第三話 村人たちの歓迎
私たちは犬のハーネスを外し、たっぷりと肉を与えた。ここには肉類が大量にあり、どこを見渡しても、家々の間に調理場があった。住民が食料を奪い合うような苦難がないことは一目でわかった。
デンマーク領の西グリーンランドでは、引っ越してきたばかりの人が服を脱ぐのを女性が手伝うのはよくあることだった。私はいま自分がどこにいるのかを忘れ、グリーンランド人がよくやるように、私の隣に立っていた少女に向かってブーツを脱がせるよう足を突き出してしまった。少女は恥じらい、人々は笑った。彼女の愛らしい仕草は、自然が生み出す全てを超えて私を魅了した。頬が桃色に染まりゆく様子は、さざ波に揺れる湖面のようであった。彼女は私から目をそらし、黒々とした瞳で落ち着きなく凍った海を見つめた。
「あなたの名前は?」
「ほかの人が教えてくれます」
と彼女は口ごもった。「アイニナックだよ」と周りに集まった人たちがニヤニヤと笑いながら教えてくれた。陽気な年長者たちがやってきて、真面目な様子で彼女に言った。
「お客人がお願いしたとおりにしてあげなさい」
彼女はブーツをつかみ、私の両足から脱がせようとした。
「どきな!私がやるよ!」
老婆が群衆から声を上げ、人々を押しのけ私のソリまでやってきた。
「あんたが話してたのは私の娘だよ!なかなかの美人だろう?」といって眼を向けた。
だがアイニナックは滑るように人だかりから抜け出し隠れてしまった。あとから聞いたのだが、私がお願いしたことは婚姻関係を結ぶときにすることだったようだ。
私とヨーゲンは北極イヌイットの家に招待された。
調理場の周りは氷の壁で囲まれていて、そこを取り囲むように先住民たちが集まった。一人の青年が凍らせたセイウチの生レバーを持ってきて、オードブルとしてふるまってくれた。村人たちは歓迎の意向を示し、私たちと一緒にそれを食べた。好奇心旺盛な子供たちが口をあんぐりと開けて私たちを見つめていたが、私たちがそちらに振り返ると逃げてしまった。
湯がわくと、私たちは村の年長者であり魔術師のサドロック(虚言)に呼び出された。ゆで肉が出され、私たちはナイフを手にした。
私たちはたがいに打ち解け、会話が弾んだ。村人の言葉は一般的なグリーンランド語とは違いなまりが強かったが、それを理解するのは難しいことではなかった。彼らもまた、私たちが遠くから来たのに、私たちの言葉がわかることに驚いていた。
食事会が終わると、彼らはすぐに私たちのために
「重症の仲間がいるんだろう?だったらすぐに助けてやらないとな」と彼らは言ってくれた。
彼らは降り積もり固くなった雪からブロックを切り出し、それらを積み上げていった。仕上げに雪を隙間に詰め込んで、三十分ほどで私たちの新居が完成した。さらにソリが送り出され、私たちは翌朝までに合流することができた。
異教徒の先住民たちの手厚い待遇に、私たちは心の底から感激した。それでも彼らはまだ十分とは考えていなかったようだ。新たな隊員が合流すると、彼らはできることなら何でもやってくれて、物資も惜しみなく分けてくれた。私たちは四六時中、彼らとともにいた。
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クマ狩りに出かけた猟師が数人、ヨーク岬の南を探索していた。彼らは幸運に恵まれ、成果の毛皮と肉をソリに乗せて、帰り道をのんびりと進んだ。彼らは四月の陽光と満腹感で、ソリの上でうたた寝していた。
そのとき突然、犬たちが全力疾走をはじめ、たたき起こされた先頭の猟師が犬たちを怒鳴った。犬たちが急停止して雪に鼻を突っ込みにおいをかぎ始めると、猟師たちは犬たちがホッキョクグマを見つけたのかと周囲を見渡した。一人の猟師が、見つけたのはアザラシが息継ぎするために開けた呼吸穴じゃないかと地表に目をこらすと、予想外のものを発見してぎょっとした。彼はソリから飛び出し、あとから追いかけてきた猟師に向かって叫んだ。
「ソリ跡があるぞ!怪しいソリ跡がある!」
男たちは集まって、しばし沈黙したまま、その奇妙なソリ跡をまじまじと観察した。きれいに残された足跡から、その足跡のぬしは彼らよりはるかに大きいことがわかった。さらに残されたソリ跡は、彼らのソリより三倍も幅があった。(北極イヌイットは細長いソリを使うが、グリーンランドの一般的なソリは短いかわりに横幅が大きい)
「巨人の跡だ!」一人が言った。
「ああ、巨人とでっかいソリが残したものだ」他の者が小声で答えた。
「しかも南の方から来ているぞ!誰もここを通ったことがないのに!」
「それに、ソリ跡はまっすぐヨーク岬に向かっている!」
猟師たちはこの跡を残したのが何者か考え、恐怖心でいっぱいになった。友好的なのか、それとも敵意をもった存在なのか?彼らは南に住む民族について、良い話を聞いたことがなかった。うわさによれば、南の人間は殺しを好むそうだ。
さらに悪いことに、彼らは妻子を家に置いてきてしまった!ヨーク岬までは丸一日とかかる距離があった。彼らは犬たちにニオイをかがせ、全速力で追跡した。
越冬地の村で彼らが最初に見つけたのは、私たちの犬が遊んでいた場所だった。北極イヌイットは目的地についたとき、しっかりと犬をつないでおくのだが、その習慣を知らない私たちは犬を放してしまい、彼らは家に侵入してアザラシを食い荒らしてしまった。そのときに残した血痕が猟師たちを怖がらせた。犬たちが侵入した家は、内装もめちゃくちゃに荒らされていた。
このありさまから、来訪者の友好的な意思など
夜がふけても、彼らは旅をつづけた。犬たちはすっかり疲れ果て、ソリの進みは重くなった。だが彼らは行かねばならなかった。この謎を解き恐怖に終止符を打たねば。
深夜十二時ごろ、彼らは家族が待つイグフィグソック近くの岬でソリを滑らせていた。氷床を抜けるやいなや、子供たちが村から彼らのところへ押し寄せた。彼らは息も絶え絶えに子供たちのほうへ走り寄り、彼らを待つ
「白人だ!白人が来たぞ!」
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