第397話 人間領の城で朝食をいただいた。

人間領についてすぐ、衛兵は転移魔法陣を設置している場所で待っていてくれたので城へ案内してくれた。


「こちらになります、時期にダンジュウロウ様もお見えになりますのでお待ちください。」


「分かった、案内ありがとう。」


衛兵に連れてこられたのは、前にも食事をした大食堂のような所。


ここで夜は食べたが、朝は食べてないから楽しみだな。


「あ、何か懐かしい匂いがする。」


流澪が鼻をスンスンと鳴らしながら匂いを嗅いでいるので、俺も注意深く匂いを辿ってみた。


確かに、懐かしい匂いがするな。


これは――本当に味噌汁?


「今日は魚介出汁の味噌汁か、嬉しいよ。

 僕の大好物だ。」


リッカが舌鼓を打ちながら嬉しそうに話す、俺も大好物だぞ。


味噌汁を知らない住民もちらほら居るらしく、どういった物なのか分からずソワソワしているが、知ってる人達の反応を見る限り美味しいのだろうと察している様子。


明らかに楽しみそうだもんな。


豪勢な物じゃないが、落ち着くし美味しいのは間違いない。


味噌汁の匂いの他にも色々食欲をそそる匂いが流れてきだした――と思ったら、奥の扉が開いてダンジュウロウが側近の人達と姿を見せた。


「おぉ、村長よく来てくれた。

 もうすぐ食事が運ばれてくる、村に比べると質素かもしれないが味は保障するぞ。

 それに朝食には最適と言える品目だ、人間領の多くでこれが朝に食べられてると言っても過言ではない。

 味付けは少々変わるだろうがな。」


「こちらこそ、朝食に招いてくれて感謝するよ。

 俺が前に居た世界でもよく食べられたものが出てきそうで安心してる、楽しませてもらうぞ。」


「ほほう、人間領の料理が他の世界でも……。

 今度詳しく聞かせてもらうとしよう。」


もちろんだ、と返事をしようとしたらデニスが横から入ってきて「その話、ワシも混ぜてくれ。」と言ってきた。


俺が知ってる料理で、村に無い物はまだあるから承諾。


俺も食べれるようになるのは嬉しいからな、天ぷらとか茶碗蒸しとか……。


いかん、そんな事を考えてると食べたくなってきた。


でも今は朝食、果たして味噌汁の他に何が出てくるか――。




「ごちそうさま。」


俺は手を合わせて食事を終えた挨拶をする。


最初は俺と流澪だけだったが、徐々に村に浸透していってるらしくここに来てる他の住民全員がごちそうさまの挨拶をするようになった。


どうやら作ってくれたドワーフ族やその奥さんがすごく喜ぶらしい、確かに食材と作ってくれた人に感謝を伝える言葉だからな。


しかし、その文化が無くてもそう感じるというのはすごいと思う。


ちなみに味噌汁以外のおかずは玉子焼きとほうれん草のおひたし、それにきんぴらごぼうだ。


本当に前の世界の朝食を食べているかのような錯覚を覚えたぞ。


アマテラスオオミカミが、この世界の設計段階のような時にチキュウで得た知識を使ったんじゃないかと邪推してしまう。


そんなこと出来るか分からないけどな。


それくらい味がそっくりだった、それに前の世界より美味しいし。


デニスも最初はしかめっ面だったが、料理が運ばれてくると笑顔になってパクパクと食べていた。


時々真剣になってレシピを盗もうとしていたけど。


「さて、皆食事を終えたようだな。

 人間領の朝食、如何だったろうか?」


「懐かしくて美味しかったよ。

 次の機会も是非このような品目で食べたいな。」


ダンジュウロウの問いかけに答える、他の皆も首を縦に振って俺の意見に賛同してくれた。


納豆とかが出なくて良かったよ、あれはかなり人を選ぶからな。


俺は大好きだけど。


「この味噌汁だけが難しい……再現出来るかの……。」


デニスはレシピを全て盗めなくて凹んでいる様子、味噌汁以外は分かってる時点ですごいと思うぞ。


「はっはっは、デニス殿が時々真剣な顔になっていたのはそういうことか。

 それなら式典の後に城の厨房へ来るといい、責任者には話を通しておくから色々な料理の作り方を教えてもらうとよいぞ。」


「「いいのか!?」」


俺とデニスが一緒になってダンジュウロウの言葉に反応。


料理のレシピは料理人の財産だ、それをそんな簡単に渡していいものなのだろうか。


「人間領は伝統を重んじる文化がある、この城はそれを体現してるようなものなのだ。

 だから領民の料理人のような創作料理や新しい挑戦をした料理というのはほぼ無いのだよ。

 人間領の味を広めてくれるとこちらとしても嬉しいのだ、外でも通用する伝統というのは誇らしいからな。

 しかし色々な伝統がある故に、それに囚われすぎぬようにする塩梅が難しいのだが……おっと、これは愚痴になってしまうな。

 さて、そろそろ式典の準備をするとしよう――また衛兵を寄越すから、ここでくつろいでていてくれ。」


「分かった、そうさせてもらう。」


まさかそんな理由で人間領の城で作られている料理のレシピが手に入るなんて思わなかった、魔族領ではそんなことなかったし。


デニスなんて嬉しすぎるのか見たことない小躍りを踊っている、そんな嬉しさの表現方法初めて見たぞ。


ドワーフ族の文化なのだろうか?


ん、そういえばダンジュウロウと一緒に来た側近がまだこの部屋にいるな……どうしたんだろう。


何かに驚いたような顔をしてるけど……それにリッカやシモンまで。


「人間領であんな砕けた喋り方をするお父様……初めて見たよ。」


リッカの一言でどうしてこうなっているか分かった。


俺からしたら普通の話し方だったが、人間領の住民からしたら違うんだろう……前の時も思ったが、ダンジュウロウはどれだけ普段厳しくしてるんだ。


もう少しフランクに、と思うが実際ダンジュウロウの人望はすごいので口出しはしないでおこう。


とりあえずダンジュウロウについて行ってやってくれ、誰も付いてきてないのに気付いて戻って来てるから。

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