Disc.01 - tr.09『新入部員とパプリカとUR』
「まっ、真貴さんっ、そちらは宜しくてっ?」
「はっ、はーいっ、カウント始めまーすっ!!」
今までの悪役令嬢っぷりとは裏腹に、やけにわちゃわちゃしているソニアとそれにつられてわたわたしている真貴。
ひと仕事終えて肩の力が抜けた真紅と日々希は方やニマニマ、方やニコニコしつつ渦中の2人を見守っている。
「…っ! 今日は何という日だ! わちゃわちゃソニアなどという激レアが見れるなど…っ!!」
「真貴ちゃんもウサちゃんみたいで可愛いわね~~癒やされるわ~~」
前言撤回。面白がってるだけだわこれ。
「そんなに肩肘張ってると疲れるぞーw」
至極どーでもよさげに声援(?)を送る響一郎。こいつもニヤニヤしてるな。
「……貴方たち、人ごとだと思って…っ」
涙目になりかけでジト目という高等技術で睨むソニア。いやそれ可愛いだけですから。
「そ、それじゃいきまーす!! 3! 2! 1!」
「ちょ! 早いわ真貴さんっ!!」
「ゼローっ!!」
ポチっとな。
ゴツくて重そうな外観とは真逆に、CDプレイヤーのボタンは恐ろしく軽い。が、確かに押したという手応えはある。
一瞬の後、その内部で微かに空気が振動する『ひゅんっ』という小さな音がするや否や、パネルに『01』の数字が点灯した。
「―えーいっ! お覚悟遊ばせっ!!」
なんとかデッキの
真貴はヘッドホン(崩壊寸前)を耳に当てつつデッキに見入るソニアを見ていたが、彼女は微妙に頬を紅潮させている。さっきのでまだ興奮してるのかな? とも思ったが、どうも様子が違う。
デッキの右上のバーグラフが上下で微妙なズレを出しながら動く様はこの機械が生きて呼吸をしているようにも見える。
中央部に装着されたテープは裏側からバックライトで照らされ、テープの回転する様子が見て取れる。あぁ、確実に動いてるんだ、という安心感が湧く。
魅入られたようにそれらを凝視するソニアの双眸は、それでいてその奥にあるもっと遠い別の何かを見ているように焦点が揺らいでいるようにも見える。
その幾分
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「――で?」
両腕を組んで悪役令嬢モード復活のソニア。尚、頬にはまだ朱が差している。ビスクドールのように白い肌だけに目立つことこの上ない。
「わざわざこれだけ録音したということは、聴けば判る、ということなのか?」
真紅が後を受け響一郎に訊く。
「ええ。まずはさっきのラジカセでどうぞ」
「おかわり淹れてきましょうね~~」
まだ飲む気ですか日々希先輩(^^:
先程のテープは両面とも録音が終わっているので、今は最初に録音したA面がスタンバイ状態。それをラジカセに装着し、再生――
「――えっ!?」
「あら~~!?」
真貴は一瞬、CDを再生してしまったのかと思ったが、回っているのは確かにテープだ。
簡易キッチンで紅茶を淹れていた日々希も驚いたのか、声を上げている
先程、デッキ担当だったソニアと真紅は予想通りだったのか、落ち着いていた。
それにしても――
さっきの音もあれはあれで良かったが、こっちはもう別次元だ。何というか、音の細やかさが全然違う。
ラジカセの音が太めの鉛筆で殴り書きしたデッサンとすれば、こちらは極細ペンの細密画。
「何というか、音のディティールからしてレベチだな」
「ええ。市販のミュージックテープと判別がつきませんわね」
「私はラジカセの音も嫌いじゃないけど~~」
ティーセットを携えて日々希が戻ってきた。今度はミントティーだ。
「それは俺も同感です。ラジカセの音はあれで独特の味がある」
「でもでもっ、なんでこんなに違うのっ!? 同じテープなんでしょ!?」
「そのテープの潜在能力を限界まで引き出すために進化してきたんだよ、カセットデッキって機械は」
「あれは確かにとんでもない機械だな。あのノブの滑らかさといい、粛々とした動作といい……」
陶然となって目を閉じる真紅。間違いない、メカフェチだこの人。
「確かにね~~テープ1本録るだけなのにもの凄く大仰だもの~~」
「アナログ機器は基本、物量が正義ですからね。電源トランスだけでも結構なサイズになる」
「むしろそこまでやってしまう執念が凄いですわね」
「そこは昭和日本の底力って奴ですか――で、次はこちらを」
響一郎は再び先程のデッキの前に移動する。手にはいつの間にかテープを持っている。
「実際にこいつを録った機械で聴いてみて下さい。それが答えになると思いますよ?」
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