Disc.02 - tr.03『幽霊部員とアクションサウンドとRE-X』

「――まぁ、初心者がやりがちな誤解なんだがな」

 なんとなく講師役になっている響一郎の前に3人並んでそのご高説を拝聴している。

「レコードプレイヤーは本来、針から音を拾ってそれを電気信号として出力するだけなんだが、ここで1つ問題がある」

「問題?」

「レコードの針の形式はざっくり2種類に分かれるんだが、これがまたものの見事に互換性がないときた」

「互換性?」

「あぁ。代表的なのがMC(Moving Coil)とMM(Moving Magnet)。MCの方が古くからあるが、こっちは出力が小さい代わりに繊細に音を拾える。MMは出力がかなり大きく音もパワフルめだが、繊細さではMCに譲るかな」

「つまりボクがMCでミ…コロがMMか」

「ちょいちょーい! ヴィ…ポチってばそれ酷くね?」

 あ、惜しい! もうちょっとで名前言うところだったのに!!

「あとコストやら使い勝手の問題で、MCは高級機、MMは主に普及機から中級機が多い。MMは針の交換が簡単ってのもあるし」

「なんか訊いてる限りはMMの方がコスパ良さそうだね」

「ああ。それもあって、おそらく普通にその辺に出回ってるレコードプレーヤーは殆どMMだろうな」

「でも、それと音が出ないのと……あ、針が合ってないとか?」

「逆だ逆。針から出た電気信号ってのは仮にMMでも元々もの凄く小さいんだよ。で、そのまま他の機器に繋いでも音が小さすぎて雑音だらけになる」

「……それでさっきは出てなかったのか」

 ポチ嬢が納得したように呟いた。

「出てはいたが聞こえないレベルってこったな。で、プレーヤーをアンプに繋いでアンプからデッキに流すと――」

「――あー!! なんかメーターが動いてる!!」

 デッキを見ていたコロ嬢が嬉しそうに叫ぶ。姫カットの長い襟足が垂れ耳ワンコのようで可愛い。

「と、いうこった。このアンプのPhonoフォノってとこに繋げば、さっきの信号を増幅して他の機器に流してくれるんだよ」

「だがお兄ちゃん、これにはMCとかMMとか書いてないぞ。自動判別なのか?」

「アナログの機械でそりゃ無理だろ。何も無い場合は基本、MMだな。MC専用なんて相当昔のしか無いから」

「なるほど。あ、こっちのデカいのは両方書いてあるな。理解した」

 こっちのポチ嬢も無表情に見えてそれなりに楽しそうだ。


「さて、後はデッキのキャリブレーションすりゃ準備OKだな」

 そこで何故かニヤッと嗤う響一郎。……あれは絶対に悪巧みをしている顔だ。

「そこはに任せちゃおっかな~w」

 一瞬で血の気がさーっと引く真貴であった。(-人-)ナムー

 

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「と、兎に角!」

 体勢を立て直すべく真紅は言い募る。

「総会には諮って貰いたい。昨年とはまた事情も違うだろう?」

「同じでしょう?」

「それを君の一存で決めつけられるのもどうかと思うのだが?」

「ね~~ぇ、国楠く~~ん?」

「――はい?」

 意識外の日々希からの声掛けに一瞬びくっと反応した国楠だが、わざとらしく眼鏡の位置を整えると冷然と答える。

「せめて、会長さんと副会長さんにだけでも訊いて貰えないかしら~~」

 ほわんとしているが、実はコレが無自覚なトラップであることを誰も気付かない。

「それでも駄目なら~~今回は諦めるから~~」

 聖女の如き微笑みと天然モノのみが醸し出せる至高のあざとさ。真綿で首を絞めるようにじわじわとくる圧に、さしもの国楠も反駁に窮する。彼とて健全な男子高校生である以上、仕方が無いw

「……ま、まぁ、訊くだけなら……」

 日々希から目を逸らしてやっとそれだけ言うと、暫し黙り込んだ。

 後ろでソニアと真紅が日々希に抱き付いて喜ぶという、鹿苑木高校の全生徒が見たら尊さのあまり卒倒しそうな光景も、彼には見えていなかった。


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「こいつにはバイアス設定しか無いから簡単だぞ~」

「じゃ、じゃぁ、感度はっ!?」

「そもそもテープと同じメーカーだし、発売時期も近いからな。今回はNRノイズ・リダクションも入れないからまぁ問題ない」

「うぅ…でもこないだのと全然違うよぅ…(´・ω・`)」

「こーんなチビ共も健気に頑張ってるのになー?」

「チビだけ余計だこのノッポ(--#」

 とポチ嬢は文句は言いつつもコロ嬢共々、響一郎の企みに乗ってきた。

「お姉ちゃん……(இ﹏இ)」うるうる

「お姉さぁん……(இдஇ)」うるうる

「うぅ……わ、解ったからー! やりますー!」

 ニヤニヤ顔の響一郎を睨みつつ、泣きたいのはこっちだ、と真貴は思った。


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「……今日は生徒会室がえらく賑やかね?」

「ふむ? 何やら聞き覚えのある声だなぁ?」

 生徒会室の前で足を止めた2人の生徒。

 片方は中肉中背でアップに纏めた髪と生真面目そうな顔が教師めいた印象を与える女子生徒。

 もう片方は大柄で恰幅の良い、下手すると30代でも通りそうな老成した印象の男子生徒。

 2人は暫く扉の外から中の様子を伺っていたが――


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「そっちのモニター切り替えでテープの音と音源の音を切り替えながら、メーターの振れ具合が同じくらいになるように」

「でもって両方の音が同じように聞こえるか確認」

「最後に録音レベルを微調整して音が割れないように」

 響一郎の指示に四苦八苦しながらどうにかキャリブレーションを終えた真貴は、げっそりしながらその元凶に言った。

「……お、終わった……よ……」

「ご苦労w」あ、また嗤ってる!!

「でもさ、お兄さん、ここまで面倒なことやる必要あるの?」

「……どうせなら良い音で聴きたくないか?」

「そのための手間、ということか。奥が深い」

「そっか……お姉さん、」

「お姉ちゃん、」

「「ありがとう!!」」

 ぐふぁ!! な、なんという破壊力……もうなんかどーでもよくなった真貴は、いいのよー、などと笑い返す。

「お姉ちゃんがチョロ過ぎて逆に心配な件」

「お兄さ~ん、こりゃしっかり見ててあげなきゃだね☆」

「俺としてはお前らの将来の方が心配ってのを通り越して末恐ろしいわ……」


 さて、と響一郎は改めて2人に向き直り、

「ここまで見てきたんだ。仕上げはお前らでやんな」


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 前回に引き続き、尊さ炸裂です。べ、別に「尊い」言いたかった訳じゃないからねっ!!

 ワンコ2匹のそれは多分に意識的ですが、無意識に発動してる日々希が最強かも知れない(^^;


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【特報】


 時は21世紀、史上稀に見る未曾有の災害に見舞われたこの地球を陰から狙わんと蠢く悪の帝国――

 世界を蹂躙する猛威にすべての希望が潰えたかに思われたその時、敢然とそれに立ち向かわんと戦う者が現れた!!

 彼女らこそは地球最後の希望!! 今こそ較正こうせいせよ、キャリブレンジャー!!


 きゃりぶれ! Bonus Disc『劇場版 磁帯戦隊キャリブレンジャー! -出陣!!新たなる戦士-』 絶賛(?)公開中!!


 G.W.連続公開!!

 

 大参謀オングーロ、ブラック、ピンクの中の人は本編では今回初登場です。(おぃ)


 ※磁帯;カセットテープの中国語表記

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