第2話 よし!逃走すっか!
「おかーさん!こっちこっち〜!」
「走ると危ないわよ〜」
「ねぇねぇ、また新作でたらしいわよ!」
……ここは街の商店街。無一文で城から放り出されたオレは、1人寂しく歩いていた。
「あ〜、はら減った〜……」
金がない。謝罪の印に貰った剣はもう売った。クッソ安かった。安物かよこの野郎。
と、その時。
「こんにちは〜、何か困りごとですか?」
青みがかったピンク髪ボブの美少女が話しかけてきた。
可愛い子きたー!
「困ってます!僕、ご飯もなくて、武器もなくて……助けてください!」
オレはなんとか情に訴えかける。
「……そうなんですね!実は私、商人をしていて……売れ残った商品があるのでよければ来ますか?」
「はい行きます!」
というわけでオレはこの美少女の後をついていった。
いや、腹も減ってたし、判断力が鈍ってたんだよきっと。美少女に釣られたわけではない。断じて。
……この軽率な行動を後から恨むことになるとは思いもよらなかっただろう。
「つきました、ここに売れ残った商品を保管してるんですよー!」
「お、あおー……」
着いたのは少し街から離れたところにある広場にポツンと置かれた大きいテントだった。
「さぁさぁ、入ってください!」
言われるがまま入る。
「食品の余りとかもあるので、食べてみますー?」
「はい!いただきまーす‼︎」
「こっちも食べますか?」
「食べます食べます‼︎」
とまぁ、色々なものを食べさせてもらった。お腹が空いてる人に食品を恵んであげる……
なんて素敵な人なんだろう________
「お会計は175000モルになります」
「えっ?」
…………?????はあ?コイツ……散々食わせたあげく、金を取るつもりか⁉︎
ちなみに1モルは1円だ。
「お金……とるんですか……?」
「勿論ですよ。別に売れ残った商品があるから来ますか?としか言ってませんよね?ただで食べられると思ったんですか……?」
「お、お金……持ってません」
剣を売って貰ったお金は1500モル。その金も途中で見つけたロト7みたいなやつに使った。今、オレの手元には『ハズレ』と書かれた紙が15枚しかない。全部外れたんだよあのゴミくじ。
「おい、まさか払えねぇのか……?」
「ヒィィィィィィ!?!!?!!」
ピンク髪の女の子の口調が一気に変わった。
怖っ⁉︎ヤクザかよ‼︎‼︎
「しょっ、正体を表したなこの詐欺師!金のない貧乏人から金を巻き上げるのが商人の仕事かよ!」
「あ?なんだとこのゴミ。騙されたのはあんたでしょ?あ?文句あんのかオイゴラ?騙される奴が悪いんでしょあん?」
こ、怖い!助けて……こんな詐欺に遭うために異世界に来たわけじゃないのに⁉︎
こ、ここで引いては負けだ。死ぬ。
(読み飛ばし可)「騙されるやつが悪い……?それは違う。騙されるやつが悪いってのは、情報リテラシー能力がない奴が噂を本当だと信じ込んでバカを見る場合のことで、悪意ある嘘をいい、それを騙されるやつに責任転嫁するのは明ら______」(早口)
「ゴチャゴチャうるっさいわね‼︎‼︎」
オレの理屈で倒す作戦は一瞬で砕け散った。
「やってられるか!帰る!」
「逃がさないわよ!!影たち‼︎‼︎」
「はっ、お嬢様!……おい、ガキ、死体になりたくなければ大人しくしてろ……‼︎」
「ヒィィィィィィ‼︎‼︎」
逃げれない。怖すぎる。ムッキムキの量産型黒スーツがいつの間にか出入り口を塞いでいた。
「出来ないのならあんたの身体で払ってもらうわ」
「えっ?」
えっ、なにこの嬉しい提案。童貞を捨てられるのか……?
「オ、オレまだ童貞だから……痛くしないでいただけると______」
「臓器を売り捌くのよ‼︎あんた、本当に気持ち悪いわね」
そりゃそうだ。童貞が捨てられるわけないじゃん!
てか、ヤバくね?臓器売られるの?ヤバくね?
もうダメだ…おしまいだぁ……逃げるんだ……!
「あっあそこにゴキブリが」
「えっ、キャァァァァァァァァァ‼︎!!!!!!!!
どこ⁉︎どこぉ⁉︎⁉︎捕まえてぇ!!!!!」
「お、お嬢様‼︎」
いまだ!
「
オレの唯一使える魔法。これで!
オレは
「イヤァァァァァア‼︎‼︎」
部屋は大混乱だ。すかさず逃走‼︎
「お、お嬢様!カモが逃げました!」
「捕まえるのよ!……ってヒャッ⁉ふ、︎服の中に入ってきたぁ!んっ、そこは……ああ……んっ……ガフッブクブク」
「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
……………………
…………
「ハァ、ハァ……ここまでくれば追ってこないか?」
それからというものオレは走り続けた。全速力で。5キロは走っただろう。
それにしても、異世界に来て臓器が売られそうになるとは思わなかった。
でもまぁ、腹は膨らんだし満足。あとは宿屋とかの金稼ぎをしないといけないんだよなぁ……
っておお!!!!!!500モル硬貨発見⁉︎ラッキーーーーー!!!!!
「すみません〜!このくじ引きたいんだけど」
「よっ、さっきの兄ちゃん!」
「500モルで5回分引かせてくれ」
「はいよ!」
ここはさっき剣を売って稼いだ金でクジをひいたところだ。ここでこの500モルを5倍にする……ッ‼︎
「ハズレ〜×5」
ああもう死にたいッ!せっかく拾った500モルすっちまった!
「クソッ!もう金がない……」
「……兄ちゃん、金欠かい?」
「そ、そうだけど……?」
「……無職かい?」
失礼な!……って事実じゃん……
「ああ」
「俺はてっきり冒険家だと思ってたぜ。兄ちゃん、若いんだから冒険家になりな」
その手があったか!異世界と言ったら冒険家とかギルドとかそんなので金を稼ぐんだ!
「冒険家はどうやったらなれるんですか⁉︎」
「おぉいきなり圧が……冒険家になるなら案内所に行きな。簡単な実技をクリアしたら冒険家になれる」
「簡単な……」
「ああ。兄ちゃんみたいに金に困ってるやつでもなれるように簡単な実技になってるんだ。その分、危険が伴う仕事だって言われてるぜ」
冒険家か……いや、なるしかないじゃん⁉︎よし行こう。
「ありがとうおっちゃん!」
オレは店主に挨拶して案内所へ向かう。
おっ、また100モル発見‼︎‼︎今日はツイてるな……
「ごめんおっちゃん!もう一回引かせて!_____」
………………
………
〜1ヶ月後〜
オレは冒険家になった。まだ駆け出しのFランクの冒険家だ。ちまちま金を稼いでなんとかやりくりをしている。
今日も案内所でオファーを受けに行く予定……だった。
朝はいい天気。どこまでも続く澄み渡った青い空。こんな日には気分が良くなるのは当然のこと。
フードを奥まで被った人が、フラフラと道を歩いていた。この辺では珍しくボロボロなその格好の人と、ぶつかってしまったんだ。
「あ、すんません」
とでも軽く謝っていた時、そのフードを奥まで被ったボロボロの人と目があった。
「あ、あんたは……あの時のカモ……?」
「ピンク髪の詐欺師!?!!!?!!???!」
なんでここに⁉︎こんな格好を⁉︎⁉︎
と、とりあえず逃げないと……!
そんな感じで軽くパニックになっているオレの袖を詐欺師は掴んだ。
「まっ、待って……!この間はごめんなさい……!謝ってすむことじゃないけど……あの、助けてください……」
「えっ」
パニックになるほど驚いたけど、さらに驚いた。
まさか謝ってくるとはな……それにしても一ヶ月で何があったらあのお嬢様が落ちぶれるんだ……?
とりあえず聞いてみよう。何かあったら逃げよう。
「何があったんだ……?」
「実は……父親が詐欺罪で捕まって、会社が倒産して……」
「詐欺罪?」
なんだ、親子揃って詐欺かよこの野郎。助けてあげようと思ったけど、なんだかなぁ……
「父親はくじ引きの店を趣味で出していたのよ。一回100モルのやつ。そこに現れた冒険家?と思われる人が30回近くひいたにもかかわらず、全部ハズレだったらしいの。それを近くの人が見てたらしくて……」
ってちょっと待って。30回近くひいて全部ハズレって、オレじゃね……?
「その店はどこでやってたんだ?」
「武器売り場の近くだったわ」
あー、オレだ。となると、あの店主はコイツの父親だったのか。
……ってオレの合計31回(3100モル)返せよ!
「私、食べるものもなくて……倉庫に置いてた非常食も全部アンタに食われちゃったし……」
あれ、オレがなんか悪いみたいな雰囲気になってね?
でもまぁ、非常食を全部食って逃げたのは悪かったし……
「と、とりあえず、これでも食べろよ」
オレは昼に食べようと思ってた弁当を渡す。
「ありがとう………………………あんまり美味しくない」
このガキャァ‼︎‼︎
「美味しくない……美味しくない……グスッ」
「え、泣いてんの?」
「な、泣いてないわよ!ただ、久しぶりにご飯が食べれただけで……」
最初はたたのクズ詐欺師かと思ってたけど、やっぱり人間の心を持ってるんだな。
「ふーーーー!美味しかっいや、不味かった!ごちそうさま!あんた、顔も性格もクズで気持ち悪いけど、なかなか良い所あるじゃない!」
「失礼だな⁉︎」
一言一言余計だわコイツ。
そして、今日は散々驚かされた一日だったけど、そんな驚きをも超えるような事を言い出した。
「よし、決めた!私、あんたについて行くわ!」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁあ⁉︎!!???!!!?!!?!」
後で気づいたんだけど、コイツ、金がないからオレの金で飯を食う魂胆だったんだな……
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