Disc.01 - tr.07『新入部員とパプリカとUR』
「そもそも基本がなってねぇ!! 経年劣化や故障はともかく、ホコリは被りっ放し、無造作に積み上げ放題、使わないにしても最低限やるこたぁあるだろうがよ!!」
「だぁーから、貴方も先ずその上からの物言いを改めなさいと言っているのよっ!!」
「落ち着けソニア、このままでは平行線だ。あと雨音、君の言いたいことも解るが、もう少し言い方をだな」
「ケンカはダメよぉ~~」
先程からの響一郎とソニアの口論は止まることを知らず、真紅と日々希の仲裁も全く功を奏していない。
真貴は為す術もなくひとりあたふたしていたが、ふと、音楽でも流せば落ち着くのではないかと思い立ち、ラジカセに手を伸ばす。
――みんな大声だからヴォリュームは大きくした方がいいよね。えーっと、切り替えはこれだったっけ……?
その途端。
――!!!!!※&〆!!#★*!!¥$☆!!!!!
耳を
どうも手当たり次第に動かした結果、ラジオに切り替わってしまったらしい。しかもチューニングが合っていないため、所謂ホワイトノイズという砂嵐状の非常に耳障りな雑音が最大音量で流れてしまった。
自分でやっておいて驚いた真貴は思わず耳を塞いだが、期せずして怪我の功名。先程まで喧々囂々の体の4人もあまりの騒音に耳を塞いだため、結果として舌戦は一時中断を余儀なくされたのだから。
響一郎がすぐさまセレクタを切り替えて騒音は止まったが、一同、イロイロと疲労が重なりぐったりしている。先程まで大声で捲し立てていた2人も流石にすぐさまそれを再開する気力は残っていないようで――。
「それじゃぁ~~」
ぼん、と手を打って日々希が宣言する。
「一時休戦、ということで~~、お茶にしましょう~~」
なんというか、この人がある意味最強なのではなかろうか。
「こういう時には~~カモミールかしらね~~」
さっきまでの喧噪もどこへやら、実に楽しそうに茶葉を入れ替え始めた。
そんな日々希にすっかり毒気を抜かれた一同、今度は温和しく席に着いた。
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慣れない人には癖の強いカモミールを同量のセイロンとブレンド。あとミルクと砂糖は好みで。蜂蜜もあるわよ~~。
日々希の説明を受け、真貴はミルクと蜂蜜を入れてみる。カモミールが先程まであたふたしていた神経を落ち着かせ、そこに蜂蜜とミルクの絶妙な甘さが沁み渡り――。
――待て、何か大事なことを忘れているような!?
夢心地からはたと真貴が我に返ったその時。
「――さて、雨音」
真紅が落ち着いた様子で響一郎に問う。ここだけ見ると
「一先ず君の言い分を聴いておこう」
ソニアが何事か言いかけるが、そこは眼で制する。
「――言い分も何も、」響一郎が憮然と答える。
「活動方針がどうとかの前に、そもそもやるべきコトをやれ、ってだけですよ。運動部の連中だって道具の手入れくらいはやるでしょう。ましてやこちとら精密機械が相手なんだ」
「
「なんか見たことも無いスイッチとかボタンとかいっぱい付いてて~~訳が解らないのよね~~」
「部室の奥な、倉庫になってるが、奥が深くて見え無ぇ。ありゃぁ確かに
ちら、とソニアを見て口角を僅かに上げたのはどういう意味か。昼間も出てるし――と呟きが聞こえたような気もしたが。
「俺の見る限り、大体は動くと思いますよ。てかそのラジカセとポータブルCDはよく動かせましたね?」
「私のクラスの担任が昔使ってたのと似た機種だったようで、なんとかな」
「それすらも運が良かったとは思いますが――例えば、そのポータブルCD」
ちら、と青いボディのややチープにも見えるCDプレイヤーを見て、響一郎は独りごちる。
「アイワのXP-80Gか……CD全盛期の全部盛りお買い得モデルだが、カラオケ対応だったのが幸いしたのか」
「どういうことだ?」と真紅。
「そのモデル、当時出ていたCD-
「ほぅ、そんな面白い機能が」興味津々の真紅。
「まぁ、その機能自体はDVDや通信カラオケが普及するまでのつなぎみたいなモノで短命に終わってますから、対応CDなんてドフの青箱でも探さにゃ無いでしょうが――重要なのはTVに繋いで音出すためにライン
「それが?」
「端子の形も同じでどちらも音は出ますがね、そもそもラインとイヤホンじゃ出力の大きさが違うんですよ。だからイヤホン端子しか無い普通のポータブルCDだと、そのラジカセじゃ音も小さくなって雑音だらけで聴けたもんじゃなかったでしょう。試しにイヤホンから音を出してみるといい」
そう言われた真紅が早速ケーブルを繋ぎ直し、別のテープに同じ曲を録っている。結果は――
「――うむ、確かにこれは酷いorz」
「電波の悪いラジオみたいね~~(^^;」
「流石にこれは聴けたものではありませんわね……」
「音がざーざー言ってる……」
そんな彼女たちを横目で見ながら、響一郎がぽつりと言った。
「――だから、勿体ない、と思うんですがね。あれだけの宝の山を埃被らせたままで」
「「「「――!!」」」
今までの乱暴さとは真逆のその哀しげな様子に、4人は一瞬、息を呑む。約一名ほど頬が
「――君なら、その宝の山とやらを生かせる、ということか?」
「少なくとも使い方は解りますよ」
不意に彼は立ち上がり、手前の機材の山に近づいていった。そこに積み上がった機材のいくつかのスイッチを押していく。
「この組み合わせなら大丈夫か――さっきのCDと空いたテープを持ってきて下さい」
彼が電源を入れた機材は、よく見ると片方がCDプレイヤー、片方がカセットデッキ。どちらも巨大だ。横幅は優に40cmを超え、家庭用のHDDレコーダーはおろか、真貴の祖父母の家にあった昔のビデオデッキよりも更に大きく、それに重そうだ。
「ケーブルは繋がってましたから、CDとテープはそれぞれの機械に。電源と開閉ボタンは判りますね?」
当然、と言うように頷いてソニアと真紅がそれぞれの機械にセットする。さっきのラジカセもだったが、こちらの機械も動作の滑らかさが半端無い。殆ど音も無く静かに開き、静かに閉まる。高級ホテルや外国の貴族のお屋敷みたい、と思ったのは大袈裟に過ぎるだろうかと自問するほど真貴はその動きに魅入られていた。
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