Disc.01 - tr.04『新入部員とパプリカとUR』
「……あのー、それで」真貴がおずおずと訪ねる。
「具体的に、何をするんでしょう、電音部の活動って?」
「ちなみに、例えば今日は何をする予定だったんです? 俺たちが来なければ」と響一郎。
「……そ、そうだな……今日は……」何故か目を逸らす真紅。
「……え、え~~っと~~そうねぇ~~」困ったような顔で口籠もる日々希。
「だからあれほど
「さっきのメタな説明だと、"音響機器の研究と音楽の鑑賞"ということ、ですが?」
言葉を切った響一郎がぐるりと部室内を見回して、
「機材はあちこちにありますねぇ。で?」まるで尋問中の刑事のように睨め付ける。
閉じた両目をヒク付かせながら冷や汗を垂らしていた真紅が更に冷や汗を垂らす。
目は笑っているが口元は明らかに引き攣っている日々希が、やがて諦めたように、
「ねぇ~~もぅ、いいんじゃなぁい~~」と白旗を挙げた。
「お、おい、ヒビキ!!」と焦る真紅。
「ちょ、お待ちなさい、それでは示しというものが……」止めるソニア。
「だってぇ~~今更、取り繕っても仕様がないわよ~~」と立ち上がる。
やがて、戸棚からティーセットを出した日々希は、卓上にそれを手際よく人数分並べて、先程、真貴たちに注いだティーポットに電気ケトルのお湯を注ぎ足した。紅茶のいい香りがふんわりと漂う。レディ・グレィか、と響一郎が呟いた。
「はいは~~い、みんな座って座って~~!!」
ぱんぱん!!と手を叩く。まるで保育士だ。私たちって園児?とふと真貴は考えてぷるぷると首を振った。隣で響一郎が怪訝な顔で見ていることに気付き、赤面する。
日々希の謎の気迫?に圧されるように一同は席に着く。ソニアはまだ何事かぶつぶつ言っており、真紅は冷や汗が止まらない様子。
「それじゃあ~~いつもの活動を始めましょう~~あ、二人とも~~お茶は適当に頂いてね~~」
「や、やはりやるのか、今?」最後の抵抗を試みる真紅。
「あぁもぅ解りました!! これも日頃の行いの報い。宜しいですわ!!」叫ぶソニア。
彼女は卓上に据えれた大ぶりな-学生鞄くらいのサイズはある-機械の正面の窓らしきものを開き、何かを入れた。そして、その機械の天面にずらっと並んだスイッチ類のうち中央部の四角く出っ張ったボタンのひとつを押し込む。ガチャリ、と音を立てて押し込まれると、一瞬、サーッと微かな音がした。何の雑音だろう? ラジオかな、これ? と真貴が思った次の瞬間―
目の前に、音楽が、飛び出した。
刹那、息が止まった。
普段聞き慣れているスマホとイヤホンの音とも違う。
決して綺麗ではないけど、雑音も混ざるけど、それでも。
力強くて、なのになんだか優しくて、粗雑なのにとても柔らかい。
何だろう、この妙に懐かしいような、音は。
唐突にガチャッ!!という大きな音がして真貴は我に返る。いつの間にか音楽は終わっていた。
隣の響一郎は平然と紅茶を啜っている。いっそ小面憎いほど平常運転である。
「えーーーっっっ!!! 何なにナニーーーっっっ!! 何ですかコレーーーっっっ!!!」
猛然とソニアに詰め寄る真貴。興奮のあまり鼻息が荒い。顔面も紅潮しきっている。
「あ…あら。コレの良さが解るなんて、
真貴の鼻息の荒さに若干引き気味のソニアがそれでも精一杯の令嬢ムーヴで応える。
「ほぅ。なかなか喰い付きが良いな」とほっとしたように真紅。
「あらあら~~気に入ったみたいで良かったわぁ~~」平常運転の日々希。
「あ、あのあのあのっ!! あの機械って、ラジオなんですかっ!? それともスマスピ!?」と興奮冷めやらぬ真貴。
「あぁ、それは半分正解、というところだな」
「そうねぇ~~Bluetoothは無理だけど~~有線ならイケるかも~~」
「なんかさっきそこの窓に入れてましたけど、あれって!?」
「―を知らない子供たち、か」と響一郎が皮肉っぽく呟いた。あ、あれは莫迦にしてる顔だ(怒)
「まぁ、落ち着きなさいな、子猫ちゃん。順を追って教えて差し上げますわ」子猫って誰だ。
「これは、ラジオカセットレコーダー。ラジカセ、と言った方が通りが良いかな」と真紅。
「簡単に言うとね~~、ラジオとテープレコーダーを一緒にした物なの~~」
「テープ…レコーダー…??」
「あぁ、そこからか」暫し思案顔の真紅。
「要は、ラジオの音を録音して聴く為の機械、だな。テープレコーダーは知らないか?」
「昔のドラマとかで~~インタビューの時とかに~~なんかくるくる回ってるのがあるでしょう~~」
あぁ、あれか、と真貴は思い当たる。そういえば"ラジカセ"の窓からも似たような物が見える。
「これですわ」ソニアがボタンを押して窓を開けた。中の物を取り出して真貴に手渡す。
「わぁ……なんかカワイイ!!」
大きさはかなり小型のスマホくらいだろうか。しかし軽い。殆ど重さを感じない。軽く振るとカチャカチャと音がする。全体が透明の筐体からは中に収まった一対の小さなリール状の部品と、その片方に巻き取られた茶褐色の塊が見えている。リールを貫くように本体にも穴が空いており、これにさっきの"ラジカセ"の窓から見えている一対の軸が刺さるのだろう、と真貴は見て取った。
「それに~~録音するのよ~~」
「ちなみに裏返すと裏面にも録音できる。平たく言うと、それがメモリカードやUSBメモリのようなものだ」と真紅。
「でかっ!!」ICレコーダーの本体より大きくない!?
「まぁ、そもそも半世紀以上前に考えられた物ですからねぇ」とソニア。
「そ、そんな古い物が動いてるんですか!?」
「あー、その機械はもう少し新しくて―それでも40年は前の代物らしいが―君が持っているそのカセットテープは、今でも売っている物だ」
「え!!」ムンク顔になる真貴「う、売ってるんですか、今でも!?」
「見たこと無いか? 電気店とか、レンタル店とか?」
「あー……どうでしょう……ちょっと記憶に…ありません…えへへ」笑って誤魔化す。
「そんな物よね~~普通は~~」
「それで……あの……さっきの音楽って、これに録音?されてるんですか??」
「そうよ~~」
「いったいどうやって……」
「簡単に言えば、そのカセットテープをさっきのラジカセにいれて、録音ボタンを押すと録音が始まる。その時にラジオを流していればラジオが、CDなどの音をケーブルで繋いで流せばそれが録音される」
「え……ファイルコピーとかダウンロードじゃなくて……?」
「ええ。実際の時間だけかかりますわよ」
「うわぁ……」一瞬、気が遠くなった。
「ちなみに」ソニアがニヤリと笑って別のテープを入れて何か操作をする。
「何の音も流さないで録音したらどうなると思います?」あ、悪役令嬢の顔だ(( ;゚Д゚)))
「えー……それって何も録音されないんじゃ……」
「そう思うわよね~~」
「それでは正解を」
ソニアがまた何かの操作をしている。ガチャッと音がした後にシャーッと音がして再びガチャッと音がした。そして
『……どうなると思います?』
『えー……それって何も録音されないんじゃ……』
『そう思うわよね~~』
『それでは正解を』ブツッ
「え……」真貴は呆然とした。
「これって……さっきの……」
「そう」再びニヤリと嗤うソニア。そ、それはマジ悪役令嬢顔なんで怖いです(( ;゚Д゚)))
「何も流さずに録音したら、外の音が録音されるのですわ」
「でもなんで……」納得がいかない真貴。
「あぁ、それは」真紅が後を受け「ラジカセには大体マイクが内蔵されているからな」
「そうなんですか!? でも、なんで!?」
「もともとテープレコーダーは~~会議とかの~録音用だからね~~」
「そういった経緯もあって、ラジカセには大体マイクは内蔵されている。最近の機種は必ずしもそうではないようだがな」
「電音部が設立された頃はこれで学校行事の音声も録音していたようですわね。昔はビデオカメラもなかったでしょうし」
「ほぇ~~」今日一日で情報量が容量オーバーで目が回りそうだ。
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