは――
「分かった。これを飲めばいいんだな」
彼は二つ返事でそれをつまみ取ると水もなしにゴクリと飲み込む。
「――って、え!ちょっと!」
彼の思い切りの良さに声を失い、しばしの沈黙が流れた。
「また一週間後ここに来てほしい。返事はその時に聞かせてくれ」
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