第389話 イフリートが急に意見を翻したので理由を聞いてみた。

「イフリート、どうしてドリアードの意見を全面的に認めたんだ?」


「先ほどドリアードと世界を軽く見て回ったのですが、この村の技術水準が頭一つ―ーいえ、頭二つほど抜きん出ています。

 まずこれを真似しようと思っても出来ません、もし出来たとしても効率は段違いに悪い物が出来上がるでしょう。

 そして仕様書を読む限り、軍事転用が出来ないようになっていますから。」


「軍事転用が出来ない?

 大量の魔力や魔素を貯め込むことが出来るんだ、俺がこういうものなんだが色々悪いことが出来そうだけど。」


「それについては私が説明するわ。」


俺の質問に答えたのはイフリートでは無く後ろから聞こえてきた声。


振り返ると、そこには流澪が立っていた。


「流澪、何でここに?」


「イフリートさんが魔力・魔素貯蔵庫の仕様書を読んですぐ出て行ったたから、何かと思って見に来たのよ。

 そしたらそれに関する軍事転用についての話じゃない、私だってそのあたりは考えて設計してるんだからね。」


そうだったのか……ということは、クリーンエネルギー機構もそのあたりを考えていると思うとすごいな。


魔力・魔素なんて本当に好き勝手出来そうなものだけど。


「第一に貯蔵量に限界があるわ。

 これについては当たり前の事だけど大事な事よ、多ければ多いほど性能が高い――でも、それだけ危険性も高まるのよね。

 これの対策は小分けにした貯蔵部を大量に集約したことで解決してるわ。」


「その対策じゃ危険性に関して何も解決してなくないか?」


「貯蔵部を被覆してる素材及び、貯蔵庫に使われてるのはオレイカルコスのみよ。

 オスカーさんの8割くらいのドラゴンブレスで無傷、オスカーさんが上昇できる限界高度から落としても無傷。

 どちらももちろん爆発してないわ、よってこれを誰かが軍事転用するには貯蔵してる魔力・魔素を外に出すしかないってこと。

 オレイカルコスの経年劣化は計算してないわ、毎日血を被ってる剣やナイフが一切の劣化が無かったし……だから分解出来るようにも作ってないのよね。」


オレイカルコス凄すぎだろ、そんな硬かったのか?


しかし分解出来ないのは危ない気がする……だが、劣化が無いなら考えなくてもいいのかもしれない。


プログラミングされた基盤なんかも無さそうだし、バグが起こることも無いだろう。


「でも外に出せたら、そこから軍事転用されるんじゃ……。」


「外部にこれを設置してほしいという依頼が来たらしっかり契約を結ぶし、定期的に確認もさせてもらうわ――契約外の利用をしてたら直ちに撤去、村との今後の交流は一切断つつもりよ。

 それに魔力・魔素排出口には呪いをかけてもらって、少しでも最初に設置した機材以外に流れたら排出を止めるようにするから。

 それのテストも終わってるし成功してるわよ、だからこそクリーンエネルギー機構が完成してるんだし……騒音問題はまだだけど。」


流澪は最後の言葉を発すると口をとがらせていじけ始めた。


そもそもそこまで考えてあることが凄いんだから、拗ねる事ないだろ。


基本平和だから、そこまで頭が回ってなかった俺が平和ボケしすぎなのかもしれない。


もう少し慎重にならなくちゃな、イフリートも失敗したからこそあそこまできつく脅したんだろうし。


技術は便利だが人を堕落させたり、それを悪用しようとしたりする人を生む。


これは前の世界で嫌と言うほど見てきたのに、忘れてしまっていたよ。


「と、流澪殿から説明があったように私が心配することは無い。

 本当に危険になりそうなら私達大精霊も感知出来る、もしもの時は報告しよう。」


「分かった、頼んだぞ。」


「それよりこの魔族の人は誰?

 見たことない人だけどリッカさんの服を着てるし……。」


「そういえば状況説明がまだだったな、今から話すよ。」


相当驚くと思うけど。




「そんな事があったのね、道理で魔力・魔素貯蔵庫が必要になったわけだわ。」


思ったより驚かなくて俺がビックリしてしまう、そんなスムーズに受け入れれる事実じゃないと思うんだけど。


「とりあえず魔力・魔素貯蔵庫の試作機があるから、それで人間に戻るか試してみましょ。

 それと、これに関しては人間領にも魔族領にも報告書を提出したほうがいいと思うわ。

 毎回村で解決するわけにもいかないし……何か問題が起こる前に各領で対策を練ってもらわないと。」


「その報告書は私が作ろう、人間と魔族どちらにも伝えたいこともあるし。

 当事者が書いたほうが間違いも少ないだろう?」


流澪の提案を聞いて即座に返事をしたのはリッカ。


「分かった、なら任せるよ。」


本人の意思を尊重するとしよう、当事者しか分からないこともあるだろうし。


「それより流澪、驚かないのか?」


「前の世界と比べて相当ファンタジーな環境が現実なのよ、今更何があったって驚かないわ。

 逆に前の世界のような技術や脅威が来ないと驚かないと思うわよ、それこそこの世界に居たら有り得ないことだし。」


そう言って流澪はリッカの手を引っ張って出て行ってしまった。


順応力高すぎだろ。

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