第十一話 古老メルクサックの物語④

 クマンガピックは四度結婚し、十五人の子宝に恵まれた。最初の妻パドロックは氷河で遭難し凍死した。二番目の妻イヴァロックは雪崩に埋まり凍死した。三番目の妻ヌヤリアックは病死した。そして四番目の妻エカグススアークもまた凍死だった。十五人の子供のうち、一人は餓死、四人は凍死、五人は病死した。クマンガピック自身は吹雪に遭い凍死した。


 私がこれから話すのは彼の死についてだ。


 彼らは冬の初め、エタというところに住んでいた。だが食糧も獣脂も尽きたため、彼を含む十六人の村人たちは、様々な食糧が潤沢にある南へ避難することを決意した。彼らがエタ付近の広大な雪原を縦断していたとき――それは極夜が明ける直前の、風と寒さが一番酷くなる時季だった――彼らは吹雪に襲われた。女子供を連れていたため、彼らはすぐに氷の家イグルーを建て始めた。クマンガピックはすっかり年老いていたが、熱心すぎるぐらい懸命に氷を切り出し、ひどく汗をかいた。


 氷の家イグルーを建て終ったとき、汗をグッショリとかいたせいで彼はひどい悪寒に襲われ、火をつける獣脂も無いため、妻と二人の子供と一緒に凍死してしまった。私はどうすれば彼が凍死するのか考えられなかった。彼はいつも寒さには強かったからだ。


 そこで十二人の人たちが亡くなった。


 吹雪が止むころ、生き残ったのは四人だけだった。アレク、カインガック、プアルナ、イノクシアックの四人だ。彼らは犬を食べ、当時、私が家族と住んでいたセルファリックへ南進した。だが彼らはみなひどく体力を落としていたので、もっともやつれていたイノクシアックを置いて行かざるをえなかった。せめてもの食糧に子犬の肉を置いて行ったが、戻ってきたとき、彼はすでに凍死していた。


 アレクとプアルナの親子は途中ですぐに疲れてしまったので、カインガックは親子をソリに乗せて引いてセルファリックまで行かなければならなかった。こうして三人が生き残った。


 その後、私は凍死した人たちを探しに行った。兄弟とその家族を埋葬してやりたかったからだ。だがそれは不可能だった。彼らの体は雪で覆われ、氷河に流されていた。たしかにそこには手足が何本も突き出していた。しかし損傷が激しく、遺体のすべてを見つけることはできなかった。私は氷を掘る道具も持っていなかった。


 春が来て陽光が氷を溶かすと、氷河は海へと流れだし、そこが彼らの墓場になった。ああ、いまの私はあなたにこの話をしても落ち込んだりしないよ。だがこの国の愛された来訪者のためにやってほしいことがある。


 あなたが故郷に戻ったら、あなたが聞いた話を伝えて欲しい。私の生き様も伝えて欲しい。私の片目が盲目になっているのがわかるだろう?これは私を殺して食べようとしたミニックがやったことだ。私の体を見るといい。深い傷だらけだろう?これはホッキョクグマの爪痕だ。死は何度も私の側までやってきた。――私の家族はみな死んだ。私はたった一人の生き残りだ。だけどセイウチやホッキョクグマを狩り続けるかぎり、まだ生きる喜びを感じることができるよ。

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