花言葉

マドカ

花言葉



6月になり、またこの花が庭に咲いた。



梅雨の季節、朝の花弁には水滴が滴りとてもみずみずしい。



あーーあ、これでなあ。。。

隠された意味さえ知らなければ単純に美しいと思えたりほっこりするのだろうに。



僕は毎日この花の世話をする。

そして毎日後悔するのだ。



「相変わらず綺麗な花ねぇ。」



妻が僕に話しかける。



、、、うんざりだ。

けれど僕は僕の犯した罪に向き合わねばならない。



「。。。そうだな」



とだけ返す。



「じゃあ今年もお世話よろしく」



そう言って妻は家事をする。



はぁ、、、



妻と結婚して8年。



僕は6年前の過ちを思う。



*************


6年前、僕は浮気していた。



その当時僕は2ヶ月程の出張に行っていたのだ。

夫婦仲が悪かった訳ではない。



しかし健全な男子にとって2ヶ月という期間は、なんというか、、、

誘惑に負けやすくなるというか。



行き着けの小料理屋で女将と、男女の仲になった。

そして週の半分は彼女の家に泊まるようになった。



勿論、相手も僕の事情は分かっていた。

僕に妻が居ること、出張で数週間でいなくなること。

嘘をついて男女の仲になるのはフェアじゃない。

まぁ浮気した時点でフェアもクソもないが。



良い思い出をありがとう。

たまには私のことを思い出してね。



と、彼女は言っていた。

そして僕の荷物をまとめてくれた。



、、、これがいけなかったのだ。



女は恐ろしい生き物ということを僕は出張から帰った翌日に思い知ることになる。



「ねぇ、貴方」



「なんだ?」



「あたしの髪型ってずっとショートの茶髪じゃない?」



「?? あぁ。」



妻は明らかに怒りを込めた口調で



「じゃあ貴方の服の間に一本ずつわざわざ挟まってた、このあたしよりも長い黒髪は何なのかしらね」



そう言って妻は僕に証拠品を突き付ける。



何も言い訳出来ずただただひたすらに謝った。



そして僕は罰を与えられた。



***********



紫陽花。



花言葉は「移り気」「浮気」。



1ヶ月に及ぶ妻の実家戻り(勿論その間何度も謝りに行っている)

から帰ってきた時、紫陽花を庭に植えることを言い出された。



そして庭に植え付け、毎年この花を見たら浮気した過去を悔やみ二度としないと強く感じてほしいそうだ。



勿論それから浮気はしていない。一度もだ。

しかし毎年この時期は過ちへの罪悪感で胸が痛くなる、そしてストレスだ。

陰湿なメッセージを感じてしまう。



花言葉なんて詳しく知らないが、「移り気」「浮気」なんて誰が考えたんだ。



まぁしかし、これが僕の罪、か。

諦め、そして戒めよう、二度と浮気はすまい。



**********



6年目になるかしら。

夫が嫌そうな仕草で紫陽花の世話をする。



浮気自体はもう許している。本当にあの時はムカついたけど。



紫陽花が咲くとあたしは

こいつはいつ気付くんだろうと毎年思う。



なんかここまで気付かれないと我ながら

壮大なドッキリを仕掛けている気になるのだけど。



うーんこの人ひょっとしてずっと気付かないのかしら。



*********



僕は紫陽花の世話をしながらぼんやりと考える。

死ぬまでこの罪悪感と付き合うんだなぁと。

浮気なんて二度としない。




*********



あたしは紫陽花の世話をする夫を見て考える。

真面目な人だから案外死ぬまで気付かないかもと。



そしたら、今際の際にでも教えてあげようかな。



紫陽花の花言葉には



『辛抱強い愛情』って意味もあるのよと。



浮気はムカついたけど、あたしはこの人を愛している。

それはもう辛抱強く。



今日も紫陽花がとても綺麗だわ。ねぇ?あなた?

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花言葉 マドカ @madoka_vo

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