第380話 ウルリケの説得が無事に終わった。

「あー確かに、言ってなかったかも。」


俺とウルリケは食事を済ませてシュテフィの家を訪ね、ウルリケが村に住むかどうか意思を聞いたかどうか確認してみた。


結論はウルリケの言う通りだった、何も聞かずに荷物を全部纏めて住んでた場所から引きはがすのは強盗と誘拐のダブルパンチじゃないか……。


蛮族じゃないんだから。


「でもウルリケ、あそこで一生暮らすよりこの村で暮らすほうがいいでしょ?」


「それはそうかもしれないけど……。」


「逆にどうすれば村に住んでもらえるんだ?」


俺はウルリケの技術が欲しいので逆に聞いてみることに、奥様方だってウルリケは村に住むものだと思ってるだろうし。


「逆ですよ逆!

 アタイなんかがこんな村に住んでいいのかって……出産では助けれたからあぁ言ってくれたけど、本当は私の技術を良く思ってないかもしれないし……。

 昔のシュテフィだってそうでしょ、ちょっと思い出したけど気持ち悪いって言ってたしさ。」


「確かに気持ち悪かったわよ、でもよく考えてみて?

 家を訪ねたらそこら中に魔物と動物の死体・臓物・肉片・血溜まりで足の踏み場も無い。

 その奥で明かりもろくに付けず、不気味に微笑みながら何かの研究をしている同士――気持ち悪くない?」


それは気持ち悪いし怖い。


ホラー映画とかじゃなく、実際にそんなシチュエーションに直面したら俺は卒倒する自信があるぞ。


映像なら平気だが実際のスプラッタやグロはダメだ。


「え、えぇ……そんなだったかなぁ?

 研究が終わったら、いつも部屋は綺麗だったよ?」


「私と他の同士が片付けてたのよ!

 食用にしたりナーガに与えたり……蛆が湧いてたやつは焼却処分してたっけ。」


うぷ……聞いてるだけで気持ち悪くなる会話だな。


研究をし始めると周りが見えなくなるタイプなんだろうか……なんにせよ村で研究を続けるにしても片付けはキチンとしてもらわないと。


「そうだったの……ごめんね、ありがとう。

 でもそんなだったら、村に住まれるのは迷惑じゃない?」


「片付けさえしてくれれば問題無いぞ。

 生きるためにはそういった研究と知識が必要なのは、俺だって分かってる。」


「でもまた必死になって片付け出来なかったら……。」


「そうなれば私がまたしてあげるわよ、プラインエルフ族やラミア族には見せられない惨状になってるかもしれないし。

 私も生活魔術は覚えたから片付けだって楽々だわ、ウルリケも今度覚えてみたら?」


鉱石を掘りながら鍛錬所で鍛錬しつつ、生活魔術を修めるまで勉強してたなんて……いつの間にそんな時間を作っていたんだろう。


吸血鬼族だし、もしかしたら睡眠時間は少なくていいのかな。


何にせよ羨ましい。


「生活魔術って?」


「日々の暮らしが超快適になる魔術よ。

 これがあるのと無いのじゃ天と地ほどの差があるわね――昔にも欲しかったって思うわ。」


シュテフィはそう言いながら家の中を生活魔術で掃除するところを見せた。


部屋の埃が一瞬で1ヶ所に纏められて窓の外へ、そして少し散乱していた本が本棚に戻っていく。


よくよく考えれば生活魔術って物を動かすことの出来る魔術だよな、運送関係に応用出来そうだ。


そのノウハウを魔族領と人間領に伝えれば、取引も多く出来るようになりそうだし……今度話し合いで出してみよう。


「すごい、確かに便利だわ!

 ――こう、かしら?」


ウルリケがシュテフィと同じように指を動かすと、片付け残していた本が本棚に戻っていく。


なんだ、使えるんじゃないか。


「待って、今の1回で習得したの?」


「魔力の流れ方でなんとなく分かったよ?

 そんな難しいことじゃなかったから……何か変?」


「変っていうかすごいのよ。

 私は生活魔術を習得するのに季節が1つ変わるまでかかったから。」


シュテフィはそう言うと、ウルリケは不安そうにしながらシュテフィの顔を覗き込む。


嫌味に聞こえたと思っているんだろうか。


「……ごめんね?」


「いいのよ、その才能に気付けてなかった私も悪いし。

 昔に気付けてたら何か変わってたかもしれないけど――それは言ってもしょうがないわ。

 今の生活の方が断然楽しくて快適だもの、後悔は少しあるけど満足はしてる。

 だからウルリケも村に住みなさいよ、不安なら私の家に住んでもいいから。」


ウルリケはシュテフィにそう言われてオロオロしながら「うーんうーん。」と唸り出す。


長く生き別れていた同族にここまで誘われて悩むとなると、村に住んでもらうのは難しいのかもしれない。


非常に残念だけど、強要は流石に出来ないからなぁ。


「その……吸血させてくれる方かトマーテが無いと……。

 あのダンジョンではトマーテが生成されてるから生きれるけど、地上じゃ珍しい物だし。

 シュテフィさんが占有してる分でいっぱいいっぱいじゃないかなって。」


「何だそんな事なの。

 この村でトマーテが無くなることなんて無いわ、だから私もトマーテで生きてるし。

 しかも相当質がいいから下手に吸血するより元気になれるわよ、それをウルリケも食べていいから。」


それを聞いたウルリケは細い尻尾をピンッと伸ばして嬉しそうな顔をする。


「……ホント?」


「本当だ、この村でもダンジョンから家畜や作物を生成しててな。

 そこでトマーテも生成してる、異世界の高品質なものだから美味しいぞ。」


「……実験や研究もしていいんですよね?」


「もちろんだ。」


「住みます!

 いえ……住ませてください!」


ウルリケは手をがっしと掴んで俺にお願いしてきた、もちろん快諾。


シュテフィもそれを聞いてほっと一息、よかったな。


「ウルリケの家はどうする?」


「出来れば同族のシュテフィさんと一緒に住みたいな、って……でも迷惑ですかね?」


「元々広く作ってもらってるからウルリケ一人くらいどうとでもなるわよ。

 ただ、近くに実験室を作ってあげないと――また気づいたら家中肉片になっても困るし。」


俺の手を握りながらバツが悪そうに「たはは……。」と苦笑いするウルリケ、気を付けてくれよ?




その後はウルリケの荷物をシュテフィの家に運び込んで解散。


村のルールや過ごし方のレクチャーはシュテフィがやってくれるそうだ、助かる。


俺はカタリナの所へ戻るとしよう、今は俺もカタリナと子どもを一番に考えてやりたいし。


隔日でもいいから俺も泊まらせてもらうとしよう、カタリナばかり寂しい思いさせるのは可哀想だからな。


それよりまずは名前だ、そろそろ考えなきゃと思ってたけど産まれてしまったし。


カタリナは何か考えてるのだろうか――考えてそうだなぁ。


怒られないことを祈ろう。

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