犬の女王は三度許す。

花和田 鬼小太

迷探偵はいい人。

 下を向いて歩く癖がある。この文章だけだと語弊があるな…目線を下に向ける癖がある。

 その行動原因を朝の登校時間に下を向きながら考えた事がある。

 その考えた末の結論は、二点。小学生時代所属していたのサッカークラブでグランドを何周も走らされた時、下を見ながら走ると疲れなかったから。何故、疲れないかのエビデンスは知らない。

 もう1点は、その内容から己の羞恥心が湧くので言いたくない。多分この物語で語られるだろうが。


 高校一年の俺、橘犬介たちばな けんすけいつものように目線を下に見ながら登校していた。ただ歩いていた。見慣れた看板、見慣れた店、見慣れたランナー。ぼーっと歩いていると見慣れない物が道端に落ちていた。


 赤いブルガリの長財布。別にブランド好きではない。月の小遣い2500円の俺が買える訳もなく又興味もない。簡単な推理。丸い銀色のクリップにブランド名が刻まれていた。目はいいのでね。


 日本は治安がいい。財布を落として帰って来る確率が最も高い国であろう。その確率を上げる為、俺は財布を拾い。サッカーのボランチ並みに首を振り周囲を見渡すとまたしても間慣れないモノが目の角膜から水晶体に飛び込んで来た。


長い黒髪が風に揺れ髪質がいいのだろうキューティクルが整い自然光に反射し、髪が光沢感を纏わせている。あの制服は俺が通う学校のものだ。彼女が落としたのだろう。交番に行く手間が省けた。


しかし…声を掛けたいが無理だ…。何故なら

俺は今年の初め地方から引っ越してきたばかり、方言丸出しなのだ。本人は標準語を話しているつもりなのだが、微妙にイントネーションが違うらしい。誰か俺にアクセント辞典をくれ。変な声掛けで田舎者だと思われたくはない。


どうしたものか…声を掛けずに拾った財布を渡す方法。の代替え…うーむ。


代替え案その1【制服の肩を叩き、振り向いたところに財布を渡しダッシュで走り去さる】

だめだ!都会の女子に触るだなんてそもそも無理だし悲鳴なんて上げられたら痴漢冤罪になりそうだ。


代替え案その2【通りすがりにリレーのバトンのように財布を渡す】

…だめだ!!コミカルだが、拾われたより、すられた感じのイメージが大きいスリの冤罪になる…。


代替え案その3【学校の事務室に落とし物として渡す】

此れだ!これなら俺の存在は彼女に知られる事もないし。確実に財布は持ち主に届くであろう。


財布を鞄に入れると俺は小走りで黒髪女子を追い越し学校へ向かうのであった。


善い事は、隠れてやると疲れるものである。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犬の女王は三度許す。 花和田 鬼小太 @takashi00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ