第3話
ある日、病室に中学・高校の六年間を共に過ごした友人の
何度かお見舞いに来てくれた級友のなかで、私が思い出した数少ない親友の一人だ。
「やっほー穂波ちゃん。具合はどう?」
「あ、愛美じゃん。頭の怪我以外は大したことないよ。それに予後も問題無さそうだって先生が言ってた」
結構な大事故にも関わらず、頭部の損傷だけで済んだのは幸運と呼ぶべきだろう。骨折や内臓の損傷などもなく、このままいけば近いうちに退院できるそうだ。
「それなら良かった。そう言えばさ、この花瓶のお花いつも綺麗だよね」
愛美は部屋の隅の花の存在を指摘した。
「ああ、それね。お見舞いに来てくれる人が几帳面に花束を持ってきてくれるのよ」
「それって……もしかして彼氏?」
「そうみたいよ。目が覚めたら彼氏がいたなんて、夢みたいで信じられないけどね」
「ふーん。穂波ちゃんに彼氏がいたなんて、一度も聞いたことないけどな」
「恥ずかしくて言えなかったんじゃない?旅行に一緒に行った写真も見せてもらったたし」
「……事故が起きる半年くらい前から、穂波ちゃんラインも返してくれなかったじゃない。心配してたんだよ」
愛美とは頻繁にやり取りをしていたらしく、どんなに忙しくても一ヶ月も連絡を取らないことは無かったという。
確かに普通に考えて、半年も連絡が途絶えるというのはおかしい話だ。その当時の私はどうしていたのか。残念ながら、スマホは事故の際にバラバラになってしまったので、今では確認しようが無いが。
それから他愛もない話をして、また来ると言って愛美は帰っていった。
「ねえ吾妻さん。私って事故を起こす前の半年間って何か変化なかった?」
数日後、仕事の合間に見舞いに来てくれた吾妻さんに訊ねてみた。私に背中を向けながら、いつものように手慣れた手付きで、花瓶の花を取り替える。
「変化? いや、特に無かったかな? 何か気になることでもあるのかい?」
「愛美が――あ、中高の友達がね、半年間連絡が取れなかったって言っててね。それと彼氏がいることも知らなかったみたいで」
「そうなんだ。そういえば仕事で疲れてたって言ってたね。僕も相談に乗ったりしてたけど、それでちょっと余裕が無かったんじゃないかな。それにもう大人なんだし、彼氏の存在を知らなくてもおかしくはないんじゃない?」
振り返ると、気持ち早口でそう言った。
そう……なのかな?少しずつ過去の記憶が戻ってるけど、仕事はそこまで忙しくなかったような……。
私が難しい顔で考え事をしてたのか、私の肩に手を置き、「今は無理に思い出そうとしなくても大丈夫だよ。お医者さんもそう言ってたじゃないか」と吾妻さんは言ったけど、その手には少し力がこもっていた。
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