第368話 もう一人のクズノハから詳しく話を聞いた。

「一体何がどうなってるんだ、詳しく説明してくれ……。」


クズノハの中にもう一人のクズノハが居ると言われただけでも混乱しているのに、交代が自由でぱっと話した感じクズノハと雰囲気が何も変わらない。


本当に訳が分からない、何故こんな重要な事を黙ってたんだ。


「我はファントム種じゃよ。

今は我……じゃない、クズノハ殿に憑依させてもらっておるからクズノハ殿と同義じゃ。」


「何で憑依したからってクズノハと同義になるんだ?」


「ファントム種は自分一人じゃ生きていけぬ、誰かに憑依して初めて力を出せるんじゃ。

 そして憑依したらその者の命が尽きるまで、その者の魂が休みたい時に我が代わりに活動するんじゃよ。

 知識の共有はお互い済ませておるし、人格の複製も出来ておるから特に不便も無いしの。」


俺はそれを聞いて口をあんぐりと開けたまま固まることしか出来なかった。


だってよくわからない、ファントム種はクズノハであってクズノハじゃないけどクズノハと同義……?


いかん、頭がこんがらがってきた。


「つまり、今この場がクズノハ本人でもファントムでも何も問題無く会話が進むということか?」


少し険しい顔でキュウビがクズノハ、もといファントム種に質問を投げかける。


「そうじゃよ。」


「その状況でクズノハに不利益はあるのか?

 内容次第ではお主をクズノハから追い出さねばならんが。」


「何も無いのじゃ。

 我は憑依させてくれるだけで有難いし。」


「実際何も無いかもしれないが、ダンジョンコアの作り方をクズノハに教えただろう……あれは命の欠片と言って寿命を材料にしているんだ。

 それについて何か思うところは無かったのか?」


「良く知っておったの、流石は神様じゃ。

 その質問の返事は……それも何も無いのじゃよ。」


「貴様ッ……!」


ファントム種の返答を聞いたキュウビは思い切り掴みかかり、そのままクズノハを持ち上げる。


「貴様の知識のせいでクズノハが幸福に過ごす時間が減ったのだぞ!

 それを何も思わないとは……所詮は憑代が無いと生きれない霊のようなものか!」


キュウビを止めようとオスカーが腕を掴むが、抵抗出来ているのかキュウビはクズノハを下ろそうとしない。


……オスカーに抵抗出来てるってすごくないか?


「苦しッ……理由、説明すっ……!」


ファントム種は物凄い苦しそうにキュウビの腕を叩きながら何かを言おうとしている。


まずい、あのままじゃクズノハも死んでしまう!


「キュウビッ!

 クズノハも殺す気か、その手を放せ!」


オスカーはキュウビの耳元で怒号を飛ばす、それを聞いたキュウビは我に返ったのか腕を離してクズノハの襟元を直しだした。


「すまん……。」


「ゲホッゲホッ……ふぅ。

 キュウビ殿はクズノハ殿を相当慕っておるんじゃの、これはクズノハ殿の知識にも無かった情報じゃ。

 さて、クズノハ殿の寿命の件で何も思わなかった理由を説明するのじゃよ。」


理由次第では俺も怒らなきゃいけないけどな。


それよりキュウビだ、落ち着いたとはいってもまだ臨戦態勢を取っている。


右手は鋭い爪をあらわにし、左手には物凄い渦を巻いてる狐火のようなものを展開してるし。


あれを使って攻撃したら村が半壊しそうな気がする。


「クズノハ殿の寿命は減っておらん。

 我の命……のようなものを使ってダンジョンコアは作っておるから安心してほしいのじゃ。」


「ファントム種の命のようなもの?」


「そうじゃ、ファントム種は生まれながらにして不老不死なんじゃよ。

 じゃが憑依していると憑代の生命活動から命を少し分けてもらえる、それを使ってダンジョンコアを作っていたというわけじゃ。

 ちなみに寿命を消費したら作るのに1日もかからんぞ。」


なるほど、それでダンジョンコアを作るのに何十日もかかっていたのか。


ファントム種の言葉を聞いたキュウビも落ち着いただろうかと思い、視線をちらりとやると未だ怒りは収まっていない様子。


まだ何かあるのだろうか……。


「ファントム種、百歩譲ってお前の言葉を是と捉えてやろう。

 だがここ最近のクズノハの様子はどういうことだ、憑依しているお前が何かしていると言われても仕方ない状況だが?」


「単純に過労じゃよ。

 何度も休めと言ったんじゃがダメの一点張りでの……我も心配じゃったが魂が悲鳴をあげて強制的に休むようになったから我が代わりに動いていたんじゃ。

 我が居なければ倒れておるぞ、体は相当ガタが来ておるから休むことに越したことはないがの。」


「……本当か?」


「本当じゃ。」


「クズノハに変われ、問いただす。」


コクリと頷いたファントム種は目を瞑って俯く、その直後顔を上げると少し疲れた表情のクズノハが目を開けた。


ファントム種より明らかに疲れが顔に出てる、言ってた事は本当みたいだな。


「クズノハ、ファントム種から色々聞いたが本当の事か?」


「ん……本当じゃ。

 ファントム種め、助けてやると言っておったのに……。」


パチン。


クズノハが愚痴を零した直後、キュウビがクズノハの頬を叩いた音が響く。


おま……嫁入り前だぞ!


「な、何をするんじゃ!」


「莫迦者、どうして素直に休まなかった。

 周りに心配かけておるとも知らずに……。」


直後キュウビがクズノハを抱きしめたまま膝から崩れ落ちる。


数少ない同族、よっぽど心配していたんだろうな……キュウビがあんなに取り乱すなんてそうそうない事だろうし。


「すまぬ……。

 しかしやることが多くての……。」


「そういう時こそ周りを頼れ、そこまでやった者を認めぬ者など居らぬだろう。

 それとも魔王はクズノハにそこまで仕事を強要するような輩なのか?」


「ワル……魔王はそんな事せぬぞ。

 我が自分から請け負った仕事じゃ。」


「やはりな、相談してしっかり疲労が抜けるまで休暇を貰うがいい。

 どうしてもやらなければならぬ仕事は私に持ってこい、全て的確に処理してやる。

 もちろん守秘義務は守るから安心するがいいぞ。」


長く人間領の施政に携わって来たキュウビが言うなら間違いないだろう、これでクズノハも安心して休めるな。


「分かった、のじゃ……ぐぅ。」


クズノハも安心したのか、返事と同時に眠ってしまった。


とりあえず一件落着……かな?


クズノハが寝てしまった事で話し合いも解散、キュウビがクズノハを家まで運ぶという事で各々仕事に戻ることに。


まだファントム種と話したいことがあったけど、今はこれでいいだろう。


問題は魔王がこれを知っているかどうかだよな、タイミングを見てクズノハに聞いてみるとするか。

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