幸運ゆえに不幸な少年
マドカ
幸運ゆえに不幸な少年
選ばれた人間、神に愛された子供、奇跡の子。
おとぎ話ではなく存在する。
それが幸せか不幸せなことなのかは当の本人にしかわからない。
これを読んでいるあなたももしかすると、、、?
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XXXX年1月1日に俺は産まれた。
我ながら普通の家庭の子供だったと思う。俺が産まれるまでは。
父は地方公務員、母は兼業主婦、そして俺の三人家族。
ただ、俺は普通の子供ではなかった。
俺が産まれたその日。
父が趣味で投資していた株が異常に上がり、
父は俺が産まれた 日になんと900万円の儲けを得た。
母は長年、卵、大豆アレルギーに悩まされていたのだけど
俺が産まれた日に医学的に有り得ないことだが、完治した。
父と母は口を揃えて言ったらしい。
「奇跡の子だ!!!」と。
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皆は俺のことを奇跡だの神に愛されているだの、天才と言う。
端正なルックスで女にはモテた。
小学生の頃から街を歩けば様々な事務所からスカウトを受けた。
中学でも、高校でも。
勉強はあまりしないが、マークシート問題は二択だろうが四択だろうが適当にやっても必ず的中。
教科書なり参考書なり適当に見ても、一回見たら本の内容は完璧に頭に入る。
だから勉強は常に学年1位、模試では全国10位以内の常連。
適当にこなすスポーツ。
遊びで投げた野球のボールで150km出した。
翌日、野球部のエースが自信を失い転校した。
体力測定で100Mを9秒台で走った時、ニュースで「怪童現る」と報じられた。
美術の授業中に油絵の自由テーマでモナリザを30分で描いた時、その教師はなぜか学校を辞め、筆を折った。
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高校2年の春、俺は高校を辞めた。
辛かったのだ。何もかもが。
努力しなくても勝手に結果がついてくる。
自分の力で何かを成し遂げたことがないのだ。
取り巻きは多かったが、心から何かを分かち合える友人などいない。
夢もなければ、達成感もなく、満足感もない、ただ虚しい。
両親は幼少期に離婚している。
父は株の金で金遣いが荒くなり、母に暴力的な父になった。
母はそんな境遇の時、IT企業の社長に町中で一目ぼれされ、あっさり父を捨てた。
俺は父と暮らしていた。
幼稚園の俺に
「この中ならどれがいいと思う?」と経済新聞を見せてくる。
適当に答えると百発百中でその株を買った後に株価が上がる。
これは高校に上がるまで毎週続いた。
毎日の挨拶のような習慣だった。
俺は金の亡者の父に嫌悪感を抱いていた。
俺を金を産み出す鶏という風に認識しているからだ。
高校に上がる頃に嫌気が差して俺は独り暮らしを始めた。
父からの条件があった。
父にメールで株の銘柄(もちろん適当に選んでいる)を教える。
すると月に数百万単位の小遣いは貰えた。
だから金には困らない。
嫌な親だが、株を教え続ける限りは俺を見捨てないだろうという計算もあった。
無論、高校を辞める時も相談等しなかった。
父に退学届けを郵送する。手紙も添える。
「署名をしなかったら今後株の相談は一切受け付けません」
翌日には署名捺印された退学届けが届いた。
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虚しい。とても虚しい。
なんだこの人生は。
むしろ悪事を働いてやろうか?
うずくまっている老人にいきなり蹴りを入れてみた。
餅が喉につまって死にかけていたらしい。
衝撃で餅を吐き出し逆に感謝された。
つまらない。
金に興味はないが銀行強盗してみる。
先に強盗犯がいた。
俺に向かって銃を放つ。
的外れ、跳弾してそいつの腕に当たった。
警察がその隙に逮捕。
感謝状を貰った。
つまらない。
女性を暗がりで襲ってみる。
一目ぼれされた。
つまらない。
つまらないつまらないつまらない。。。。。。
何をやっても事態は好転するのだ。
まるで呼吸をするように幸運が舞い降りてくる。
もういいや、くだらない。
死んでしまおう。
マンションの屋上から飛び降りた。
突風が吹いて茂みに落ちた。
打撲はしたが死ねなかった。
ありとあらゆる方法を試す。
何をしても死ねない。
辛い。。。。。。。。
こうして俺は無味無臭な日々を過ごす。
せめて寿命ぐらいは、例えば20歳で死ねたらいいのに。
じゃないとこの人生はおかしい。
運の釣り合いが取れていないと自分でも思う。
本当に気がおかしくなる。早く死にたい。
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選ばれた人間、神に愛された子供、奇跡の子。
おとぎ話ではなく存在する。
それが幸せか不幸せなことなのかは当の本人にしかわからない。
そう、当の本人にしかわからない。
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「神様、いいことをしましたね。これで彼は歴史上に名を残す最も有名な偉人になりますよ」
「だろう? やつの人生は人類史上最も幸運に満ち溢れている。 芸術だろうが勉学だろうがスポーツだろうが何をしてもうまくいくように設定したからな」
「その通りです、神様。 これで幸福を感じない人間はこの世に居ませんとも!!!」
「そうだろうそうだろう。寿命も120歳まで健康に生きられるようにしたしな」
「大盤振る舞い、さすが我が神。度量の大きさに私共は尊敬するばかりです」
「これぐらいの 恩恵は受けて然るべきだろう。」
「まぁ何せあいつは。。。」
「人類がこの世に生まれてから
記念すべきちょうど1兆人目の人類だからな。
これが神からのプレゼントだ。」
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選ばれた人間、神に愛された子供、奇跡の子。
おとぎ話ではなく存在する。
それが幸せか不幸せなことなのかは当の本人にしかわからない。
そう、当の本人にしかわからない。。。。
幸運ゆえに不幸な少年 マドカ @madoka_vo
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