異世界転生したくて自殺してみた!

もゆう

第1話 よし、自殺すっか!

キーンコーンカーンコーン…………

「きりーつ、気をつけ、礼! 着席!」




カッカッカッカッ……

チョークが黒板に叩きつけられる音がする。黒板はみるみるうちに白や黄色や赤色でカラフルに彩られていく。


いや、コイツいろんな色使い過ぎてて逆に黒板が見ずらいんだよなぁ……

オレの名は出水いずみ悠斗ゆうと。まぁどこにでも居る変態高校生だ。


「えー、積分定数をCと置くことによって不定積分は……」


見ての通りクッソつまらない授業を受けさせられる毎日だ。つまらない授業を受けた後は部活、その後は家帰って、飯食って、大量の課題やって、風呂入って、寝る。そしてそれを繰り返す。自称進学校の1日はだいたいそんなもんだ。


「はい、じゃあ182ページの章末問題の大問2を……出水、解いてみなさい」


学校は楽しくない。バイトも不純異性交遊も禁止だし。まぁ彼女なんていないんですけどね。実はオレ、友達すらいないんですよ。悲しくなるわ。


「おい、出水???」


そんなクソつまらない毎日を送ってるオレの最近の密かな楽しみは、手軽に非日常感を味わえるラノベを読むことで________

「出水ィィ!聞いてんのかァァ‼︎」

「⁉︎!? ヒィィィィィィィィ‼︎! 聞いてます!!!!」

「ほぅ、ならば解いてみなさい」

「……どこを?」


やばい、何も聞いてなかった。あー、こりゃ先生ブチギレ確定やな。


「出水! お前は私をバカにしてるのかァァァン??」

「し、してません……フッ」


綺麗なハゲ頭に一本だけ生き残った髪の毛が、暖房の風に当てられて、まるで熱したカツオブシのようにくねくねと動いている。

もうちょっとで最後の一本も抜けそうだった。


「何笑ってんだよ! お前は私の話を聞いてるのかァァン????」

「聞ぃてまふよ……ブフッ」


やだめだ、耐えろ!絶対に笑ってはいけない‼︎


「お前あとで生徒指導室に来い!私をバカにしやがって」

「アーッハッハッハッハ!!!!! ヒャーッハッハッハwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


耐えられるかー!!!!


「お前ェェェェェエ!!!!!!!!!!!!!!!」

「ギャーハッハッハッハッハッwwwwwwwwwwwww」


……………………

…………


「あー疲れたー……」

結局2時間くらい怒られた。いや、オレは悪くないだろ。


で、そうそう、最近のオレの楽しみはラノベを読む事だ。異世界に転生したい。地位と名誉が欲しい。ハーレム作りたい。おっぱいに囲まれて暮らしたい。揉みたい。だっておかしいと思わないか?クラスには20人の女の子。1人2つ持ってるから合計40個のおっぱいが教室にはあるというのに、その一つにさえ触れれないなんて。


「そうだ! 転生しよう!!」


名案を思いついてしまった。

転生。転生するには死ぬしかない。ラノベでは大体死んでるし……でも苦しんで死ぬのは嫌だ。楽して死にたい。痛くないやつ、なんかないかな……


ただ異世界に行きたいから自殺するわけではない。毎日が死ぬほど暇なんだ。現代では科学が発展して現代人は時間に追われる。心を無にして仕事に奔走する。それこそ生きるしかばねみたいに。オレもその中の1人。だからこそ非日常に憧れる。


……てか、ただ死ぬだけじゃ多分異世界にはいけないな。異世界に行くにはトラックにかれるのが良いって本に書いてた。ラノベだけど。


一応、オレを轢いた人が罪に問われないように遺書をメールで書いておく。


「異世界に行くから自殺します。さよなら……っと」




ブゥゥゥン……


お、良い感じのヒノノニ○ン発見。あれで異世界に行くか!オレはいまから自殺をする!


ちなみにあのトラックは自動運転だから中に人は乗っていない。トラックの運転手がオレを轢いたことでトラウマになる…なんて事も防げる。オレの自殺の案はバッチリそういう所も考慮してあるんだぜ!!!


先に言っておくと、オレは親に捨てられて施設育ちだから、メールを送り先は施設の人くらいしかいない。

親はいない、彼女はいない、友達はいない……誰もオレが死んだところで悲しむ人はいない。


信号が青になり、ヒノノニ○ンはどんどん近づいてくる。そろそろ飛び出すか。


よし、ここだっ!

「僕は、死にましぇ〜________」


ドゴォォォォォオォォンン‼︎!!!!!!!!!!!


……………………

………


ん、んんぅ……何処だここ……?


「ハァ……ここは天界ですよ。出水悠斗さん。あなたは死にました」

「ん??????」


天界?夢か??いやほっぺた痛い。……てことは異世界転生ものによくあるアレか⁉︎ アレだな⁉︎ マジで転生できたのか⁉︎⁉︎

あのつまらない日常から抜け出せると思うと、オレはこの上ないほどテンションが上がっていた‼︎!


「あなたほどバカな人は見たことありません。

……で、そこまで異世界に行きたいんですか?」

「そりゃぁ行きたいに決まってるじゃないですか!」

「あぁそうですか……」

「どうかお願いしますぅ神様ぁ!! 異世界につれてってくださいよぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

「うわぁ……」


頼んだだけなのに神様にひかれた。車にひかれたばっかなのに。

まってこのままじゃ異世界行けないかも⁉︎とりあえず、もっと頼むしかない‼︎‼︎‼︎


「神様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! うぅぅぅおおおおおねぇぇぇぇぇぇぇぇえがぁぁぁぁぁぁぁいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃしぃぃぃぃ」

「もういいです! 気持ち悪いのでさっさと行きなさい!」

「よっしゃー!!」





というわけでオレ、異世界に転生します。ラノベでは力はいらないとかカッコつけてるやつもいるけど、やっぱり地位、名誉、権力!酒!! 女!!! 全部欲しいよな!!!!


「では転生させます。体を一から作るのはめんどくさいので、そのまま転移のような形になりますが、よろしいですか?」

「大丈夫です!」

「では……輪廻転生リライフ


コォォォォォと体が光り始める。


「ありがとうございます神様! これでオレも異世界に……!」

「話しかけないでください。不快ですので」

「酷くないですか⁉︎」


光っていた体が透明になって消えていく。魔法が完了するようだ。


「……あれっ? 術式間違えた……?」

「えっ?」

「ごめんなさい、術式間違えちゃいました。なんか敗北者スタートになるっぽいですね」

「は?」


えっ? は? は?? ちょっと待って神様、敗北者スタートって何? それ絶対やばいやつですやん?????

なるっぽいって何だよ!


「あなたが気持ち悪いせいですね。まぁ、あなたの念願の異世界なので感謝してくださいね」

「はぁぁぁぁぁぁ!?!!??!?!!?!??」


あぁ……体が消えていく……!!


「行ってらっしゃーい!」

「ふざけんなーーーーーー……………_________」


……………………

………


「おぉ、勇者様……!」


ここは……どうやら魔法が完了したようだ。

で、この人オレ見て勇者様って言った? 敗北者スタートじゃなかったっけ???


「勇者様‼︎ここは“中央都市テルース”という国でございます!我が国はまもなく悪魔との戦争が始まります!! どうか我が国をお救い下さい!!!」


聞き間違えじゃない‼︎‼︎‼︎‼︎ 勇者様って言った‼︎‼︎オレに勇者様って言った‼︎‼︎ キタコレ!!!!!!!!!!!!!!!!


「オ、オレが勇者………………⁉︎」

「あ、いえ、隣のかたです」

「えっ」


慌てて指をさされた方を見る。そこには男性がいた。

えー、恥ずっ。10秒前のオレを殴りたい。


隣の男は状況を読み込めてないのか困惑している。

「……で、何で俺を呼び出したんだ?」

「えっ、えー先ほども言った通り、我が国はこれから悪魔との戦争がありまして……」

「……なるほどな、そのために勇者の力が借りたいと」

「その通りでございます」

「で、何で呼び出したんだ?」

「あの、だから……」


????????

こいつバカなのか……?ナチュラルバカなのか?

その後5回くらい説明があった。どうやらただのナチュラルバカだったようだ。


召喚士はオレを見て言う。

「そして、アナタはどちら様で?」

「オレが知りたいんだけど」


何この気まずい雰囲気。学校でよくある『二人組になって話し合って』でお互いに残った人同士で組んだみたいな微妙な緊張感。


「……とりあえず勇者様には魔力総量を測ってもらいます。勇者様じゃない方の人にも一応受けてもらいましょう」

「わかった」

「了解した。で、今から何をするんだ?」


コイツゥゥゥ!!!!!!!! 悪意ないのが余計にムカつく!!!!!!


……………………

………


この勇者、名前は黒飛大地というらしい。現世では剣道をやっており、全国大会を優勝していたとかなんとか……


「それでは、お二人の測定を開始します」


ブゥォォンとゲームのウィンドウみたいなものが表示される。


まずは勇者様から。(読み飛ばし可)


【名前】黒飛くろとび大地だいち

【職業】勇者

【属性】闇

【スキル】

黒飛流捌式くろとびりゅうはっしき〟類稀なる剣術により敵を倒す

“壱式・渡鳥わたりどり

“弐式・鰹鳥かつおどり

“参式・大道走おおみちばしり

“肆式・椋鳥むくどり

“伍式・笹五位ささごい

“陸式・鴕鳥だちょう

“漆式・扇鷲おうぎわし

“捌式・八咫烏やたがらす

万能耐性

身体強化

万能特化

勇者化

収納魔法アイテムボックス・特大

鑑定ステータス

【魔力総量】845612


「おぉ凄い!さすが大地様!魔力総量が桁違いです!!」

「それは良いことなのか?」

「はい!とても良いです‼︎」


召喚士もだいぶコイツへの説明が雑になってきた。扱い方がわかったんだろうな。


そしてオレの番だ。


【名前】出水悠斗

【職業】異世界人

【属性】無

【スキル】

収納魔法アイテムボックス・極小

【魔力総量】18


……えっ。何この雑魚ステータス。収納魔法アイテムボックス・極小ってなんなん?極小って。

ていうか魔力総量1???????????


「それに比べて悠斗様、あなたは魔力総量が18しかありませんね。幼児ですら100はあります。はっきりいって無能、カスです」

「言い過ぎじゃね⁉︎」

「ということで、あなたは出ていって下さい。かといって転移したのはこちらのミスでもありますので……余り物の剣だけ差し上げます」


ひでぇ。扱いが酷すぎる。


「おい、ちょと来てくれ」

「はい、大地様!!_____あ、悠斗様、お出口はあちらです」





…………てな感じでオレは無一文で剣だけ、魔力18という人生が始まった。あぁ、敗北者スタートってそういうことなのな……


でもオレはめげない。異世界に来た目的……ハーレム!権力!! 名誉!!! 念願の異世界、オレはここで楽しく暮らすぞ!!!!

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