第4話

 しばらくすると退院が決まり、落ちてしまった体力を回復するべく、筋力トレーニングを行っている。

 少しずつではあるが社会復帰も目指している状態だ。何せ二ヶ月も意識がなかったのだ、やることが山のようにあるし、とにもかくにも仕事に復帰しないとなぁ……。


 ある日、病院内を気分転換がてら散策していると、背後からやけにうるさいダミ声が聞こえてきた。

(病院内だというのになんてマナーのなってないやつだ)

 振り向くと、知らないおっさんがこっちに向かってくる。冬だというのに、離れていても熱気を感じる有り様だ。

「おーい!笹川じゃないか、久しぶりだな。お前こんなとこで何してんだ?」

 ――久しぶり?何してんだ?そんなの事故にあったったから入院してるんでしょうが。そもそも誰かも知らないのに、久しぶりも何もないけどね。

「えっと……どちら様ですか?」

「おいおい。久しぶりだからって元上司にそんな言い方無いだろ」

 あ、勤務先の上司だったのか。そういえばこんな暑苦しい人だった気がする。

 ってちょっと待って。今、上司って言わなかった?休職扱いではないのか?それはどう意味か目の前の男に訊ねてみる。

「さっきから何言ってるんですか。事故に遭ったって言うのに、笑えない冗談はよしてください。えっとですね、復職の件についてお聞きしたいんですけど」

「は?笹川、お前事故に遭ったのかよ!お前が急に辞めるからこっちはてんてこ舞いだったんだぞ!それに……復職ったって、回りがなんというか……」

「はい? 私、辞職したんですか? はは……いい加減冗談はやめてくださいって」


 最初から話が噛み合わないことに不信感を抱き、今の私の現状を伝えると、課長は初めて知ったらしく同僚も何も知らされてないらしい。

「正確に言えば、お前のとやらが辞めさせてもらうって言って、オフィスに怒鳴り込んできたんだよ。ありゃDV男なんじゃねえかってうちの課の連中は噂してたぞ」

 話が全く理解出来ず、課長の愚痴と、健康診断の結果がかんばしくなかったかという話は頭に入らなかった。


「――まぁ、あんなことあっちゃな、上も下も良い目でお前の事を見ないだろ。個人的には同情してやらんでもないが、復帰は難しいと考えてくれ」

 そう言い終えると、課長は人間ドックがあるからと言い、その場を離れていった。

 一体私の知らないところで何が起きているのか。私はどんな記憶を無くしてしまったのか。

 なにかとてつもないことを忘れている気がする。

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