となりのトコロ
武者走走九郎or大橋むつお
第1話『そぼ降る雨のなか』
となりのトコロ
1『そぼ降る雨のなか』
大橋むつお
•時 現代
所 ある町
•人物(女3) のり子 ユキ よしみ
そぼ降る雨のなか、バス停の横に貧相な少女ユキがたたずんでいる。さした傘に押しつぶされそうになりながらも手にはもう一本、大きめの古い男物の傘。背中には、小さな子どもを背負っているように見える。
バス停の下手よりに古ぼけた街灯。それが懐かし色にバス停の周囲を包んでいる。背後には鎮守の森。雨音しきり。ときにカエルの鳴き声。
ややあって、下手から、のり子がスケッチブックを頭にかざし、ボストンバッグを抱え、雨をしのぎながらやってくる。バス停の時刻表と携帯の時間を見比べ、雨のしのげそうなところをさがす。二三度場所を変えるが、どこも大して変わりはない。
この間ユキは無関心。
やがて……
のり子: ……えと、一本貸してもらえないかしら……
ユキ: ……(一瞬ドキリと身じろぎするが、聞こえないふりをする)
のり子: ……バス……来るまででいいんだけどね……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: あなたも、バス……待ってんでしょ?
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 次のバス……だいぶある……よな……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: よく遅れるんだよな……ここ……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 二本持ってんでしょ。今さしてんのと、手に持ってんのと(`Д´)!
ユキ: ……(黙って、さしていた傘をのり子にさしかけて、渡してやる)
のり子: え……あ、ありがと(^_^;)。
ユキ: ……(傘を渡すと、またもとのところへもどり、もう一本の傘はささずに大事そうに持ち、黙って濡れている)
のり子: え……ささないの、その傘。
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 怒った?
ユキ: ……(かぶりをふる)
のり子: じゃあ、さしなよその傘。
ユキ: いいんです。
のり子: よかないよ。
ユキ: いいんです。
のり子: なんだか、これじゃ、あたしがむりやり傘とりあげて、いじめてるみたいじゃないよ……返すよ。
ユキ: いいの、それはあなたに貸したんだから。
のり子: 返すよ!(傘の押し付けあいになる。ユキの背中の子どもの異常に気づく)あんた、その背中の……ブタ?
ユキ: 人形、ぬいぐるみの人形……
のり子: うそ。今あたしのことギロってにらんで、牙むいてうなったわよ。ガルル……って。
ユキ: 気のせいよ。ブタさんのぬいぐるみがそんなこと……
のり子: でも、ほんとうにそう見えたんだから…………あれ? ほんと。やっぱしぬいぐるみ(^_^;)。
ユキ: でしょ。
のり子: でも、やっぱし生きてるみたいな感じがする。
ユキ: そんなことないわ……
のり子: …………ううん、やっぱし生きてるよ。そのぬいぐるみ!
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