第369話 久々に村の見回りをして過ごした。

クズノハが気を失ってから2日が経った。


あれから一切目を覚まさずぐっすりと寝ているらしい、よっぽど疲れてたんだろうな。


当初予定していたグレーテから魔王への報告はいつの間にか遂行しているらしく、ファントム種の事は伏せて今は休んでいるとだけ報告をしてくれているらしい。


恐らくは知らないだろうし、今はそれが正解だろうな。


報告の時に魔族領から泣いて頼まれたクズノハへの仕事を持って帰って来て困っていたグレーテを見たキュウビは、受け取ってしばらく読んだ後ペンを走らせてグレーテに書類を手渡していた。


「この通りにすればよいと伝えておいてくれ。」


「え……あの……はい。」


結構な情報量だったが10分もかからず全て処理し終えたキュウビにグレーテが驚いていた、俺も驚いたけど。


流石は人間領の施政に長く携わっただけ……いや、あれはそれだけじゃないな。


キュウビ自身の実力だろう、村を任せてもいいくらいだ……しかしメアリーはそれに知恵比べで勝ってることに気付く。


村の住民の実力、やっぱりおかしいよ。




村は花の季節前のデパートの準備で大忙し。


俺は特にやることもないので村を見回り、こうしてゆっくり見回るのも久々な気がするな。


魔族領の宴会も終わったし次は人間領の式典だと思い、リッカに日程を確認したがまだ少し先とのこと。


何故かと聞いたらデパートがあるからだそうだ。


神より優先度の高いデパートの開催……神が世界に手出ししなくてもこの世界は上手く回っていくと思う。


だが俺がここに顕現出来ているのは不干渉の約定を結んでいないからだ、星の核の啓示が少ない以上俺がある程度この世界を引っ張っていかないとな。


……後で流澪に相談してどういう知識を広めればいいか聞くとしよう。


見回りをしても特に異常は無かった、強いて異常を挙げるなら流澪から追加で生成するようお願いされたシュムックを狂気が混じった笑顔で加工するアラクネ族が居たくらいだ。


正直怖かった、多分嬉しいんだろうけどさ。


見回りを終えて村を一望出来る高度まで上昇して考え事をしていると、突如後ろから声が聞こえてきた。


「村長、少しよろしいでしょうか?」


「どうしたんだ?」


振り返るとマティルデがそこに居た、空の哨戒ルートよりだいぶ上に居たはずなのによく見つけたな。


「いえ、少しの間ですがこの村に滞在させていただいて思ったことがあるのでお伝えしたく……。」


「それはありがたい、外部から来た人の意見は貴重だからどんどん言ってくれるといいよ。

 だがそんな畏まらなくてもいいのに、どうしたんだ?」


「ドラゴン族からあそこまで敬意を払われてる方に普通の態度なんて取れませんよ!?」


なるほど、それが理由だったか。


しかしそのあたりは村に来る前に伝えてたような気もするけど……ウーテだって居たし。


半信半疑だったのだろうか、まあそれも仕方ないかもしれない。


「気にしなくていいぞ。

 それより意見を聞かせてくれ。」


「……分かりました、では少し言葉を崩しますね。

 何日かこの村で暮らして思ったのは――村長、いえ神様に対する想いや祈り、行動が足りないと思うの。

 皆生活に関する仕事しかしてないし、プラインエルフ族とパーン族は神殿で祈りを捧げてるけどその2種族くらいだもの……神様としてそれでいいのかと思って。」


「構わないぞ、俺は宗教に口出しするつもりはない。」


「でも……。」


「そういうのは強要すると反発が起きるものだ。

 実際俺の力は大きくなっているのを感じるし、現状で何も困っていない。

 マティルデのそういった気持ちは有難いけど、それを皆に強制させるんじゃなく自分で思ったようにやってくれればいいから。」


俺の返答に納得いかなかったのか、口を少し尖らせて黙るマティルデ。


天使族は種族全体で祈りを捧げている種族だったからな、村のように祈りを捧げない種族に違和感があるんだろう。


こればっかりは慣れてもらわないと困るし、マティルデが声を挙げて反発が起きたりするともっと困ったことになる。


何とか納得してもらわなければ。


「今の状態でも力が大きくなってるなら、皆が祈りを捧げたらもっと大きくなるんじゃないかしら?」


「その祈りが本物だったらな、だが面倒くさいと思いながらやられてもきっと力にはならない。

 それに反発から俺への不信感が出ればマイナスだろ?

 だから悪いことをしない限り俺は任されている仕事をしてくれていれば問題無いと思ってる。

 それに力を大きくしたところでこの世界を掌握するつもりもないしな。」


「そうなの!?」


「話し合いの結果神の庇護下に入るなら止めないが、俺から進んで支配しにいくつもりはないぞ。」


そんなことしたって面倒くさいだけだし、統一より交流のほうが遥かに簡単で気が楽だ。


神の力を使えばどんな人数でも生活に困らないように出来るんだろうけど、そんな疲れることは出来るならやりたくない。


今の状態がベスト、まだ未発見の大陸や島はいずれ見つけに行きたいけどな。


「それならいいのよ、てっきり神様になりたてっていうから世界を統一するものだと思ってたから。」


一体マティルデの目には俺がどんな風に映っていたのだろうか。


そんな物騒な事を考えるような立ち振る舞いをした覚えは無いが……ここに住む多種多様な種族と力を見てそう思ったのかもしれない。


実際俺が居なくても村の住民だけで世界を統一出来ると思うし、主にオスカー夫妻だけで。


あんなの俺でも勝てない。


「そうそう、さっきの話も重要だったんだけどもっと重要な事があるの。」


「どうしたんだ?」


「マルクス城へ報告書を送りたいんだけど……どうやって送ればいいのかしら?」


……。


転移魔法陣も何も準備してないな。


すまん、すぐにそのあたりの整備に取り掛かるから許してくれ。

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