第390話 リッカは人間に戻れて一安心、だが次の問題が舞い込んできた。

リッカが行方不明になった次の日の朝。


魔力・魔素貯蔵庫を使って人間に戻れるかの実験は成功した――逆に貯蔵した魔力・魔素をリッカに戻したら魔族にもなったけど。


体に負担がありそうだからやめたほうがいいと思う。


その後リッカは家に戻って報告書を作成し、すぐにでも魔族領と人間領に提出しなければと奮起していた。


戦闘鍛錬以外であんなにやる気になってるリッカを見たのは初めてかもしれない。


妻達は朝早くからデパートへ向かっていった、今日が最終日らしいので気合の入りようが違う。


遠隔会話も問題無く使えているみたいなので、いつも以上に買い物を効率よくするぞと躍起になっていた。


その……常識の範囲内でな?


そう思いながら妻達を見送って二度寝して、起きたのが今。


『村長、ちょっといいですか?』


『どうしたんだ?』


着替えをしていると、ウルリケから遠隔会話が飛んできた。


これはやっぱり便利だ、そういえば誰が使えるようになったか聞いておかないとな。


覚えてなかったらどうしよう……リスト化するのを頼んでおけばよかったかもしれない。


『先日言ってた人工培養液なんですが、材料が揃いましたんで予備の作成をお願いします!

 シュテフィさんの家に物は置いてあるので!』


『分かった、朝食を食べたら向かうよ。

 ウルリケはどうするんだ?』


『アタイは遠隔会話をするために機構と人の接続をしなければならないので……。

 ちょうどたくさんの人が集まってる場所に行って一人一人対応しようかなっと。』


それは絶対やめた方がいいと思う、絶対デパートだし。


日の位置を見たがまだ開店前だろう、皆朝早くから並んでいるはずだからな……それを抜けてくれと言われたらいい印象にはならない。


『ウルリケ、それはやめておいたほうが――』


あっ、なぜか知らないけど遠隔会話が切れてる。


ひと悶着ある前に止めに行かなければ。


俺は慌てて着替えをして、ウルリケが居る所へ瞬間移動をした。




「ひょわぁぁぁぁ!?」


「……すまん!」


デパート前に出るかと思ったが、着いた先は室内。


そこには裸のウルリケ、その目の前にいる俺。


明らかに俺がヤバい奴である。


俺は慌てて部屋の外に出る、まさかこんなことになるなんて……頭が働いてない寝起きだったのに深く考えず瞬間移動なんかするんじゃなかった。


よく考えれば朝と言ってもデパート開店前、まだ早朝の部類なのに。


突然の出来事に動悸がおかしくなってしまったが、深呼吸をして自分を落ち着かせる。


その間にこちらへ向かってくる足音が聞こえて来た。


「叫び声が聞こえたけど何――って、村長?」


足音と声の主はシュテフィ、一緒に住んでるんだからそれはそうか。


「ちょっとした事故があったんだ。

 出来れば気にしないでほしいんだけど……。」


「何が起きたか概ね分かったわ。

 まぁ、ウルリケもまんざらじゃないでしょ?」


「異性に裸を見られたの初めてなんですけどー!?」


俺とシュテフィの会話が聞こえてたのか、大声で反論するウルリケ。


外に聞こえるから、そんな叫ばないほうがいいと思う。




「まったくもう……。」


「本当にすまなかった、お詫びに何でもするから許してくれ。」


俺・シュテフィ・ウルリケの3人は、ちょうど一緒になったし3人で朝ご飯を食べようということになり食堂へ。


大半の人がデパートに行ってるので食堂もいつもより人が少ない、落ち着いて食事が出来るのはいいことだ。


ウルリケは未だ根に持っているのかプリプリしているけど……仕方ないけどさ。


「村長が何でもするって、神様なんだし本当に何でも出来そうよね。

 ウルリケ、あんた裸と引き換えに物凄い権利を得てるんじゃない?」


「えぅえぅ……あまり事実を口に出さないでくださいよぅ……。

 でもシュテフィさんの言う事は割と間違ってないかも?」


シュテフィの言葉に顔を赤らめたが、俺が何でもするというというのはどういう事かを聞かされてスッと考える顔になった。


俺も謝罪として咄嗟に出た言葉だったんだが、案外不味い事を言ったかもしれない。


もう今日動かないほうがいいんじゃないだろうかってくらい、今日の俺は抜けているな。


「色々要望はあるんですよ?

オーパーツが欲しかったり人工生命体の研究に関する設備だったり……。」


「要望の内容が物凄いんだが!?」


オーパーツなんてどこにあるか知らないし、人工生命体の研究に関する設備なんて何が必要かさっぱりだぞ?


どこか抜けてるように感じるウルリケからは到底想像出来ない内容に驚いてしまう。


「まぁ……それくらいなら村長も出来そうねぇ?」


シュテフィも少し悪い笑顔を浮かべ、俺を見ながらそう言った。


くそっ……あれは絶対俺が困ると分かっててからかおうとしているな。


「でもそれくらいなら自分でも何とかなりそうだしなぁ、どうしよう……。」


後者はともかく、前者のオーパーツは自分でどうにもできないと思うんだが。


「あ、そうだ!」


何かを思いついたように声を上げるウルリケ。


さてさて……どんな無理難題が飛び出してくるのか――頼むから前の世界にあったおとぎ話の月の姫のような無茶苦茶な願いはやめてほしい。


「アタイが前に住んでいたダンジョンに残しているオーガやナーガも、この村に住まわせてください!」


願いとしては至極当然だし、思っていたよりやりやすいものだが……実現が容易いわけではない願いが出てきた。


魔物との共存共栄か――こればっかりは俺の一存で決めれないな。


「分かった、それが出来るように俺も動くよ。」


デパートが終われば人間領の式典があるし……それが終わった時に簡単な話し合いを開くとしよう。


それから……うーん。


考えれば考えるほど結構難しい願いを言われて少し困る、話し合いの前に妻達にも意見を聞くとするか。

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