第2話『ブタが姉さんでよしみがやってきて』
となりのトコロ
2・『ブタが姉さんでよしみがやってきて』
大橋むつお
•時 現代
所 ある町
•人物 女3 のり子 ユキ よしみ
間
ユキ: 霊感がつよいのね……(人形に)姉さん、ごめんね。目がさめちゃったのね、また子守歌うたってあげるからね……バスが来るまでイイ子でいてね(姉をあやす)
のり子: なによ、あんた、それ?
ユキ: ……姉さん。
のり子: 姉さん?
ユキ: 人にはぬいぐるみにしか見えないけどね……
のり子: あんたねえ……
ユキ: シイイイイイイ…………もうすぐ寝るから……(ささやくように子守歌を口ずさむ。姉はようやく眠りにつく)薄気味わるいでしょうね。ほんとなら、あなたの前から消えてしまったほうがいいんでしょうけど、わたし次のバスに乗らなきゃならないから……ごめんなさい……。
のり子: あ、あたしも次のバスに乗らなきゃならないから……。
ユキ: ほんとは逃げだしたい。せめて道ばたのウンコみたいに軽く無視してかかわりあいになりたくない。
のり子: うん。
ユキ: ……はっきり言う。
のり子: まあね……ハアアアアアアアアアアア…………
ユキ: あなたも、なにか……あるようね。
のり子: あんたも、なんかワケありみたいね……
ユキ: (ソッポを向く)
のり子: あたし、のり子。轟のり子。人はあたしのこと……
下手かなたから、よしみの声。
よしみ: (声)トドロ……トドロ!
のり子: よしみ!?
よしみ: よかった、間にあった!
のり子: え、傘もってきてくれたの?
よしみ: うん。
のり子: ありがと……でも、もう止んだみたい。
よしみ: その傘?
のり子: この子が……あれ?(ユキのすがたがない)
よしみ: だれかいるの?
のり子: うん……
よしみ: トドロ、ほんとに行っちゃうの?
のり子: うん。
よしみ: どうしても?
のり子: うん。
よしみ: どうしても?
のり子: どうしても。
よしみ: 先生の言ったこと気にしてんの?
のり子: 気になんかしてない。
よしみ: じゃあ……
のり子: 切れちまったの。
よしみ: トドロ……
のり子: 四年も便利使いしといてさ、「こんな気の抜けたアイデアしかないのか。おまえにはマンガ家としての才能も情熱も良心のカケラもない!」 ああ、やめたやめた。大事な青春ムダにしてやってることないわよ。
よしみ: 先生だって、ついカッとして……淹れたばかりのお茶、机に置いたとたん茶柱が横になっちゃったから。
のり子: 茶柱の代わりにに腹たてたってか! 言っていいことと悪いことがあるわよ。あたしだって真剣に考えて……
よしみ: でも……
のり子: でも、なによ「お茶淹れた、あたしが悪い」なんて言うんじゃないでしょうね。
よしみ: ……(かぶりをふる)
のり子: よしみも早いとこ見切りつけたほうがいいよ。先生、自分こそ才能も情熱も良心も枯れはてたくせに。仕事もほとんどあたしたちまかせ。自分は気楽に旅行三昧。先月号の締め切り間に合わせたのも、あたしたちだよ。昔はあんな人じゃなかったのに……泣くなよ、デカいなりして!……ごめん、自分の考え押しつけちゃいけないよね。あたしはあたし、よしみはよしみだもんね。
よしみ: ……
のり子: その気の弱いところなおせよな。言いたいことがあったら、はっきり言う!
よしみ: タ、タバコ買うってでてきたから……もう帰る……じゃあ元気でね。ほんとに、ほんとに元気でね。
のり子: よしみもね!
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