第362話 メアリーが所有者のダンジョンの中を見学した。

「あーあー危ない危ない……。」


現在俺はメアリー達と一緒に冒険者達の訓練を見学している。


だがあまりの危なっかしさに俺もつい不安を口にしてしまう――村の住人達やタイガと違って攻め方や敵の攻撃の避け方に余裕が無いんだよな。


というか型にはまった動きしか出来てない気がする。


グレーテは頭を抱えてうずくまっている所を見ると、俺の考えはあながち間違ってないのだろう。


まさか完全インドア派の俺が人の戦い方に改善点を見つける日が来るとは思わなかった……ドリアードの力を借りて身体能力を向上させて見てるけど。


多分これをしてなかったら改善点なんて見つかってない、多分危なかっしいなと思うくらいが関の山だ。


「皆ダメだよ、攻撃の時に腰が引けちゃってる。」


「ですがオークやオーガからいきなりワイバーンはちょっと、というかかなり怖いんです!」


「大丈夫だよ、飛べないからそこまで強くないって。

 それにそんな腰が引けてる攻撃でもワイバーンにダメージが通ってるでしょ、実力は付いてるんだから自信を持って。」


グレーテはワイバーンからの攻撃を全て往なしながら冒険者達の指導を行う、必死に攻撃してるワイバーンが可哀想に見えてきたぞ。


ほら、ちょっと目に涙が浮かび上がってる。


感情はあるんだな、これ以上知ると食べるのが辛くなる気がする……と思ったが気がしただけだった。


ワイバーン肉の味を思い出すと、そんな気持ちもヒュンッと引っ込んでいったからな。


あれは本当に美味い。


ユニコーン肉美味しかったけど……いや、ダンジョンから生成されてた家畜の肉も美味しいな。


うん、全部美味いということで。


閑話休題。


冒険者達はグレーテの言葉を聞いて少し自信が出てきたのか、さっきよりちゃんと攻撃が出来ている。


「あれなら大丈夫そうですね。

 しかしオレイカルコス製ではないのにあれだけダメージを与えるとは、ドワーフ族すごいですね……。」


「冒険者達が凄いんじゃないのか?」


メアリーがぽつりと零した言葉に俺が質問をする、いくら何でも武器だけ褒めるのは可哀想な気もするし。


「見てお分かりだと思いますが、冒険者達は実力を出し切れていません。

 なのに鉄製の武器でワイバーンに傷を与えているんですよ、これは凄いことです。

 今でこそワイバーンも楽勝ですが、実際あの鱗は相当硬いですからね。」


実力をきちんと出せてるならもっとダメージが与えられてるという事か、武器だけを褒めたわけじゃないんだな。


それなら確かに武器が凄い、前に言ってた純度が高い鉄の試作品なのだろうか。


今度聞いてみるとしよう、刀が更にいい物になるなら打ち直してほしいし。


まずは訓練からだけど……ドリアードの力を使った状態で流澪とリッカに刀術を教えてもらうとしよう。


「それなら喜ばしい事だな。

 村の特産品の質が上がるのは良い事だ。」


「魔族領と人間領の鍛冶職人が泣き寝入りしなければいいのですが……。」


そのあたりは大丈夫だと思う、値段が違いすぎるし。


多分この感覚は貨幣経済に触れ始めて間もないうえ、収入が世界で見るとかなり高い側に居るから分からないのかもしれないな。


金貨一枚の価値を考えると、住民一人一人の収入は物凄いことになってる。


今後は造幣に関わらせてもらえるらしいから、村全体でそのあたりの価値もしっかり勉強させてもらうとしよう。


そういえばマックスが来ると言っていたな、その時に講義を開いてもらうとするか。


「しかしグレーテさんもすっかり村側の実力を持ってますねぇ……。

 毎日ドラゴン族やウェアウルフ族と訓練してれば当然といえば当然ですが。」


そう言われてグレーテが居るほうを見ると、冒険者達が1体ずつ相手に出来るよう攻め入ってくるワイバーンを止めている。


見た感じ6体くらいかな、この村の実力は一体どうなっているんだ。


冒険者達もそっちが気になって仕方が無いのかチラチラ見ている……あ、グレーテに気付かれて怒られた。


それはグレーテが悪いと思う。




冒険者達はグレーテが居れば大丈夫だろうと言う事で家畜が生成される層へ。


メアリーと狩り部隊は主にここが仕事場となるからな、ちゃんとチェックしておきたいらしい。


「ユニコーンも試しに生成してるんですよね。

 あまりに被害が酷いようなら生成を止めますが。」


言葉だけ聞くとかなりマッドだが、村のため……そもそも俺が最初にやり出したことだし。


狩り部隊はすごい速さで周囲の状況把握をしている、ダンジョンに入ること自体今日が初めてらしいからな。


「各種ごとに柵で囲ってもいいかもしれませんね。

 閉塞感が出ないようにと何も無い広い空間を希望したんですけど……。」


結構な広さに少し戸惑っている様子のメアリー。


実際これどうなってるんだろうな、ここまで広いと村の建物の基礎に干渉していそうなものだけど……まさかここ異空間なのかな。


しかし原油は地上から直接汲み上げれたし……うーん。


そのあたりはダンジョンコアが調節できるのかもしれない、あれもあれで神に近い力を持ってるし。


そう思うとあれを作れるクズノハってすごいな、どこでそんな事覚えたんだろうか。


まぁいいか。


「柵はユニコーンの被害が確認出来たらでいいんじゃないか?

 何も無いほうが実際動きやすいだろうし。」


「そうですね、そうしましょうか。」


「それじゃ俺は作物の層を見てくるよ。

 元々俺の仕事はそっちだったからな、ちゃんと出来てるか確認しないと。」


「分かりました、よろしくお願いいたします。」


俺はメアリーと別れて上の作物の層へ向かう。


上手く行ってるとは思うが、一応確認しておかないとな――それと、それが終われば俺が所有権を持ってるダンジョンに生成されるものの調整をしないと。


こういうのは最初の準備と調整が大変だが、それが終わってしまえば一気に楽になるからな。


村のため、俺のために頑張るとするか。

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