第349話 風呂から出ると、見慣れない男の子が食堂に居た。
風呂でオスカー達との談笑もそこそこに、俺は食堂へ足を運ぶ。
神様になってもお腹はしっかり空くので、人間と変わらず食事は生きるのに重要なファクターだ。
食堂に入ると早速コロッケを食べる人が多数見受けられる。
流石デニスだ……技術をものにするスピードもそれを実現するスピードもハンパじゃない。
ワイバーンの肉が食べたかった気持ちもあるが、あれはシュテフィの能力で時間が止まってるしいつでも新鮮な状態で食べれるだろう。
量が量だし宴会を開いてもいいかもな、マティルデも村に来てくれてたし。
俺がコロッケとご飯、それにサラダを受け取って席を探していると俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
声の方向に視線をやると、メアリーと知らない男の子が食事を取っている。
「開様、ちょうどよかったですよ。
こちらの方を紹介したくて。」
「俺もここに来る途中誰か気になってたんだ、この子は誰だ?」
「少なくともアンタよりは長生きしてるけどな!」
見た目通り少し生意気な口調だが、俺より長生きしているという事は長命な種族なのだろう。
「もう、シルフ様ったら開様にそんな口調でいいんですか?
先ほど話した通り、開様はこの村の村長でありこの世界の神様なんですよ?」
「ふん、ドリアードやイフリートが認めても僕は認めないぞ!
前の神様は嫌いだったけど。ちゃんと力があったから納得してた――けど、こいつは元人間だろ?
いくら神様でも大精霊をどうこう出来るとは思えないもんね!」
シルフと名乗った男の子はふんぞり返って大声でそう発言すると、周囲に居た村の住民と来訪者が一気に睨む。
それに気づいたシルフは驚いた後に委縮して、ただでさえ小さな体が更に小さくなった。
これだけの実力者に睨まれたらそりゃ怖いだろうな……ドラゴン族にウェアウルフ族、リザードマン族と戦いに長けた種族が多かったのも間が悪かっただろう。
しかもシモーネ・キュウビ・ヒルデガルド・シュテフィと村の女性最強クラスに睨まれたのも効いてるはずだ。
小声で「いくら大精霊様でも村長を侮辱すると許さないから。」と誰かが呟いたのも聞こえてくる、俺も怖いからやめてあげてくれ。
「……前言撤回します、ごめんなさい。」
「俺も怒ってなかったんだけどな……神の力はあるが戦闘と言う面では絶対敵わないだろうし。
シルフのいう事も一理あるのは分かってるつもりだから。」
「これだけの力を持った種族に慕われてたら十分じゃないかな……?」
シルフは半泣きで俺との会話を続けようと頑張っている……メアリーもシルフの頭を撫でて励ましているし。
まるで少し成長したカールをあやすみたいだ、やはり母親の性なのだろうか――こういう小さな男の子は大精霊と言えど放っておけないのかもしれない。
「ところでメアリー、シルフを紹介したいってどういうことだ?
村に訪れているというのはイフリートから聞いてたけど。
そうだ、イフリートと言えばオスカーと契約してたんだよ、メアリーは知ってたか?」
「えぇ、私もその場に居ましたから。
それと同時に私もシルフ様と契約させていただいたんです、それを伝えたかったんですよね。」
……ん?
「こんな所にドリアードとイフリートだけ住むのはずるい!」
シルフもシルフでそんな理由だし。
「ということは……大精霊4人がこの村に集結したってことか?」
「え、ウンディーネも来てるの!?
ずーっと行方不明だったから心配してたんだよね、昔はルーン文字で無限水源として囚われていたけど……あれは僕が解除したし。
世界の水を無理矢理風で抑えたり雨雲を吹き飛ばしたり、結構大変だったんだよ?」
「解除したはいいけど、それをそのまま破壊してくれてたらまた囚われなかったんだけどなぁ?」
シルフが自慢げに過去の事を話してると、ウーテとウンディーネが食事に合流してきた。
「え、破壊って?」
「あんたルーン文字が書かれた石の一部を削っただけでしょ。
あれを偶然復旧されて、私はまた囚われてたの。」
「う……そうだったっけ、ごめん。」
シルフは詰めが甘いんだな……俺も人の事言えないけど。
それに会話していてイフリートが言わんとしてることは分かった気がする。
シルフはヤンチャだが根はいい子だ、ちゃんと謝れるし誰かを助けようとする気持ちもあるし。
その後は久々にあった大精霊達が集まり酒盛りを始めたので俺とメアリーは退散。
2人で食後の散歩がてら夜の村を歩くことにした。
散歩中、ふとメアリーが鍛錬所に行きたいと言ったのでその足で鍛錬所へ。
中には誰も居なかった……時間を考えれば当然と言えば当然だけど。
「申し訳ございません、開様の意見を聞く前にシルフ様と契約をしてしまって。」
「それは構わないよ、ウーテとウンディーネの契約も事故みたいなもので誰にも相談出来なかったし。
しかし辺鄙な家一軒からここまで発展した上、大精霊4人が集まり神まで居る場所になるなんてな。」
「その神は開様でしょう?」
「まぁそうなんだけど……まさかこんなことになるなんて思いもしなかったよ。
それより、鍛錬所に来たのは何が目的なんだ?」
鍛錬所に来たいとは言ったがその理由を聞いてないので尋ねる。
今からがっつり鍛錬をするとは思えないし、それは食後すぐにやるような事ではないと思うので出来れば勘弁してほしい。
「シルフ様の力を使うと弓矢をどう扱えるのか気になりまして……それを開様にも見ていただきたいなと。
最近は妻である私の戦う姿も見てないでしょう?」
メアリーは話しながら弓を構える、あまりに綺麗な姿勢に見惚れてしてしまった。
そしてそのまま弓から矢を放つメアリー。
その矢は正面の的に刺さった……と思ったらそのまま突き破りメアリーに向かって戻ってきた。
「あぶな――」
突然の事で叫ぶことしか出来なかったが、矢はメアリーの前でピタリと止まって手の中にポトリと落ちた。
「思った通りですね、これは開様の弓と併せると弓使い最強を名乗っていいんじゃないですか!?」
ウッキウキのメアリーの横でポカンとしている俺。
大精霊の力ってすごいんだな……という小学生並の感想しか出すことが出来ない。
俺もそういう力の使い方を考えたほうがいいのかな。
――せっかくだしこの場でメアリーに相談してみるか。
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