Disc.01 - tr.03『新入部員とパプリカとUR』

「だから言ったろう。じきに来る、と」真紅しんくが言う。笑いすぎたのか、まだ頬が痙攣気味だ。

「それにしてもね~~上手いニックネームよね~~聞いた瞬間にわかったもの~~」

「ど・こ・が、上手いんですのっ!? 名誉毀損で訴えたら勝てるレベルですわ!!」

「そういう所だと思うぞ、ソニア」そうそう、と頷きそうになって真貴は首を振った。

「それはそれとして~~」真貴と響一郎にゆるりと向き直った日々希ひびきは、

「あななたち~~これで用件は済んだのよね~~?」

「は、はいっ!! 今日は本っ当にお世話になりましたっ!! ―あとお騒がせして……」

「いや、それは気にしなくていい。むしろ我々が見物料を払いたいくらいだ」

「そうね~~アレはなかなか見られるものじゃないからね~~」

真紅しんく日々希ひびき貴女方あなたがた……」頭を抱えるソニア。


「それで、だ」真紅が咳払いをして「君たち、ウチに入ってみる気はないか?」

「そうそう~~ウチは部員多くないし~~新入生大歓迎よ~~」と日々希。

「そうね……特に貴女あなた、気に入りましたわ。歓迎しましてよ。如何?」

 再び百合モード全開で真貴に迫るソニア。だから日々希先輩、なんでそんなに嬉しそうなんですか!?

「え……と……その……」ソニアの猛攻に若干引き気味になりながら真貴は、

「皆さんとてもいい方々ですし、とっても楽しそうなんで入ってもいいかなーとは思ったんですけど……」

 おぉっ!!!とばかりに期待に輝く6つの眸を前に、言った。

「そもそもここって、何をするところなんですか?」首を斜め15度にこくっと傾ける。

 先輩3名は揃って綺麗にずっこけた。見事なシンクロだ。率で言うと300%。


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 電音部(電気音響研究部)


 活動内容は"音響機器の研究と音楽の鑑賞"

 名目的に文化祭・体育祭の音響設備の補佐や効果音の作成、映像・音声記録の補助といった各部門の補助的な活動も多いため、予算はそれなりに付いている。


 創立は1970年代初頭、往時の"生録"ブームを受けたもので、当初の活動はポータブルレコーダーとマイクを用いた所謂"生録"。

 大半は鉄道や飛行機、鳥の鳴き声といった定番的なものだが、その頃に始めた各種学校行事の録音が思いの外好評を博したため、後に主たる活動になった。

 生録ブームが下火になった'80年代後期以降は行事記録の補助が主体となり、部員数は減少の一途を辿っていった。現在、部員5名。


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「―とまぁ、これが作者の設定wikiから抜粋した内容だが、解ってくれたか?」と真紅。

「は、はぁ」作者とか設定wikiとかイマイチ理解不能なワードもあったが、気にしないことにした。

 後ろでソニアが「…こんなメタ発言、ラノベとは言え小説としての品格が…」とぶつぶつ言っているが、雰囲気的にスルーしておいた方が良さそうだ。真貴も今日一日で大概スルー耐性が身についている。

「それじゃ入部届はここね~~」と日々希。

 それを受け取り記入していた真貴は、横で同じ事をしている響一郎を見て思わず叫んでいた。

「えーっ!! あ、雨音くん、ここ入るの!?」あれだけの騒ぎを起こしておいて、と言いかけたがそれは呑み込む。

 それが何か、とでも言いたげに響一郎は片眉を上げて真貴を見る。

 それに気付いたソニアも叫ぶ。

「あ……貴方、入部するんですのっ!?」

 ソニアには応えず、はぁと溜息を吐いて響一郎は真貴に言った。

「お前なぁ…そもそも俺がなんで朝、旧校舎に居たと思ってんだよ?」

「珍しい建物だから見学に来たんだと」

「一緒にすんなし。俺はそもそもこの部室を探してたんだ。……幸か不幸か見つかったけどな」

 幸か不幸か、のフレーズに訝しむように方眉を上げた真紅だったが、そこは敢えてスルーしたようで、

「君は電音部を知っていたのか、雨音くん」

「あぁ。OBに知り合いがいてね」

「それは誰―」

「20年ばかし前だから知らないと思いますよ、先輩?」

 それ以上は話す気は無い、という雰囲気だったので、真紅も追求は諦めた。

「まぁまぁ、初日で2人も確保できたんだし~~出だしは上々じゃない~~?」

 貴女はもう少し空気読んで下さい。


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 入部届を受け取った真紅が軽く咳払いして、

「……ま、まぁ多少ゴタゴタしたが、無事新入部員も迎えることが出来て、良い新年度を迎えることが出来た。二人とも、ありがとう。電音部は君たちを歓迎する。副部長の桜美林おうびりん真紅しんくだ。改めて宜しく頼む」

「そうねぇ~~」後を受けた日々希が「まぁ、忙しいのは鹿苑祭ろくおんさいとか各種行事の時くらいだし~~普段はこんな感じでの~~んびりやってるから~~気楽にしてね~~暇な分、他との掛け持ちもできるし~~」

「あ」ぼん、と手を鳴らして「私は叡比瀧えいたき日々希ひびき、会計ね~~」

 あ、危うく寝落ちするところだった……隣を見ると響一郎は微動だにしない。寝てるなあれ。

「ちょっと日々希!!」大トリというよりもうラスボス感たっぷりにソニアが叫ぶ。よく叫ぶ人だ。

「一応は予算も付いているのですから、もう少し計画的にというかある程度目標を立てて……」

「そう言うがなソニア」真紅が自嘲気味に口を挟む「この2年間、それが出来たためしがあったか?」

「そうね~~」日々希も加勢するように「もう現状維持で良くな~~い?」

「……ぐっ……わ、解りましたっ!! それに関しては今後の課題、ということで宜しくてよ」

 ふぁさっ、とばかりに芝居っ気たっぷりに縦ロールと長い髪を掻き上げたソニアは真貴と響一郎をはたと見据えて

「改めて、部長の深森ふかもり英緒妃あをゐよ。宜しくお願いします」御丁寧にカテーシーの仕草までとっている。

 うわ、悪役はともかく完全に御令嬢ムーヴだよー絶滅危惧種レベルだよーと真貴が感嘆していると、

「……ソニア、って?」空気を読まない男が突っ込む。

「何ですの?」

「いや、今の名前の何処にも"ソニア"成分が見当たらなかったんで、先輩?」

「あー……」あちゃー、と真紅。

「やっぱりそこ、気付くわよね~~」と日々希。

「―ミドルネームですの」頬を桜色に染めてソニア。あらかわ。

「ソニアちゃんのお母様はね~~ロシアの方で~~」

「有名な声楽家でな、お父上が日本人なのだ」

「要するにフルネームは"深森・ソニア・あをゐ"ということか」と響一郎。

「それでソニアなんですねっ!! か…かっこいいっ!! ミドルネームいーなー!!」

 臆面も無く全肯定のうえ絶賛する真貴に、ソニアは更に顔中を真っ赤にし、ついにはぷいと横を向いた。

「……おぉ……ソニアが圧されている」

「真貴ちゃんも~~なかなか手強いかもね~~」

 もうこの2人は駄目だ。放っとこう。


 そんなこんなで和やかムードになろうとしていたのだが―

「ソニア……ソニアか……ということは……」

 何事かを呟く響一郎に真貴はもの凄ーく嫌な予感しかしなかった。

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