第398話 式典は終わったが、リッカの件で相談があるらしく別室に通された。
人間領の城で朝食を頂いて、しばらくくつろいでいると式典の会場まで案内してくれる衛兵が俺達を呼びに来た。
衛兵に連れて行かれていると俺と他の人達は行く場所が違うらしい、魔族領でも似たような事があったが今回はしっかりしていると思っているのである程度安心はしている。
「では村長……いえ、神様でしたね。
ダンジュウロウ様の話が終わり呼ばれたら壇上へ上がり、挨拶をお願い致します。」
「神様と呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ。
村長でもいいし俺の名前でもいい、神様以外の呼び方でよろしく頼むよ。」
「しかし……。」
このやり取りは魔族領でもあったな……しっかり言っておかないと度々この会話をしなければならなくなる。
信仰としては神として崇めてもらうのが一番なんだろうが、俺自身がむずがゆくて苦手なのでやめてもらうのが望ましい。
「ではダンジュウロウに俺を神様と呼ばないようお触れを出してもらうよ。
それなら大丈夫だろう?」
「……分かりました、お触れが出ればそれに従うようにいたします。」
神様である俺の言葉より領の長であるダンジュウロウの言葉のほうが従いやすいらしい、偶像崇拝なんてそんなものだろうけど。
悲しいような安心するような、不思議な感覚だ。
そして衛兵と話してる間にダンジュウロウの挨拶が終わり、俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
「では村長、お願いします。」
「分かった、行ってくるよ。」
最初緊張はしていたが、衛兵との会話でそれもほぐれていたのですんなり壇上へ上がることが出来た。
そして恙なく挨拶を終わらせ、ダンジュウロウと側近の司会の下で式典は進行――そして終了。
特にトラブルもなくて良かったよ。
カンペをどうやって見るか不安だったが、それを置くような台が設置されていたので自然とそこにカンペを置いてカンニングさせてもらった。
後から聞いたが、それが普通らしい。
ダンジュウロウ曰く「挨拶の言葉を暗記するなら、他に労力を割いたほうがいいだろ?」とのことだった。
ごもっともである。
式典が終わったので帰るかと話をしていると、ダンジュウロウに呼び止められ少し別室で休憩をしててくれとのこと。
どうやら昼食を城で食べた後に、リッカの件で話をしておきたいらしい。
確かにそれは意見を交わしておかないとダメだろう、シモンもそうなる可能性があるし。
もしそうなったら村の総力を挙げてサポートするつもりではあるけどな。
「お父様も気にしすぎだ。
私の報告書には目を通しているだろうに、報告抜けは無いはずなんだけど。
王位継承権第15位の私の事なんて気にしなくていいと思うんだ。」
衛兵に連れられて別室へ向かう途中、リッカが少し不機嫌な口調で不満を漏らした。
「そんなこと言うな、そんなの関係なくリッカはダンジュウロウの子どもなんだよ。
俺も子どもが居るから何となく分かる、どうあっても心配になるのは仕方ない……俺だって今現在子どもは心配だし。」
「むぅ、そんなものだろうか。」
リッカはまだ自分の子どもが居ないからな、この感覚が分からないのも仕方無いとは思う。
それに民からも慕われてる、心配するのは当然だろう。
「では、こちらでお寛ぎください。」
衛兵は別室への案内が終わると一礼して外へ出ていった、足音は聞こえなかったので部屋の前で待機・警備をしているのだろう。
村へ来訪した要人はこれくらい警備をしたほうがいいのだろうか、そういうところも見習うべきかもしれない。
今度話し合いがあれば聞いてみよう。
村で悪事を働くような人は居ない……と信じたいけどな。
戦闘では絶対勝てないし、仮に逃走を試みても逃げ切るなんて不可能だろう。
でも万が一のことがあってはいけないし……人間領だってそれに備えてこうしてるわけだからな。
「そういえばシモンは魔族に変化してないのか?」
「僕はそんな事も無いし、報告書にあった体調不良も起きてない。
それに魔術も使えるようにならないよ、使えるようになればいいんだけどね。」
やっぱり魔族になってないんだな、いい機会だし俺の疑問を解消しておくのもいいかもしれない。
「オスカーとシモーネに聞きたいんだが、未開の地と魔族領じゃ魔素の濃度って違うのか?」
「そうだな、気にしないと分からないが未開の地のほうが確かに魔素は濃い。
シモン殿が魔族にならないのはそれだろうな、もっと長い時間魔族領に滞在すれば同じ現象が起こるかもしれんが。」
「なるほど、それで魔族になったという報告が上がってないわけだ。
ここ最近で魔族領の滞在期間が一番長いのは僕だからね。」
オスカーからの回答でシモンが返事をする、どうやら俺と同じ疑問を持っていたみたいだな。
シモーネはシモンを見て何か考えている様子、この手の話題ならオスカーよりシモーネが答えると思ったが……どうしたんだろう。
「シモンさん、本当に魔術を使えないの?」
シモーネがシモンに疑問を投げかける。
「え、えぇ……魔族になるほど魔素の吸収もしてないですし魔術を使えた試しはありません。
昔使えるようになるために訓練をしていたんですがね……。」
「おかしいわねぇ……。」
シモーネはシモンの返答を聞いて考え込んでいる、一体どうしたんだ?
「シモンさん、シュテフィさんより少し少ないくらいの魔力量を保有しているのよ。
それで魔術が使えないなんて……それに魔族に変化しないのもおかしい気がするわ。」
それを聞いたリッカとシモンは、何を言ってるのか分からないという顔でシモーネを見る。
まぁそうなるだろう、俺だって分からない。
シュテフィより少し少ないって……村で比べても相当な魔力量だぞ。
「お父様に報告することが増えたわね……帰ってこいなんて言われなければいいけど。」
リッカは頭を抱えて座り込んでしまった。
有り得る可能性ではあるよな……だが、ダンジュウロウがどういう方向で話を持ってくるかはまだ分からない。
確認だけなら問題無いだろうし。
部屋が少しざわついていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた後に衛兵の声が聞こえて来た。
「ダンジュウロウ様がお見えになりました。」
もうなるようになるしかない、報告してダンジュウロウの判断を聞くしかないだろう。
俺の予想では大丈夫だろうけどな。
だからリッカとシモン、そんな顔色を悪くするんじゃないぞ。
ダンジュウロウが心配してるから。
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