マンドラゴラダイバー

「綺麗な部屋ですね」

「そうですね」

「申し訳ありません、なるべく早く終わらせますので」

「大丈夫ですよ。夜までに終わらせて頂ければ。これも村山無量大数のひ孫に生まれた、業みたいなものです」


 貸し出し禁止、複写厳禁の村山無量大数(本名・村上シゲチカ)の論文原稿を閲覧するには、遺族の立ち合いの元その場で読むしかない、ということらしい。一度は学会に発表しておいて、なぜそんな形で、いわば論文を封印したのかは謎だった。


「さあ……無量大数は、特に晩年は不思議な振る舞いが目立つ人だったようですから。本人なりに何か思う所があったのでしょう」


 と、いうのがナツミ嬢の僕の疑問に対する答えだった。


「これが、そのオリジナル。無量大数の論文の原稿です」


 彼女の白い嫋やかな手が、ホテルの部屋のデスクにドンッと分厚い紙の束を置いた。

 表紙には、こう書かれていた。


 マンドラゴラ研究序説

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