第316話 エルケがずっとついてきた嘘について皆に謝った。
「未開の地の村の村長の奥様の誘拐、並びに一族への非道な仕打ちの数々……誠に申し訳ございませんでした!」
現在キュウビも帰ったので、全員の仕事の手を止めて広場に集合しパーン族上位の謝罪を行っている。
もちろん帰って来たばかりのキュウビも参加……大分怒っているけれど。
「世話になったとはいえ、村にあのような仕打ちをして無事で居られると思っておるのか?
一族への仕打ちは薄々気づいておったがな。」
気付いてたのか……1日くらい寄っただけだろうにすごいな。
しかしキュウビは人間領で長く施政をしていたし、人を見るのが得意なのかもしれない。
だが五体満足で罰を与えるのは確定しているので止めないと。
「キュウビ、パーン族の上位には村で発見した島の開拓・地図作成をやってもらうつもりなんだ。
もちろん村からの援助は無しだ、極限状態になっているのを確認したら助けるつもりではあるけど。」
俺の言葉を聞いたキュウビは、これまで見たことないような深いため息をつく。
「村長、平和ボケにも程があるぞ。
このような事をして罰が島の開拓と地図の作成で、話を聞く限り契約魔術を掛けないのだろう。
なら逃走し放題ではないか!」
「だから宴会に参加してもらうんだよ、この意味キュウビなら分かるだろ?」
キュウビはそれを聞いて気の毒な目でパーン族の上位を見る、ちゃんと意味は理解してくれたみたいだ。
「村長も惨い事をする……だが流石に罰が軽すぎではないか?」
「お前も似たようなものだろう、村どころか魔族領と人間領にまで迷惑をかけたではないか。」
キュウビが俺に意見していると、オスカーがキュウビにツッコミを入れる。
ツッコまれたキュウビは口をパクパクしながら、あらぬ方向に視線を向けつつどこかへ歩いていってしまった。
完全にブーメランだったな。
まあ今回は人数もたくさん居るし、契約魔術をかける時間とコストをこいつらに掛けるのが勿体無いというのが本音。
逃げたらそれでおしまい、逃げなかったら信用はしてやるという感じ。
どっちにしろとんでもないマイナス評価からのスタートだ、それをどう挽回するかはこいつらの頑張り次第だろう。
「謝罪にここまで村の機能を止めるのも問題だ、やることはやったんだし解散するぞ。」
「すみません、パーン族と村の長の方々は少しお時間をいただいてよろしいですか?」
解散してすぐに、エルケが震えながら声をかけてくる。
何かあったのだろうか?
「俺は構わないが、皆はどうだ?」
種族の長とパーン族に聞くと全員大丈夫とのことだ、エルケは「ありがとうございます。」と言いながらも体の震えが強くなっている。
「俺は何があってもエルケの味方だからな。」
俺は小声でエルケに耳打ちする、これで少しでも震えが止まればいいが……あ、完全に止まった。
表情を見ると大粒の涙をポロポロとこぼしている……なんでだ?
「あーあ、泣かしちゃった。」
違うから、励ましたつもりだから……!
「ずびばぜん……嬉しくて涙が止まらなく……。」
エルケは大分落ち着いたがまだものすごい鼻声、覚悟を決めて何かを話そうとしていたのに邪魔をしてしまって申し訳ない気持ちになる。
「さて、いつまでも皆さんの時間をいただくわけにもいきません。
遅くなりましたが本題に入りますね。」
エルケが居直って思いっきり頭を下げる、一体どうしたんだ?
「災厄の集塊を封印してから私までの全ての長……全員がパーン族を騙していました。
パーン族は神の眷属でも何でもありません、崇めている神は祖先が作り上げたただの偶像だったんです。
宗教で一族を纏めたほうがいい、そのほうが地籠もいいように解釈してくれるという祖先の考えを今の今まで引き継いできてしまっていました。
嘘をつくのは悪いことだと分かっていましたが、災厄の集塊を私一人ではどうすることも出来ずそれに縋ることしか出来ませんでした……本当にごめんなさい。」
エルケが頭を下げてパーン族全員と俺達に謝る、そういう理由があったんだな。
道理で所々辻褄が合わないようなところがあるはずだ、鎖国のような真似をしているのに新しい神だけ招き入れるなんておかしいし。
エルケの謝罪を聞いたパーン族の上位は、エルケの前で土下座をして頭を地面にこすりつける。
「薄々何かがおかしいのは分かってはいました……ですが地籠に関しては長以外関われない故何も出来ず申し訳ございません。」
上位はエルケに近い位置に居たから違和感があったのだろう、それを助ける方向に動けばもっと評価は変わっていたのに。
恐らく今の地位と生活が変わるかもしれないという恐怖があったのだろうな、まったく……。
普通のパーン族は「大丈夫です、無事に解決したので!」とエルケを励ましている。
こればかりは誰かがどうこう出来るわけじゃなかっただろう、伝統や風習を守ってはダメだとは誰も言えないので攻めれない。
分かっていたなら何とかすればという誰かの声が聞こえたが、これを理由に俺がパーン族に罰を下すことは無いだろう。
流石に可哀想過ぎるからな。
あの後はパーン族同士の謝罪合戦が始まっていたので止めて今。
外は夕暮れ、宴会はもうすぐ始まるだろう。
「開様、お疲れ様です。
パーン族との問題解決の前祝いと疲れを取るために、どうぞ。」
書斎の窓から外を眺めていると、メアリーがビールを注いで持ってきてくれた。
早く飲みたかったけど宴会まで我慢してたんだよな、メアリーが持ってきてくれたなら飲まなければ失礼だろう。
「ありがとう、いただくよ。」
メアリーからジョッキを受け取り一口――うん、美味い。
「パーン族の裁き方に関してはあれでよかったのですか?」
「裁き方に正解も何も無いだろう。
俺はあいつらを嫌いながらも、価値を見出して罪を判断したと思ってる。
メアリーからも言われてたし。」
「しかし少々罰が軽すぎたかもしれません。
次回以降は皆がこれくらいの罪ならこのような罰を、と納得出来る線引きを作ったほうがいいかもしれませんね。
現在も少々不満が出てますし、悪いことを考える人に付け入られるのもダメでしょうから。」
それは何となく思っている、魔族領や人間領へ法整備について学びに行ってもいいかもしれないな。
またマックスを招いて講習や提案を受けてもいいな、このあたりはまだ話し合って決めるとしよう。
それより今は宴会だ、もう皆待ちきれないのか続々と広場に向かっている。
「仕事の話はまた今度だ、俺達も広場へ行こう。
乗り遅れて料理を食べ損ねるかもしれないぞ。」
「っ!
それは行けません、すぐ行きましょう!」
俺はメアリーと腕を組んで書斎を出ると、他の妻達とエルケもそれに合流し全員がくっついてきた。
重いなんて言ったら殺されそうなので我慢する、でも平和な日常が戻ってきて良かったよ。
さぁ、宴会を楽しみに行くとしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます