第343話 ワイバーンの処理が終わったので、分け前を含めた話を進めていった。

俺は礼拝堂に像を作り終えて会議室に戻り、アンドレアとマティルデにワイバーンの肉を分けて貰えないか交渉を持ちかけてみた。


結果は保留だが前向きに検討してくれるらしい、全体の量を見ないと返事はしかねるとのことだ。


それはそうだ、どれだけの群れかも分からないし。


ただ俺がここを離れる前に十数体のワイバーンの死体が積みあがっていたので、恐らく分けて貰えるだろう。


村でもあんなに獲れたことないからな。


細かい話も終わりアンドレアとマティルデを交えて世間話をしていると、会議室のドアをノックする音が聞こえた。


「入りなさい。」


アンドレアがふにゃっとした表情をキリッと直して外の人に声をかける。


女性って一瞬で切り替え出来るのが凄いよな、前の世界の事務員さんもオフィスで話していたトーンとかかってきた電話を取った時のトーンが全然違ってびっくりしたのを覚えている。


そのあたり俺は出来ない自信しかない。


「失礼します。

神様とアンドレア様に報告です、ワイバーンの群れの掃討及び食肉加工から保存までの全工程が終了しました。」


「今なんと?」


「ワイバーンの群れの掃討及び食肉加工から保存までの全工程が終了し、と報告しました。」


早かったな、さすがデニス。


「そんな早く終わるはずがない……のですが、神様が連れて来られた応援の方々も神様ならそれもあり得るのでしょうか。」


「この世界に神は俺だけだ、それは俺がこの世界に存在する限り不変の事実だと断言しておく。

 だが俺が連れて来た応援はその道の達人だと言っても過言ではない。

特化しているからこそ、神である俺より優れた技術と速度で仕事をする事が出来るんだ。」


道具も関わってくるけど。


今のところオレイカルコスより硬い物は出てきてないので困ることはない。


「……分かりました、では確認に向かいます。

 神様もよろしいですか?」


「もちろんだ、皆に労いの言葉をかけてやりたいし。」


俺とアンドレア、それにマティルデは報告に来た守護天使に付いていく。


どうやら肉の運搬も終わってるらしいからな、後で戦闘した場所を想像錬金術イマジンアルケミーで直すのを忘れないようにしないと。




「――後はこれを好きに調理してやればいい。

 生活魔術があるなら冷凍魔術をカタリナ殿から習うといいだろう、シュテフィ殿の技術は村以外で使わんと言われてしもうたからの。」


「ありがとうございます!」


食糧庫に到着すると、デニスが天使族にワイバーンの肉の説明をしているのが目に入った。


シュテフィの時間を止めた倉庫は使わないんだな、まあ妥当と言えば妥当だけど。


毎回シュテフィを呼ぶわけにはいかないだろうし。


「本当に終わっていますね……というか何ですかこの肉の量は。

 一体何体のワイバーンを討伐したらこうなるんです?」


「途中から数えるのをやめたが、少なくとも50体は捌いたぞ。

 おっと、自己紹介が遅れたな――ワシは未開の地の村の食事担当の責任者をしているデニスというドワーフ族じゃ。」


「天使族の長アンドレアです、あの間に50体も捌くとは……神様の仰る通りとんでもない技術の持ち主なのですね。」


タイガが倒したのを褒めろと言わんばかりにピョンピョンしながらグオグオ鳴いてる、俺はそれを見てタイガをヨシヨシしてやった。


「ご挨拶が遅れました、私は村長の妻のカタリナです。

 この後食糧庫の管理者に村でも使っている生活魔術を伝授させていただきます、不都合があればやめますが……。」


「いえ、是非お願いいたします。」


カタリナはアンドレアに確認を取って、そのまま管理者に生活魔術で冷凍する方法を伝授し始めた。


あれを考えたのはカタリナだからな、一番の適任者だろう。


「村長、一応冷凍保存して数ヶ月分はデニスさんが分けてくれてるから村の取り分になるであろうものはあっちで時間を止めてるわ。

 話がついたらウーテさんに運んでもらう準備も終わってるからね。」


「分かった、ありがとう。」


シュテフィは仕事を終えてスッキリしたのか、アンドレアに声をかけてそのままマルクス城の散策へ出かけてしまった。


吸血鬼の運動能力をフル活用してとんでもない速度で走り去っていく、まるでパルクールのような身のこなしだ。


……パンツ見えちゃうぞ。


「それじゃアンドレア、ワイバーンの肉の分け前だが……。」


「さっきのシュテフィさんという方が取り分けてくださってるのでしょう?

 それに数ヶ月分の肉というのは天使族にとって未知の備蓄なのです、これ以上抱えたところで消費出来ず痛めてしまうのが目に見えているので。

 なので、あちらの肉は神様の村が持って帰って大丈夫ですよ。」


「そうか、ありがとう。」


「ワイバーンの肉、ほんとに美味しいの?」


マティルデが本当に疑問に思ってる表情で俺に質問してくる。


アンドレアはマティルデの口を塞いでペコペコ謝っているが、分からない事を聞けるというのは結構優れていると思うぞ。


時には自分の力でやったり調べたりするのも大事だが、答えを早く求めるというのは案外出来そうで出来ないものだし。


「あぁ、俺の生涯で一番美味い肉は何だと聞かれたらワイバーンの肉だと答えるくらいには美味いぞ。

 次は村で獲れる牛と豚の肉だな、あれはあれで非常に美味いからマティルデも是非好きになってほしい。」


「そちらの天使族は村に来られるの?」


マティルデと話をしていると、ウーテが肉の入った箱を担いで声をかけてきた。


マティルデはそれを見て固まってしまっているけど。


そりゃあ肉がぎゅうぎゅうに詰まった箱を何箱も持ち上げてたらびっくりするよな。


「あら、まさか村長の力を見る以外で固まるなんて。

 守護天使の人達はドラゴン族に強い憧れを抱いてるらしいから安心しちゃってたわ、他の天使族は違うのね……。」


「憧れを抱いててもその状況を見たらびっくりすると思うぞ?」


俺はウーテにツッコミを入れる。


「そうかしら……?」とウーテは納得してない様子、想像錬金術イマジンアルケミーと同じくらいファンタジーな身体能力をしてるんだから少しは周りに合わせるようにしてほしい。


ほら、マティルデが固まった状態から気絶しちゃった……とりあえず倉庫の隅に運ぼう。


「そこのアンドレアさんはどうする?」


アンドレアも気絶してるのかよ!


一緒に寝かせておこう、俺は今のうちにワイバーンの死体があった場所を直してくるから。

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