第382話 ウルリケが物凄く便利そうな技術を持っていた。

カタリナの出産から3日。


フライハイトの経過も順調らしい、ウルリケが毎日検診を行ってくれているので信用しても大丈夫みたいだ。


そのウルリケには研究所を作って、生体研究の更なる発展を……と思っていたが奥様方、主に助産師をしている人が毎日押し掛けて講義のようなものを開いてもらっているらしい。


ウルリケはおっかなびっくりみたいだが、きちんとその声に応えれているようで一安心。


だが今日ばかりはウルリケの研究所に誰も行っていない、何故か。


デパートの開店日だからである、俺も昨日知ったんだけど。


妻達はもちろん押さえていたみたいで、メアリーとウーテはいつも着ない外行きの服を着て、化粧もバッチリして出かけていった。


割と早い時間に、おかげで目が覚めてしまった。


カタリナは参加を見送るらしい――だが、メアリーとウーテにA4用紙数枚に欲しい物をしたためて渡していたのを俺は見ている。


そんなに欲しい物があるのだろうか。


デパートじゃなくても普通に買えばいいと思うんだが……売ってないのかな?


俺も欲しい物を聞かれたので、いい服があれば何着か買ってきてくれと伝えておいた。


皆からもっとちゃんとした服を着てくれと言われるからな、これを機に買っておいてもいいだろう。


俺はカタリナと一緒に居るから不参加だけど。


サイズはメアリーがしっかり測ってくれたので問題無いはず。


2人を見送って朝のルーティンを終え、現在俺はカタリナと出産施設でフライハイトの検診を眺めている。


特にやることもないし。


村長としての仕事もあるにはあるが、今はカタリナの件があるのでオスカーが代理を引き受けてくれている。


何か判断に困ることがあれば俺の所に来てくれるそうだ。


オスカーが判断に困ることに、俺がすぐに答えを出すのは難しいと思うけれど。


「あ、ちょっとごめんなさい。」


ウルリケがフライハイトの検診中、一旦中断して天井を見上げながら何かブツブツ呟き出した。


「どうしたんだ?」


「いえ、ダンジョンに置いてきてるナーガとオーガから連絡がありまして。

 美味しいご飯が無くなったので補充をしてほしいと要望が……手配していただけますか?」


「それはもちろんいいが……。

 それよりどうやってそんな連絡を取ったんだ?」


「アタイが開発した遠隔会話の魔術ですよ。

 契約魔術の応用で対象者を結び、魔力の送受信と同時に会話を――って、こんな話面白くなかったですね……ごめんなさい。

 ナーガ達には手配してくれるからもう少し我慢しておくよう言っておきます。」


ウルリケは申し訳無さそうにしながらナーガ達にそう伝え、フライハイトの検診に戻る。


「村長、さっきの遠隔会話が羨ましいんでしょ?

 すっごい子どもみたいな顔してるわよ。」


カタリナが笑いながら俺をからかってくる――でも仕方ないだろう?


超お手軽に離れた場所の人同士が会話出来るなんて、流澪の技術で電波が普及するまで不可能だと思ってたし。


例外があるとすればミハエルの言霊との契約だが、あれは魔力を相当使うし言霊自体が稀少な存在だから非現実的だった。


だが、ウルリケの遠隔会話は違う。


開発した魔術だという事は他の人にもそれを施すことが可能なはず、その証拠にナーガやオーガにそれを適用出来ているからな。


まさかウルリケがそんな技術も持っていたなんて思いもしなかった。


シュテフィはこの事を知っていたんだろうか?


「さて、フライハイト君の検診も終わりました。

 今回も異常なしで――村長、どうされたんですか……?」


ウルリケは俺を見て少したじろいでいる、そんな不審者を見たような反応されると傷つくぞ。


「ウルリケ、その遠隔会話の魔術って村の皆に適用する事って出来るか?」


「うぇぇ!?

 出来なくはないですけどぉ……物凄い時間がかかりますよ?

 結構複雑な魔術式なんで誰かに教えても分からないと思いますから、私が一人一人対応するしかないので。」


「それでも構わない、空いた時間でいいからやっていってくれ。

 順番は俺と妻達、そして各種族の長からだな――その後順次各種族に適用させていってくれれば助かる。」


「出来ることはさせてもらいますよ、こんな私を理解して住まわせてくれてますからね!」


ウルリケは笑顔で快諾してくれた、これで一気に生活が便利になること間違いなしだ。


前の世界で言う携帯電話が実装されたのと同等の進歩だ。


しかも常時無線イヤホンマイクで通話出来てるようなものだし、これは相当便利だぞ。


出来ることやしなくても良くなることなど、色々考えているとウルリケが俺を呼ぶ声がした。


「あ、村長。

 少しお願いがあるんですけど。」


「どうしたんだ?」


「魔力を貯蓄し続けれる機構を準備することって出来ますか?

 それがあれば遠隔会話の送受信の大本をそれに任せれるので、実装までの時間が大幅に短縮するんですよ。

 問題は混線しないようにしなければならないのですが……そこはアタイの腕の見せ所ということで!」


「魔力を貯蓄し続ける機構か……。

 カタリナ、何か心当たりはあるか?」


「災厄の集塊にかけられていた黒魔術を上手く応用出来ないかしら?」


カタリナがかなり物騒な事を言い出した、確かに似た技術だけどさ。


「黒魔術!

 太古の禁術に通じた人が居るんですね……ですが危険そうでは?」


「実際危険だ、だが中に居た奴はまだオスカーの体内に居るはずだったな。

 呼んで話を聞いてみるとしようか。」


「是非!」


俺が頼んだはずだが、今度はウルリケが俺にお願いをしてきた。


オスカーも災厄の集塊も黒魔術に精通してないんだけどな……まぁそれは後で説明しよう。


それじゃ、オスカーを呼んでくるとしようか。

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