第344話 マルクス城でトラブルが発生したようなので、手助けを試みることにした。

俺はワイバーンの死体が積みあがった場所へ向かい、その場所を想像錬金術イマジンアルケミーで元の状態に戻す。


こんな感じだっただろう、正確には覚えてないがこれで大丈夫なはず。


何か不都合があればまた呼んでもらう……にしても、マルクス城は常に移動してるし連絡を取るのは俺か転移魔法陣が無いと不可能か。


定期的に報告を兼ねた交流もしたいし、常に俺がそこにいなければならないというのも不便だな。


後でミハエルに来てもらうとしよう。


他にやることもないので倉庫に戻りアンドレアとマティルデの様子を見ようと思ったら、数人の天使族に覗き見されているのに気が付いた。


向こうも気づかれないようにピュッと物陰に隠れたが見えちゃったぞ。


見られて困ることは何も無いので放っておいていいんだが……一応声をかけて理由を聞いておくか。


「そこに隠れている天使族、出てきてくれないか?」


俺がそう言うと「ひっ……!」恐怖に満ちた悲鳴が聞こえる、怖がらないでほしい。


バツが悪そうな顔をして隠れていた天使族が出てきて俺の前に来た――そしてその瞬間腰が折れるのかというくらいの勢いで頭を下げられる。


「申し訳ございません、好奇心に勝てず神様の御業を覗き見してしまいました……!」


「別に隠してることじゃないし好きに見ていいのに。

 何ならいくつか欲しい物を作ってもいいぞ、ただしそれに使われる材料が必要だけどな。」


「いえ、そのような畏れ多い事をしてもらうわけには……。」


遠慮しなくていいんだけどな、異世界や下界から技術や物を持ち帰ってもそれを量産するのは時間がかかるだろうし。


俺に分かるものなら頼んでほしいのが本音ではある。


甘やかすのは良くないんだろうけど、天使族は事情が事情だし。


しかし物が欲しくない可能性もあるな、それに好奇心に勝てないとも言っていたし……もしかしたら別の理由があるのかな。


聞いてみるか。


「物が欲しいわけじゃないという事か?」


質問してみると天使族がビクッと体を跳ねさせた……当たっているということなのだろう。


顔に変な汗をかいてるし。


「正直に申し上げます。

 神様の御業の技術を見て、どうにか天使族の技術に転用できないか考えていました……。

 礼拝堂に像を作られた時も今も見ていましたが、何をどうやっているのかさっぱりなのが現状ですけれど……。」


「それはそうだ、これは俺がこのスキルを与えるか俺じゃないと恐らく使う事が出来ない。

 劣化……というか、似たような事を目指す技術も無くはないが大成しないからやめておいたほうがいいだろう。

 必要なら俺が作るから、それ以外は自分達の技術を磨いたり出来ることを増やすよう専念するといいぞ。」


「はい……有難いお言葉ありがとうございます。

 ところで、私はどのような罰を受ければよろしいでしょうか?」


「罰なんてないさ、普通に普段の生活に戻ってくれ。」


なんで俺を覗き見したくらいで罰を与えられると思ったのだろうか。


お風呂とかトイレを覗かれるとちょっと罰したくなるけど、そうじゃないし。


「しかし……!」


罰が与えられない事に納得しない天使族を何とか宥めて納得させ、俺は倉庫に戻る。


そろそろ目を覚ましてるといいんだけどな。




「あ、村長戻ったのね。」


倉庫に戻ると肉の入った箱を纏め終えたウーテに声をかけられる。


「ああ、アンドレアとマティルデの様子は?」


「さっき目を覚まして、頭を冷やすついでにマティルデさんの出立の準備をしてくるそうよ。

 何とか現実を受け入れられたみたい、ドラゴン族の力で気絶されるなんて珍しいからびっくりしちゃった。」


かなりビックリすると思うぞ、実際力という点では神にも勝ってるんだし。


「それなら待ってる間にミハエルを連れてこようか。

 定期的に連絡と交流を図るためにも転移魔法陣があると便利だし。」


「そっか、それはあったほうがいいわね……ん?」


ウーテと話していると、何かに気付いたウーテが周りをキョロキョロと見渡す。


「どうしたんだ?」


「村長、さっき『助けて』なんて言ってないわよね?」


「言ってないぞ、何も困ってないし。」


「そうよねぇ……今確かに聞こえたんだけど。」


俺に聞こえなくてウーテにだけ聞こえる声、たまたまなのか何か理由があるのか。


ウーテの聞き間違いという可能性も全然否めないけど。


その後2人で部屋の中に何か異変がないか調べてみても特に何も無し。


「やっぱり聞き間違いかしら。」


「そうかもしれないな、力仕事で疲れてたんじゃないのか?」


「あれくらいじゃ疲れないんだけどなぁ……。」


やはり聞き間違いだという結論に至った矢先、マルクス城内が慌しくなっているのに気付く。


天使族がバケツとぞうきんを持ってバタバタと走り出している、かなりてんやわんやな状態なのが見てるだけで伝わって来た。


「どうしたんだ、何かあったのか?」


「あ、神様……!

 ホープストーンから出てくる水の量が急に増えて各所で水が溢れてしまっているんです!

 何か助力していただけると助かるんですが……。」


「水が溢れてるのね、それなら村長より私の方が力になれるわ!」


「え、本当ですか?」


天使族はそれを聞いて訝しそうな表情をしながら聞き返す。


「まぁそう思われても仕方ないわね……とりあえず私を現場に連れて行って。

 私は水を操るドラゴンだから、この能力じゃ誰にも負けない自信があるのよ?」


「……分かりました、お願いします!」


そしてウーテと天使族は2人で走っていく、俺も現場に向かうことに。


差し当って出来ることは水の通り道を太くすることくらいだろう、ウーテの邪魔にならない程度に手助けをするか。

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