Disc.01 - tr.06『新入部員とパプリカとUR』
♪曲がり、くねり、(オトナの事情により以下略)~
先ほど録音した『パプリカ』がラジカセから流れている。
冷や汗だらけの真貴を見かねて日々希が淹れてくれたアイスレモンティを飲みつつ、流れてくる音に耳を傾ける。
録音している最中はCDの音がそのまま出ていたため、多少迫力は増していたものの聞き慣れた『パプリカ』の音だった。
だが、今、流れているこれは――。
「う~ん……まったり……沁みるなぁ……」
先ほどの(主に精神的な)疲労もあってか、テーブルに半ば突っ伏して聴いていると、なんとなく癒やされるような、いや、
先輩トリオもやや呆けたように聴き入っている。
「この、程好く丸まった感じが……」へにゃぁ、という感じの激レア状態なソニア。
「カセットテープ・コンプはやはり現物で聴くに限る……」寝落ち寸前の真紅。
「あぁ~~もうこのまま寝たいわ~~」ほぼ平常運転な日々希。
やがて、A面が終わりラジカセがガチャッと停止すると、テープを裏返しながら真貴は真紅に訊ねた。
「あのー……さっき仰ってた"何とかコンプ"って何ですか?」
「カセットテープ・コンプ……コンプはコンプレッション、すなわち圧縮だな」と真紅。
「圧縮?」
「カセットテープは元々、会議の録音とかに使うために開発されていたので、音質は実はあまり良くなかった」
「あ~~んな細いテープに録音するんだものね~~」
「で、そのために上と下の音域を程々にカットして…丸めて、聴く時に収まりが良いようにされているらしい」
「上と下をぎゅっと縮めるから『圧縮』ですわね。人間の耳は人の声に対する感度が最も敏感と言いますから」
「だから~~元の音よりは~~ちょっと丸くなると言うか~~ふんわりぼんやりした感じ?、になるのよね~~」
「それがある意味音をまろやかにする作用になり、――そこに惹かれるッ!!癒やされるッ!!」
突然立ち上がり叫びだした真紅にビクッと子猫のように反応して、真貴はすっかり目が覚めてしまった。
「ミュージシャンにはわざわざ完成した音を敢えてテープに通してそういう効果を狙う向きもあるようね」
「デジタルでも類似効果のフィルタはあるのだが……やはりそれでも、"生"には及ばない、と思う」
「まぁ、こういうレトロな雰囲気も込み、っていうのもあるしね~~」
「トイカメラの写真みたいな感じ、ですね」
「うむ、良い例えだな。確かに通じる所はある」
「ねぇ~~新歓も兼ねて撮影会しましょうよ~~私、ロモ太郎持って来る~~」
「ならば私の通りすがりのBBFの出番だな」
「では
ちょ、ちょっと待て。ここって写真部でしたっけ、先輩方!?
あまりの急展開に付いて行けずにあたふたする真貴は、そう言えば雨音くん、何処行ったんだろう、とはたと思い出した。
こっちが悪戦苦闘してる最中、奥の機材の山の中でごそごそやってたような――
「――こりゃ廃部寸前にもなる訳だ」
その響一郎がゆらり、と幽鬼のような体で現れた。
毛髪の天パーの隙間や真新しい制服のそこかしこに埃が付いている所を見るに、やはり部室奥の倉庫で何かやっていたらしい。
「雨音くん!! もー何処行ってたのよー!!」
「貴方、埃だらけですわよ。そこでいいから落としてらっしゃいな」
「レモンティ入ってるわよ~~」
「――だからこんなんじゃ全然駄目なんだよ、あんたら!!」
突然、火が付いたように叫び出した響一郎に、弛緩しまくっていた空気がピシリと凍り付く。
「機材は埃だらけで最低限の手入れもされてない!! そもそも殆ど使われた形跡すらない!!」
「あ、雨音くん……?」
「まったり音楽鑑賞も結構、寝落ち上等、だがなぁ」
「お、おい、急にどうした雨音」
「それでも最低限、やるべき事はあるだろう!! あれじゃ機材が可哀想だ!!」
「ぬわぁーんですってぇーっ!!それが先輩に対する態度かしら!?」
立て続けの罵詈雑言にぶちキレたソニア、悪役令嬢モード顕現。
先の発言に一瞬顔色が変わった真紅と日々希だが、ソニアがキレたため、逆に冷静になる。
「だから落ち着け、二人とも」
「ケンカは駄目よ~~」
そこから先は怒り心頭の響一郎とぶちキレ状態のソニアが怒鳴り合い、それを真紅と日々希が必死に制止したり宥めすかしたりのスパイラルで、普段は山奥のように静かな筈の部室が喧噪に満たされている。
えええええーーーーーっっっっっ!!!!!
……どうしてこうなった!?
眼前で突如として始まったバトルに真貴は混乱してその場に立ち竦むしかなかった。
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ここでやっとこさ冒頭シーン回収。な、長かった……orz
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