Disc.01 - tr.08『新入部員とパプリカとUR』

 響一郎はその後、どこからか持ってきたボロボロの古いヘッドホンをカセットデッキに繋ぎ、CDとカセットをあちこち弄り回していたが、

「じゃ、録音レベルは取り敢えず合わせましたんで、どうぞ」

「ど、どうぞ、って言われても……」

「ボタンにさっきのラジカセなんかと同じマークが付いてるから判るだろ。こいつは万国共通だぞ」

「要するにさっきのラジカセとホータプルCDがこっちの巨大な機材に変わっただけ、ということか」

「そういうこってす。心配なら音も出ますよ?」

 そう言ってボロボロのヘッドホンを真紅に渡そうとする。ケーブルが昔の電話機のようにカールしておりぷるんぷるんと撥ねている様はユーモラスなのだが。

「う、うむ……」真紅は軽く引いている。

「ちょ、雨音くん!! 女の子にそれはダメだよー!!」

 真貴が遮ってポケットから取り出したウエットティッシュでヘッドホンを拭き始めた。

「あ、待て待て、そんなに手荒にすんな、イヤーパッドが劣化で限界なんだよ!!」

「うわ、ホントだ。どーしよーかコレ」

「後で交換すりゃぁいい。部品代くらいありますよね、会計さん?」

「部費はあるけど~~高いの~~?」

「1個千円台ですよ。元が業務用なんで頑丈で部品も安いし交換も楽なんです」

「ここまで傷んでいては流石に捨ててしまった方が宜しいのではなくて?」

「今買っても2万円近くするんですがねコレ」

「「「「!!!!」」」」

「2千円ちょいでその値段のヘッドホン買うか、こいつを直すか、どっちがいいと思います?」

 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべて響一郎が問う。ソニアが悪役令嬢ならこちらは腹黒悪魔メフィストフェレスだ。

「会計としては~~それ聞いちゃうと~~捨てろとは言えないわね~~」

「んじゃそれは後ほど。直るまでは我慢してもらいますが」

「よし、では私がテープを。ヒビキ、CDを頼む」

 業務用、というワードを耳にした当たりから気のせいか真紅の目が妙に生き生きしている。

 そうして操作を開始した2人を眺めていた真貴は、真紅が装着したヘッドホンに妙に既視感デジャヴを感じていた。


 A面の録音、終了。

「で、ここからが本題。キャリブレーションします」

「きゃり……?」

「キャリブ……なんですの?」

「calibration――較正こうせいのことか?」

「流石~~真紅ちゃん~~理系女子リケジョクイーン~~」なんだその綽名。

「それで合ってますよ。ちょっとやってみます」

 響一郎はテープをB面にして録音状態にすると、デッキの向かって右下側にある小さいつまみを細かく調整し始めた。つまみの上にあるメーターパネルでは、上下二連のバーグラフが細かく振れている。やがて、不揃いだった二連のバーが綺麗に並ぶ。

「これでキャリブレーションは完了」

「これは……一体、何をしたのだ、今?」

「メーターがぴこぴこ動いて~~最後に揃ったわね~~」

「あれは、上が元の音で下がテープの音ですね。それが同じレベルになるように合わせたんです」

「同じ…って、そもそもなんでそんなにズレてるんですの?」

「テープの種類なんて~~そんなに無いのにね~~」

「昔は膨大にあったんですよ。つっても俺も生まれるずっと前なんで聞いた話ですが」

「このデッキとやらもその時代の製品、ということか」

「ええ。――で、数多あるテープから特定の奴を基準にして、そのテープで録った時に元の音とほぼ同じになるように調整されてますから」

「それ以外のテープだと微調整が必要、ということですわね」

「そういうこってす。しかも今のテープはその頃のテープの中では最低ランクの代物なので、尚更ね」

「知れば知るほど奥が深いな……」真紅先輩、目が怖いです。

「と、いうことで」またしても悪魔の笑みを湛える響一郎メフィストフェレス

「お次はそこの2人でどうぞ?」真貴とソニアを見てニヤリ。

「「……」」こいつ絶対ドSだ!!と思った真貴とソニアだった。


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はい、やっとこさタイトルの"calibrate!"に辿り着きました。

ドラマなら初回2時間SPのここまでがアバンタイトルでここでタイトルどーん!!って辺りです。

ところで、真貴が見覚えのあると思ったおんぼろヘッドホンは何でしょう?

きっと読者諸賢にも見覚えがある筈です。この頃流行のFirst Takeとかね……?

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