第6話

 やどりぎハウスでの面談を終え、帰宅している途中に愛美からラインの通知が届いた。

【この写真おかしくない?】

 その一文と、一枚の写真が添付されていた。

 何がおかしいというのだ――その時の私は、高槻先生の言葉が頭に残っていて神経が過敏になっていたのか、その写真を確認したくはなかった。

 そんな葛藤をしている間に、続けてメッセージが届く。

【彼氏が二人いる】

【吾妻さんは本当の彼氏なの?】

 一瞬愛美が何を言っているのか解らなかった。彼氏が二人いるって、どういうこと?

写真を確認してみると、どこかの旅館の客室内で撮った写真なのか、ガラスの前で吾妻さんと私が楽しそうに写っているではないか。

 それ自体は特段おかしいと思うところは見受けられないが……。

 この写真のどこがおかしいのか愛美に問いただそうと思い、返信をしようとしたときに、気付いてしまった。

 そこには確かにことに――


「お待たせ穂波さん」

 吾妻さんと会う約束をした当日、近所の喫茶店で待ち合わせをしていた。

 これまで抱いていた疑問を全てぶつけるために。

「ちょっと聞きたいことがあるの」

「旅行先のことかい?それならいいとこがあるんだよ」

 彼はスマホを取り出して旅行サイトを開こうとしている。私は彼の手に握られているスマホを奪い、勝手に写真フォルダを開く。

「ちょ、ちょっと何すんだよ!?」

私の突然の暴挙に、さすがに声を裏返していたが、お構いなしに目当ての写真を探す――あった。これだ。

「いいからこれ見て」

「え、この写真が何?」

「この写真に写っているのは誰?」

「誰って……それはもちろん僕だよ」

「そうかしら。じゃあ撮っているのは誰?」

「……それは他人に撮ってもらったんだよ」

「ふーん。そうなんだ。じゃあここに写っているのは誰なの?」

 私は、私と吾妻さんが写っている写真を見せた。愛美が私に見せてくれたように、どこかの旅館の一室で撮られた写真だ。

 時間帯も同じ夜で、ガラスの窓をバックにした構図だが、だとしたらおかしい人物が写っているのだ。

 明るい室内で、真っ暗な外を背景にして写真を撮るとどうなるか――そう。被写体がガラスに写りこむのだ。

 この写真にも、愛美が送ってきた写真にも、同一人物が写真を撮っている姿が写っていた。

 その姿は、吾妻考平その人だった。

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