第379話 カタリナの出産が終わったので、皆で話をした。

ウルリケのおかげで出産も終わり、カタリナもポーションで体調も回復


カタリナ本人は、俺が食堂で貰って来たカタリナの好きな食べ物詰め合わせを笑顔で頬張っている。


赤ちゃんを眺めながら幸せそう――かと思ったらふと寂しそうな表情を覗かせた。


「産まれてすぐに抱きたかったなぁ。

 そんな急いで出て来なくてもよかったのに、何を慌てたのかしら。」


そうか、自分も赤ちゃんも無事だけど出産してすぐ赤ちゃんを抱くという女性の特権でもあり醍醐味を体験出来なかったんだよな。


それは悲しいだろう、考えが足りなかった。


「今は無事に産まれただけでも良しとしておこう。

 村の皆、それにウルリケ――ありがとう。」


「いやいや、私達なんていつも通りの事をやっただけさ。

 それよりそこのウルリケって人が物凄くってね、触診だけで赤ちゃんの状態をズバリ言い当てて適切な処置をしてくれたのが一番すごかったよ。」


「え、えぇぇっ!?

 アタイは頼まれたからやってただけで……出しゃばりすぎたかなって不安になってたんですよ?」


「そんな事ないさ、早産は珍しいから私達でも難しいんだよ。

 それをあそこまで早く、しかも赤ちゃんが生きれるようにあんな機具と液体まで作るなんて……ウルリケちゃんが居ればここの出産施設は更に安泰だね!」


奥様方は笑いながらウルリケにそう言うと、当の本人は戸惑っているような不思議な表情を浮かべている。


素直に褒められたのを受け取ればいいのに、とも思ったがウルリケはシュテフィが封印されてる期間と同じくらい一人で過ごしていたんだっけ。


そんな人物が今こうして人と普通に話しているだけでも相当頑張ってるのかもしれないな。


「私からもお礼を言うわ。

 どんな形であれ赤ちゃんを生かしてくれたんだもの、ありがとう。」


「うぅ……いえ、それほどでも。

 ところで皆さんにお聞きしたいんですが、アタイの技術を見て何か思うところはないんですか?」


「どういうこと?」


カタリナがどうしてそんな事を言うのか分からないといった表情でウルリケに質問を返す。


奥様方も同様らしく、うんうんと頷いてカタリナの質問に乗っかっていった。


「例えば、気持ち悪いとか異質だとか。

 どうやってそんな知識と技術を手に入れたんだとか……何かあると思うんですよ。」


――なるほど、ウルリケがどうしてそんな事を気にするか何となく分かったぞ。


動物や魔物を使って実験や試験を行ってきたんだろう、それを過去に責められたか今になって罪悪感を感じてるか……そんな所だろうな。


生きるために必要な知識と技術を得るなら、それは必要な犠牲だったと思うけど。


理想としては人間や魔族、それにほかの種族や魔物、動物――すべてが仲良く健康に生きるのが一番だろう。


だが、それは理想であり決して叶わない現実でもある。


前の世界でも他の動物の命を大事にしようと声を挙げている団体は存在してたが、行き過ぎた意見があったのも事実だ。


ウルリケはそういった所が怖くなっているんだろう。


シュテフィの話では相当性格が悪かったはずなんだが、長年の孤独な地下生活で丸くなったのかな?


まぁそれはいいとして、皆考えてるみたいだし俺の意見から伝えるとするか。


「俺は何とも思わないぞ。」


「そうねぇ……私も特に何も思わないかな?

 それにそんな事言ったら、村長なんて材料さえあれば何でも瞬時に作れちゃうのよ?

 命を自分の知識欲の為に使った、とかそんな所で罪悪感があるんでしょうけど――村長は村の住民を生かすために作物や動物に対して、自由に生きる権利なんて与えてないわよ?

 そんな人がこの世界の神なんだから、それくらい気にしないの。」


カタリナから厳しい声が挙がる、でも皆喜んでるからいいだろ?


奥様方もうんうんと頷いてないで、もう少し俺を庇ってくれてもいいと思う。


事実だから仕方ないけどさ。


「でも……。」


「でもも何も無いの、ウルリケさんは私と子どもをその知識と技術で救った。

 それは揺るぎない事実なんだから、ありがたく感謝を受け取ってよ。」


「……はい!」


ウルリケは涙ぐみながらカタリナの言葉に返事をする、よっぽど気にしていたんだろうな。


「さて、出産も話も無事に終わったし……そろそろ帰るとするか。

 カタリナはどうする?」


「私は子どもがここから出てこれるようになるまでここで寝泊まりしたいな。

 奥様方の邪魔にならなければだけど……いいかしら?」


「もちろんです、部屋は他にもありますし―ー私達もこの培養液に興味がありますから。」


カタリナは少し不安げに奥様方に聞いてみたが快諾、良かったな。


「分かった、俺は家に帰るが毎日ここに寄ることにするよ。

 それじゃあな。」


「わかったわ、また明日ね。」


俺とウルリケは外に出て大きく伸びをした。


「んんー……っ、俺は何もしてないはずなんだけど少し疲れたな。」


「アタイは大分疲れました……ここからダンジョンに戻るとなると少し骨が折れます。

 また連れて行ってもらおうかな。」


「え、村に住まないのか?」


「え、えっ?」


ウルリケは目を真ん丸にして俺の顔をじっと見つめる。


「俺はてっきり住むから荷物も全部持ってきてるものだと思ってたんだけど……違うのか?」


「ダンジョンから出るとしか聞いてませんよ……てっきりカタリナさんの出産を手伝わせるために連れ出されたと思ってたんですが。」


一体どんな話をしてウルリケを連れて出てきたんだ……。


とりあえず食堂で腹ごしらえをして、一番仲がいいであろうシュテフィのところへ行って話をしようということで俺達の意見はまとまった。


実際お腹も空いてたし。


それにウルリケは役に立つ技術と知識を持ってる、是が非でも村に住んでもらわないとな。

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