マンドラゴラの価値は
僕は上着を脱いでハンガーに吊る。
彼女も同じようにしたので、僕は彼女の上着をハンガーごと受けとって僕の上着の隣に吊った。並んで吊り下がる僕と彼女の上着。
普段若い女性に縁のない僕は、そんなことですらヘンに意識してドキリとしてしまう。
いかんいかん、仕事仕事。
マンドラゴラ研究序説。
目次によると、まずは植物としてのマンドラゴラ(ナス科マンドラゴラ属ヨーロピアンマンドレイク)の諸元の植物学的所見、続いてその薬効や利用の歴史といった医学史的観点からの追跡調査、ファンタジーで扱われるような伝説や逸話、その伝播や類似の事例を網羅的に纏めた民俗学的な論考、そしてそれらを総括した付記。
学術には素人の僕が読んでも、とても優れたマンドラゴラにまつわる包括的論文だと思えた。
流石は村山無量大数。
植物学、生物学、医学、歴史学、民族学、宗教学、天文学、果ては占星術や錬金術に至るまでに精通したと言われる稀代の天才学者。
コピーはダメだとしても、もうこの「マンドラゴラ研究序説」を簡単に纏めなおしてちょっとファンタジーや映画での扱いなんかと絡めたら、それだけで読み応えのある記事になっちゃいそうだな。
今回は時間もないし、お金的にも既に赤字になっちゃってるし、それで行こう。
「コーヒーでも入れますね」
「あ、僕が入れますよ、ただでさえお時間を取らせ申し訳ないのに」
「大丈夫です。他にすることもないですし」
いい人だ。村上ナツミさん24歳。
直筆原稿で、無量大数先生の文字は達筆のため、要所要所で解読するのに苦労しながら僕は「付記」までを読み進めた。
一定のペースでページをめくっていた僕の手が止まった。
なんだこれ?
情報模倣子としてのマンドラゴラの、危険性……?
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