第326話 俺をこの世界に連れて来た神が目の前に顕現した。

ドリアードとイフリートが像に向かって力を送り続けて数分。


「そろそろ神様がお見えになるわ。

 粗相の無いようにね?」


ドリアードが皆に向かって伝えると、全員が一斉に神の像に向かって跪く。


皆というのは違うな、俺と流澪は跪いてない。


「開様……流石に不敬では!?」


「村長も流澪ちゃんも……ほら早く!」


メアリーとカタリナが俺達にも跪くよう声をかける、表情もだいぶ焦っているな。


だが俺は神にしなければならないことがある、それは流澪も同じようだ。


「2人は神と対等とまでは行かないけどこの世界に巻き込まれてる形だし大丈夫でしょう……。

 さぁ、お見えになるわ。」


神の像が強く発光しだすとドリアードとイフリートも像に向かって跪いた、いよいよ神との再会ってわけだな。


「……っふぅ、2人ともお疲れ様。

 早速自己紹介をしようか――僕がこの世界の神だよ!」


「久しぶりだな。」


「私はそうでもないけど……。」


「2人ともホント物怖じしないね?

自分達より強い種族と大精霊がこうして跪いてるのに僕と対等に向き合うなんて。」


神の言葉を聞いて妻達の顔色が真っ青になっていってるのが分かる、恐らく心配と不安がいっぱいなんだろう。


でも大丈夫だ、俺と流澪は神にどうこうされない自信がある。


俺達をこの世界に転移させるため相当な力を使っているはずだからだ、そうじゃなければ信仰心を向上させるために宣教師のような真似はさせないだろうし。


俺と流澪は無表情で神へ近づいていく。


「とりあえずやることがあるからな。」


「そうね。」


「ちょちょちょ……2人とも顔が怖いよ?

 前の世界より楽しそうに生きてるじゃないか……不満があるの?」


神が俺達を怖がっているのか変な笑顔を浮かべながら後ずさる、そんな状態の神の後ろに流澪が回り込んで後ろから神の腕を抑え込んだ。


「ちょっと、何するの!?」


「さっき不満があるのか聞いたよな?

 不満はあるんだよ――お前は説明が足りない!」


俺が神の頭を数回小突いて流澪と交代し、流澪も俺と同じことをやって神を解放した。


本当はもっと強く殴るつもりだったんだけど……妻と住民に免じて許してやるとするか。


「あいたたた……。

 あまり説明しすぎると怖がって何もしなかったろ?」


「神様、説明が足りないというのは私達も同意しますので以後直していただけると助かります。

 何かして危険に晒されてからでは遅いのですよ?」


即座にイフリートが神にツッコミを入れて神は「むぐぐ……。」と口を噤んで悔しがる。


見た目が幼いから可愛く見えてしまうな、恐らくこの中で一番年上なのに。


さて、俺と流澪の目的も果たせたし真面目な話をするとしようか……村が焦土と化すなんて絶対避けたい事案だからな。




「神はこの世界――いや、星が焦土と化したあとに氷河期を迎えて終わりでいいのか?」


俺は神へ率直な意見をぶつける、大精霊に任せてばっかりでなく星全体の危機を解決するため神の力が欲しかったからだ。


「良くないからこの呼びかけに応じたんじゃないか。

 でもこの世界を作るのに不干渉の約定を星の核と結んでるんだよ……現状は大精霊の力を借りて特例状況を作ってもらってるだけで。

 生命の進化・成長が著しく早くなる・質が良くなる代わりに神である僕が一切この星に干渉出来ない制約なんだけどね……まさかこんな形で不利に働くと思ってなかったよ。」


星の核との契約なんてあるんだな……だが宇宙空間とは言え何も無い場所に星が出来るなんて考えにくい。


神という存在が今目の前に居るしそういった事があってもおかしくないだろう……にわかに信じがたいけどな。


「しかし、それなら神様は何をしに顕現されたのですか?」


メアリーが真剣な目をして神に問いかける。


呼ばれたからじゃないのか……とも思ったがそれだけなら無理だと返事をして顕現はしないだろう。


何かしに来たというのは明白ということか。


「君は開 拓志の最初の妻だったね、君の事も見ていたよ――神にも匹敵する頭脳を持ってると感じてる。

 確かに僕はここに何かをしに来た、特に意味は無いけど質問するよ。

 僕は何をしに来たと思う?」


「考えられるのは開様と流澪さん、それか大精霊のお二人に何かをするのではと考えてます。

 星の核――というのは私達が干渉しえない世界の何かだと思いますので、この星から生まれてない4人には神様が自由に何か出来るのでは、と。」


「うぅん、半分正解だけど半分不正解。

 大精霊は確かに僕の配下だけど、星に関わりすぎて星の一部にもなっているんだ。

 でも大精霊と話すことは不干渉の約定には抵触しない、これは核とも話がついてあるからね。

 そして開 拓志と猪谷 流澪は星の一部になってない、だから僕の自由に出来る……これが正解の部分。」


神がメアリーに質問したかと思いきや、流れで物凄い物騒な事を言っている。


流石に人間を止める覚悟は出来てないから勘弁してくれよ?


流澪も畏縮しちゃってるし、2人ともその辺にしてくれ。


「と、言っても説明が足りなくて怒られたばかりだから説明しようか。

 星の衝突にはまだ時間が少しある、正確には稔の季節が来る少し前までかな?

 その間に開 拓志と猪谷 流澪には覚悟を決めてもらおうと思うよ。」


「一体何の覚悟だ?」


「人間をやめてもらう覚悟さ、それが確実にこの星を救えるからね。」


ろくでもないどころじゃない、とんでもないことを神から宣告されてしまった。


だが何もしなくては滅びを待つだけだし……しっかり説明を聞かせてもらうとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る