第338話 マルクス城内部の散策を開始した。

マルクス城の散策を始めて少しすると、黙って村を飛び出した状態なのに気付く。


警備の人がタイガと一緒に出て行ってるのを見てるから大丈夫だけど、何か一報入れてないとまた怒られそうだな。


しかし前の世界のように携帯電話のようなものはこの世界に無い……そもそも作れたとしてイフリートが破壊しそうだ。


仕方ない、ちょっと申し訳ないけど奥の手を使うか。


俺は近くに生えていた木に触れてドリアードに念話を送る。


『ドリアード、ちょっといいか?』


『どうしたの?』


『ちょっと皆に黙って村を飛び出しててな、今天使族が住んでるマルクス城という所に居るんだ。

 帰るのが少し遅くなるかもしれないと皆に伝えておいてくれないか?』


大精霊にこのようなことを頼むのは申し訳ないが、俺がマルクス城へ留まったまま離れた場所へ連絡するにはこの方法しかない。


『天使族、またよく見つけたわね。

 イフリートと話が合う種族だから交流できるようになれば喜ぶかもしれないわ。

 あれは仕方なく破壊してるだけで本当は破壊したくないし、それを復元して世界が歪まない程度に利用してる天使族には一目置いてるみたいだから。』


天使族、知らないところで大精霊に認められてるんだな。


外部に侵略もせず、ただ自分達の暮らしのためだけ――しかも地上ではなくマルクス城という上空の敷地内でしか使用しないなら世界が歪むわけがないということか。


『初めて知った情報をありがとう。

 それじゃ俺はマルクス城を散策するから、伝言頼んだぞ。』


『はいはい、精霊使いの荒い神様ですこと……。

 まぁいいけどね、ここ村の食堂だし貴方の奥さんも隣に居るからもう伝わってるわよ。』


早く言えよ!


もっとちゃんと伝え……あぁもう念話切りやがったし!


まぁいいか、とりあえず伝わったなら大丈夫だ。


気を取り直して散策するとしよう、気になることも色々あるからな。




まず気になったのはトイレ、この空中でどうやって汚水を処理しているのだろうか。


汚物を生活魔術で分解出来るにしても掃除や水浴びで排水はあるはず……それらを溜め込むのも限界があるし、水の浄化技術もの世界の文明レベルを考えると無い気がする。


それらを調べるためにトイレを借りたのだが、手を洗う所と用を足す場所に常時水が流れている。


え、この水はどこから来てどこへ流れて行ってるんだ?


「あれ、神様ですよね。

 変な顔されてどうされたんですか?」


トイレで鉢合わせた天使族が俺に声をかけてきた、そんなに変な表情だったろうか。


「いや、トイレに使われてる技術が分からなくて――」


俺は思ったことをそのまま質問する、そういう技術に詳しい人ならいいんだけど。


「それならホープストーンが出している水を使ってるんですよ。

 使用した水は生活魔術を使って浄化、そして異世界の門を開いてその先へ送ってます。

 地上を汚すなという先祖の教えを今でも守っている結果なんですよ。」


だからと言って異世界に全部捨てなくてもいいだろう、向こうの迷惑も考えてやってほしいが……異世界より現実世界のほうが大事なのは間違いないな。


とりあえず黙認。


だがそれより気になるのはホープストーンというものだ。


「ホープストーンということは石なんだよな、なんでそれから水が出るんだ?」


「原理は分かりませんが、不思議な模様が描かれている石でして。

 発見当初は一部が消えて何も起きなかったんですが、持ち帰ってそれを研究していた昔の人がその模様を正しく描くと水が湧き出してきたんです。

 他の石に同じ模様を描いても駄目なので、本当に理解の外にある技術ですが……。」


なるほど、いわゆるオーパーツというものか。


だがそれの稼働が止まっていて、たまたま再稼働に成功したということだろう。


かなり運がいいな、しかしオーパーツなんて本当に存在するのか――ワクワクするじゃないか。


「ホープストーンが見たいんだけど、案内してもらえないか?」


「いいですけど、先に用を足していいですか?」


すまない、ずっと引き止めてしまっていた……ごゆっくり。




その後ホープストーンに案内してもらう、マルクス城の屋上に鎮座していて本当にホープストーンから水が湧き出している。


それを配管に流し各所で利用しているのか、ウーテの力が無くてもこのような事が可能だとは思ってなかったぞ。


これは便利、異世界も案外水が無限に送られてきて助かってるんじゃないかな。


人類が利用できる淡水なんて星に存在する水の割合からしたら微々たるものだろうし、まあ繋がってる先が俺の住んでた世界だとは限らないけど。


「一応立ち入り禁止区域なので荒事は勘弁してくださいね。

 神様のお願いなので問題さえ起こさなければ大丈夫だと思いますけど……。」


「すまん、それならそうと言ってくれればよかったのに。

 怒られたら弁明に付き合うから呼んでくれよ。」


「そんな畏れ多い事出来ませんって、素直に怒られます。

 過去の事例を見る限り1週間掃除当番とかでしょうから。」


子どものしつけか何かだろうか?


そんなんだから天使族は緩いんだと思うぞ、案内してくれたこの天使族もぽやぽやしてるし。


アンドレアもおっちょこちょいだし……他の天使族も気が抜けたような人が多く見える。


しっかりした人も多少居るけどな。


なんて思っていると俺のお腹がぐぐぅ~……と物凄い音を立てる。


その後タイガも俺の倍くらいの音量でお腹を鳴らした。


「ふふ、神様もお腹が空くんですね。

 では食堂へ案内します――そちらのデモンタイガーは何をお食べに?」


「肉なら大体大丈夫だ、内臓ならすごく喜ぶ。」


それを聞いた天使族は「ぴぇっ。」と変な声を上げた途端、見えるか見えないかくらいの距離まで離れて案内をするように。


取って食べたりしないから安心してくれ。

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