◆後編◆
まずは近所の和食レストランで軽く腹を満たしてから、行きつけのバー“TRABULANCE”へと赴く。
「僕はいつものダイキリを……愛莉は?」
「今日は寒いし、何か暖かいもの──そうね、グレッグをいただこうかしら」
ふたりともさして酒飲みというわけではないが、やや時代遅れとも言えるこの店の雰囲気がなんとなく気に入っており、しばしば訪れるのだ。
そのままカクテルグラスを前に、他愛もない世間話(もっとも傍から聞いていれば十分甘いカップル特有の雰囲気が漂ってはいたが)をして、しばし時を過ごす。
1時間あまりでバーから出ると、そのあとはどちらかの家(ただし、愛莉は実家住まいなので、たいていは一人暮らししている大河の部屋)に連れ立って足を運ぶのが常だった。
そして、交際している成人カップルが、他方の部屋を訪れたとなれば……。
「大河くん♪」
ソファに並んで座り、しなだれかかってきた愛莉の身体を抱きとめると、大河は、唇を重ねた。
唾液を舌で送りあう、お互いの脳をとろけさせるような甘い口づけ。
吐息を交え、唾液を混ぜ、舌を絡め合う。
そのままソファに押し倒したい衝動をグッと堪え、青年は恋人の身体を両手で抱き上げた。
168センチ52キロという女性にしてはかなり大柄な愛莉の体格も、180センチを軽く越える長身と大学時代に登山部でそれなりに身体を鍛えた大河の手なら、軽々と持ち上げることができる。
また、愛莉の方も、今の自分が“女”であることを実感させてくれるこの「お姫様抱っこ」の体勢が、ことのほかお気に入りだった。
リビングに隣接したベッドルームまで愛莉を抱っこしたまま運ぶと、丁寧な動作でベッドの上に彼女を下ろし、横たえる。
「んんっ……」
そのままいったん身を起こそうとした大河を、愛莉の方から腕を伸ばして首に抱きつき、再度深いキスをねだる。
しばしの後、チュバッと音を立ててふたりの唇が離れたところで、大河が悪戯っぽい目付きで彼女に囁いた。
「前から思ってたけど……愛莉って、さ」
「? 何かしら?」
「こういうことに関しては、やけに積極的だよね」
「あ……」
どちらかと言うと冷静で落ち着いた印象の強い愛莉の顔が真っ赤になった。
「ご、ごめんなさい。でも、その……シているとき、とても気持ちよくて、貴方くんとつながると、とても幸せで……」
しどろもどろに言い訳していた彼女の表情が不意に曇る。
「やっぱり、はしたない女は、嫌い……?」
気弱げに視線を逸らした愛莉を腕の中に抱きかかえ、その頬に口づける大河。
「僕だって、シているときは天にも昇るほど気持ちよくて、愛莉とひとつになれるのは、この上なく幸せだよ。ホントなら毎日だって、そうしたいと思ってるさ。こんなスケベな僕は嫌かい?」
「いいえ。大河くんとなら、毎日でもかまわないわ」
フルフルと首を横に振る愛莉。
「そういうこと。結局僕らは似た者同士で、お互いのことが大好きなんだから、気にしなくていいよ」
優しく背中を撫でると、ブラウス越しに指先に愛莉のブラの金具が当たった。
その感触が、青年の感情を愛情から欲情へとシフトさせ、彼の腕の中でうっとりと感慨に浸っている愛莉の身体の上を、大河の指先が巧みに踊り、瞬く間にボタンを上から下まで一気に外してしまう。
「きゃっ! もぅ、手が速いんだから……」
完全にボタンを外しきった服は、留まる場所を見失って愛莉の肩から抜げ落ちそうになっていた。いわゆる半脱ぎというヤツで、その格好は大河の中にくすぶる漢の浪漫心を大いに刺激した。
「ね、もう一度キスを頂戴」
頬を上気させた愛莉が、上目遣いに口づけをねだる。
艶々と紅く色づいた唇を深く吸うと、彼女が身じろぎしたのに合わせて、ブラウスが肩からすべりおちる。スレンダーなボディラインを形作るサーモンピンクのロングブラと、その中に収まっている小さめながらも形の良い乳房が外気にさらけ出された。
「ん……ちゅ、ば……んんっ、はぁ、む、んはぁ……!!」
声とも吐息とも聞き取れない、舌の絡み合う熱いベーゼの音が交わされる。
大河が愛莉の唇に覆いかぶせるようにして激しく唇を貪る。
彼の唇から、いつも以上に多めの唾液が注ぎ込まれて、愛莉はそれを夢中で飲み込む。その甘美な味わいは、媚薬のような艶かしさをもって、彼女の頭の中の真っ白に染め上げていった。
ほんの短時間だが、ふわふわと意識が混濁状態になる。
やがて、現実の感覚が復帰したとき、愛莉は大河の手で、下腹部を覆う下着以外の全ての服を脱がされていた。
「や……見ないで、大河くん」
「どうして? 愛莉の裸身(はだか)、とても綺麗だよ」
「だって……わたし、胸が小さいから」
そう言えば、確かに大河がキチンとした明かりの下で愛莉の乳房を生で見るのは初めてかもしれない。
アンダー77のBカップは確かに巨乳とは言い難いが、適度なハリと柔らかさ、そして何より吸いつくような肌の感触が、とても心地よい。
「そんなの関係ないさ。僕は愛莉の胸だからこそ触りたいんだから」
手を伸ばし、指でなめらかな肌を撫でながら、掌を徐々に移動させ、乳房の先端にある頂きを軽くかすめる。
「ひぁんっ! た、たいが、くん……そんな、ふうに……むね、いじられ、たら、感じすぎる……」
「愛莉は相変わらず胸が弱いね。でも、そんな君の可愛いおっぱいが大好きだよ」
そのまま胸を中心に攻め続けていると、愛莉は息も絶え絶えになって、大河にしがみついてきた。
「あぁ……乳首、ダメ、いじっちゃ……ふぁあああんっ!」
甲高い声の調子からして、どうやら胸だけで軽くイッたようだ。
「ご、ごめんなさい。わたしだけ気持ちよくなってしまって……」
僅かに呆けていたものの、すぐに我を取り戻した愛莉が申し訳なさそうに謝る。
「いやいや。別にいいよ。可愛らしい愛莉が見られたからね」
「も、もぅっ♪」
ちょっと怒ったふうに愛莉は眉を吊り上げて見せるが、喜色に溢れたその眼差しからは、嬉しさが隠しきれていない。
「その……お返しってわけではないけど……今日は、大河くんの好きな体勢でシて、いいわ」
すでに何度も肌を重ねた仲だと言うのに、未だ恥じらいと初々しさを失わない愛莉の様子を好ましく思いつつ、大河はせっかくなのでお言葉に甘えることにした。
「じゃあ、後ろ向いて」
「──はい」
一瞬の逡巡の後、愛莉は、ベッドの上で大河に尻を向けて四つん這いになった。
今日の彼女の下着は、ブラとお揃いの薄桃色のショートガードルだ。
紐パンやTバックのショーツなどに比べると露出度は格段に低いが、反面、それらとは異なる独特の大人の色気を感じさせる。
(厳重に隠されている秘密の場所を暴くって感じで、これはコレでいいかも)
などと、微妙にフェチっくなことを内心考えつつ、大河は彼女のガードルを膝の真上くらいまでずらした。
程良く丸みを帯びつつ、キュッとしまった形のよいヒップと、剥きたてのゆで卵のような白く柔らかな肌は、大河の興奮をさらにヒートアップさせる。
きめこまかでなめらかな双つの尻肉の肌の質感を掌で堪能しつつ、両脚を押し開くと、その間には女性特有の大事な部位が秘められていた……。
……
…………
………………
ややもすると本人すらその事を忘れそうになるが、本来、「この」宮江愛莉は生物的には♂として分類されるべき存在だ。
しかし、先だって懲立場刑の永久継続を望んだ際に、愛莉と白波の双方に担当官から特殊な性転換手術の打診があった。
それは──両者の性器及び生殖機能の交換移植手術。
現在密かに研究が進んでいる人工多能性幹細胞の技術を応用したもので、簡単に言えば、摘出した臓器の表面を双方の遺伝子を交えて培養されたキメラ的細胞の“膜”で包み込むことで、移植後の免疫拒絶反応を極力低下させるという手法……らしい。詳細な説明は愛莉にもチンプンカンプンだった。
本来なら莫大な費用のかかるオペではあったが、未だ試験段階の術式──つまり、ある種の実験台でもあるということで、こまごました入院費用以外は、今ならほぼ無料で受けられるという。
ふたりは、互いのパートナーの了解を得たうえで、承諾書にサインをし、都内某所の大病院に入院。半月後に退院した時には、白波は陰茎と睾丸、愛莉は子宮と卵巣と女陰を持つ身となっていた。
術後の経過も良好で、退院した1週間後に白波には精通があり、それから遅れること10日後、愛莉にも初経が訪れている。
おかげで、ふた組のカップルは、妊娠出産も視野に入れた性生活を送ることが可能となったのだ。さらに女性ホルモン分泌の影響か、愛莉は胸も少しずつ膨らみ始め、この年末には「成人女性としてはやや貧乳」と呼べる域まで成長していた。
………………
…………
……
「ぁぁぁ、だめ、たい、が……いっ、しょに……ぁぁ、ぁぁぁ……わたし、も、すぐ、いく、から……ふぁぁ、あっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」
「くっ……あいり……僕も、イキそう、だ……」
「ああ……っ、いいの……そのまま、中にっ!!」
愛莉の叫びとほぼ同時に、大河の限界が訪れる。
「……はぁ……はぁ……はぁぁ、たいがくんの、が、いっぱい、っぁぁぁ……っ」
うわごとのように呟きながら、愛莉の四肢から力が抜け、ベッドの上にうつぶせにくず折れる。
大河も、愛莉の身体の上に覆いかぶさるように倒れ込み、ふたりは一部で身体を繋げたまま、荒い息を吐きつつ、今日何度目かの熱い口づけを交わすのだった。
* * *
「そう言えば、二課の課長さん、今度結婚するんだって?」
何度かの交わりを経て、わたしたちは今、ベッドの上で並んで布団にくりまり、就寝前のピロートークを重ねています。
「ええ、式の日取り自体は、わたしは新婦の方から聞いていたのだけれど、会社にも正式に報告したみたいね」
そう言いながら、わたしは、暗に何かを期待するような目で彼の方を見つめました。
「──うん、まぁ、言いたいことはおおよそわかってるから。そうだなぁ。来週末に愛莉の家にお邪魔した時にでも、指輪を持って正式に申し込ませてもらうよ」
人差し指でポリポリと頬をかきながら、照れくさそうに、彼はそんな答えを返してくれました。
「! もしそれがわたしの予想通りなら……とてもうれしいわ」
ほんのり頬を赤らめつつ、わたしは、幸せそうに彼の身体に寄り添い、そのまま幸せな気分で眠りについたのでした。
* * *
かくして数日後、自宅に恋人を迎え入れた彼女は、宮江家の家族の見守る中、給料3ヵ月分の指輪とともにプロポーズを受け、うれし涙を流しながら受諾する。
さらに、半年後、純白のウェディングドレスをまとってバージンロードを歩み、その後は「志筑愛莉」として、幸せな結婚生活を営むことになるのだった。
-おしまい-
右の者、懲立場三年の刑に処す 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama
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