幸運ゆえに不幸な少年

マドカ

幸運ゆえに不幸な少年

選ばれた人間、神に愛された子供、奇跡の子。

おとぎ話ではなく存在する。




それが幸せか不幸せなことなのかは当の本人にしかわからない。

これを読んでいるあなたももしかすると、、、?




********




XXXX年1月1日に俺は産まれた。



我ながら普通の家庭の子供だったと思う。俺が産まれるまでは。



父は地方公務員、母は兼業主婦、そして俺の三人家族。



ただ、俺は普通の子供ではなかった。



俺が産まれたその日。



父が趣味で投資していた株が異常に上がり、

父は俺が産まれた 日になんと900万円の儲けを得た。



母は長年、卵、大豆アレルギーに悩まされていたのだけど

俺が産まれた日に医学的に有り得ないことだが、完治した。



父と母は口を揃えて言ったらしい。



「奇跡の子だ!!!」と。



*******



皆は俺のことを奇跡だの神に愛されているだの、天才と言う。




端正なルックスで女にはモテた。

小学生の頃から街を歩けば様々な事務所からスカウトを受けた。

中学でも、高校でも。




勉強はあまりしないが、マークシート問題は二択だろうが四択だろうが適当にやっても必ず的中。

教科書なり参考書なり適当に見ても、一回見たら本の内容は完璧に頭に入る。

だから勉強は常に学年1位、模試では全国10位以内の常連。




適当にこなすスポーツ。

遊びで投げた野球のボールで150km出した。

翌日、野球部のエースが自信を失い転校した。

体力測定で100Mを9秒台で走った時、ニュースで「怪童現る」と報じられた。



美術の授業中に油絵の自由テーマでモナリザを30分で描いた時、その教師はなぜか学校を辞め、筆を折った。




********




高校2年の春、俺は高校を辞めた。

辛かったのだ。何もかもが。




努力しなくても勝手に結果がついてくる。

自分の力で何かを成し遂げたことがないのだ。

取り巻きは多かったが、心から何かを分かち合える友人などいない。

夢もなければ、達成感もなく、満足感もない、ただ虚しい。




両親は幼少期に離婚している。

父は株の金で金遣いが荒くなり、母に暴力的な父になった。

母はそんな境遇の時、IT企業の社長に町中で一目ぼれされ、あっさり父を捨てた。




俺は父と暮らしていた。

幼稚園の俺に

「この中ならどれがいいと思う?」と経済新聞を見せてくる。

適当に答えると百発百中でその株を買った後に株価が上がる。

これは高校に上がるまで毎週続いた。

毎日の挨拶のような習慣だった。




俺は金の亡者の父に嫌悪感を抱いていた。

俺を金を産み出す鶏という風に認識しているからだ。




高校に上がる頃に嫌気が差して俺は独り暮らしを始めた。

父からの条件があった。

父にメールで株の銘柄(もちろん適当に選んでいる)を教える。

すると月に数百万単位の小遣いは貰えた。

だから金には困らない。

嫌な親だが、株を教え続ける限りは俺を見捨てないだろうという計算もあった。




無論、高校を辞める時も相談等しなかった。

父に退学届けを郵送する。手紙も添える。

「署名をしなかったら今後株の相談は一切受け付けません」

翌日には署名捺印された退学届けが届いた。



********



虚しい。とても虚しい。




なんだこの人生は。




むしろ悪事を働いてやろうか?




うずくまっている老人にいきなり蹴りを入れてみた。

餅が喉につまって死にかけていたらしい。

衝撃で餅を吐き出し逆に感謝された。

つまらない。




金に興味はないが銀行強盗してみる。

先に強盗犯がいた。

俺に向かって銃を放つ。

的外れ、跳弾してそいつの腕に当たった。

警察がその隙に逮捕。

感謝状を貰った。

つまらない。




女性を暗がりで襲ってみる。

一目ぼれされた。

つまらない。




つまらないつまらないつまらない。。。。。。




何をやっても事態は好転するのだ。

まるで呼吸をするように幸運が舞い降りてくる。




もういいや、くだらない。




死んでしまおう。




マンションの屋上から飛び降りた。

突風が吹いて茂みに落ちた。

打撲はしたが死ねなかった。




ありとあらゆる方法を試す。

何をしても死ねない。




辛い。。。。。。。。




こうして俺は無味無臭な日々を過ごす。


せめて寿命ぐらいは、例えば20歳で死ねたらいいのに。



じゃないとこの人生はおかしい。

運の釣り合いが取れていないと自分でも思う。



本当に気がおかしくなる。早く死にたい。




******




選ばれた人間、神に愛された子供、奇跡の子。

おとぎ話ではなく存在する。



それが幸せか不幸せなことなのかは当の本人にしかわからない。

そう、当の本人にしかわからない。


******



「神様、いいことをしましたね。これで彼は歴史上に名を残す最も有名な偉人になりますよ」




「だろう? やつの人生は人類史上最も幸運に満ち溢れている。 芸術だろうが勉学だろうがスポーツだろうが何をしてもうまくいくように設定したからな」




「その通りです、神様。 これで幸福を感じない人間はこの世に居ませんとも!!!」




「そうだろうそうだろう。寿命も120歳まで健康に生きられるようにしたしな」




「大盤振る舞い、さすが我が神。度量の大きさに私共は尊敬するばかりです」




「これぐらいの 恩恵は受けて然るべきだろう。」




「まぁ何せあいつは。。。」




「人類がこの世に生まれてから

記念すべきちょうど1兆人目の人類だからな。

これが神からのプレゼントだ。」




********




選ばれた人間、神に愛された子供、奇跡の子。

おとぎ話ではなく存在する。




それが幸せか不幸せなことなのかは当の本人にしかわからない。

そう、当の本人にしかわからない。。。。

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