第314話 パーン族上位に与える罰について話し合いをした。

エルケと俺の妻達、それに各種族の長全員でパーン族の里にあった大会議堂に集まった。


村にも集会所を作ろうと思っていたのに……こんな事なら早く作っておけばよかったよ。


「さて村長、つまらん話し合いだしさっさと済ませよう。

 奴らの処遇はエルケ殿に一任するのか村で裁くのか……どちらでも文句はあるまい。

 今回ばかりは誘拐という実害があった、何もせず村にただ移住というのは皆が納得せぬと思うぞ。」


「他の人に示しがつかないしナメられますし、それは今後絶対に不利に働きますからね。

 辛いとは思いますが決断をお願いします。」


集まってすぐにオスカーが話し合いの進行を始める、しかも手早く上位の処罰を決めて解散するつもりだ。


オスカーの言う通り楽しくない話し合いだからなぁ、さっさとこの後控えている宴会の準備やそれの見学をしたいのだろう。


他の種族の長も何かしら処罰を与える方向で意見を提示してくるし、俺もその気持ちなのは変わらない。


でも水陸両方で仕事が出来る能力が惜しいんだよな、これを活かせる罰があればいいんだが……。


そうだ!


「上位へ与える罰を思いついたぞ、だがこれエルケの許可が必要だとも考える。

 今は長を休ませていたが今だけは少し長として話をしてくれ。」


俺の言葉を聞いて真面目ながらもどこかふにゃりとしてたエルケの表情が、一気に真剣になった。


スイッチの切り替えが早すぎる、そんな瞬時に出来るものだろうか。


「分かりました村長、考えをお伺いいたします。」


「下半身を魚にして水陸両方で活動できる能力があるだろう。

 その能力があれば、つい最近見つけた島の開拓・地図の作成を任せることが出来ると思うんだ。

 それを罰としようと思うが……エルケはどう思う?」


「私は構いませんが……村で発見した島ですし他の方々の意見も重要になるかと。

 それに逃走を企てることも簡単そうですし、正直生温いのでは?」


案外仲間に対して辛口だなエルケ、裏切られた気持ちはやはり強いのだろう。


「これは島を発見した流澪さんがどうするかでは?」


アストリッドが流澪に話を振る、確かに流澪が発見者のようなものだな。


「えっ、私?

 海辺で遊べたりアウトドア的な事が出来たりしたらいいなぁ、くらいでついて行ってたから……そんな全体の開拓や地図なんて考えてなかったわ。

 でも分かれば色々面白いことが出来そうよね、いいんじゃない?

 それよりエルケさんの言う通り逃走に関しては何も解決してないけど、拓志はどう考えてるの?」


「定期的に監視役を投入して、島で存在が確認出来なければ逃走したと判断する。

 そのまま追放として扱い、それは魔族領と人間領にも通達する……流れ着いた先で生き残ることが出来るかはあいつら次第だ。

 少なくとも未開の地・魔族領・人間領にあいつらの居場所は無くなるが、きちんと開拓と地図を完成させれば住民として迎え入れてもいいと思う。」


俺の考えを皆に伝えると全員にビックリされる、どうしたんだ?


「あんなに怒ってた村長からそんな意見が出るなんて……てっきり追放か斬首だと思ってたのに。」


「メアリー様が誘拐された時の村長は鬼のような顔でしたからね。

 力では絶対勝てるのですが恐怖を感じました。」


「人間というのは怖いのだなと思わされたな……。

 普通にしてたら怒らせないのだが。」


どうやら俺があいつらを生かしたうえ、村に迎え入れる選択を提示したことに驚いているようだ。


そんな怖い顔してたのだろうか……自分じゃ分からないからな。


だがしていたのだろう、あの時は本当に殺してやろうかと考えていたし――今は時間も経って頭が冷えてるけど。


「殺すのも追放も簡単だが、水陸両用を一人でこなせる種族は非常に珍しいからな。

 それを村のために使わないのは損をしていると思ってしまうんだよ、自分でも貧乏性だとは思うけど。

 さて、俺の意見は提示した……改めてパーン族の長であるエルケに聞く、上位の罰は島の開拓・地図の作成でいいか?」


「……村から何か援助をする事はあるでしょうか?」


「特にするつもりはないが、今回の宴会には参加してもらうつもりだぞ。」


「「「「「何でですか!?」」」」」


「あいつらに村最高の大宴会に参加する資格なんて無いですよ!」


「ワシもそう思う、一体どういう考えなのだ?」


オスカーも少し怖い顔をしている、そこまで村を誇りに思ってくれて嬉しい限りだよ。


エルケも何か言おうとしてたが村の住民に気圧されてスッと後ろに下がっていった、ちょっと怖かったのかもしれない。


エルケには申し訳ないが、村の住民の反論に返事させてもらおう。


「逃走する確率を下げるためだよ。

 俺は上位の能力が労働力として欲しい、エルケも使えるが一人じゃどうしてもな。

 村最高の料理を食べてみすみすと今後食べれなくなる選択肢を選ぶ奴は居ないと思ってるし、あいつらピザを食べてから物欲しそうな目でこっちを見てたから羨ましいんだろう。

 間違いなく食べ物で釣れると思ってる。」


空腹なのもあるかもしれないけど、ピザ以外は調理前の肉と野菜しか渡してないみたいだし……しかも最低限の量。


俺の話を聞いた皆は「うぅーん……。」と唸りながら俺を除け者にした状態で固まって話しだす。


ここまで納得されないとは思ってなかった、あいつらを生かす理由としては結構まともだと思ったんだけど。


「村長、ワシを含めた全員のお願いだ。

 あいつらに村の住民全員へしっかり謝罪をさせてくれないか?

 それなら村長が言う内容の罰で納得する。」


「それは当然だろ?

 俺だってさせるつもりだ、労働力としてほしいだけで誘拐を許したわけじゃないんだから。」


「それを早く言ってくれ……全員謝罪をしないまま宴会に参加してそのまま島の開拓かと思っていたぞ。」


なるほど、それで皆決定を渋っていたわけか。


ちゃんと話さないといけないな、これは俺の失態……今後気を付けなければ。


「分かりづらい言い方をしてすまなかった。

 それじゃ上位の解放は宴会の日、謝罪も解放後すぐという事でいいな?」


「うむ、それでいいだろう。

 それについてはワシが伝えてくる。」


「いえ、私が伝えます。」


オスカーが上位に伝えにいこうとしたが、そこにエルケが割って入った。


「分かった、ではエルケ殿に任せよう。」


「ありがとうございます。

 後ほど村長には奴らの返事を報告させていただきますので。」


「分かった、待っているよ。」


少し長くなったがこれで億劫な話し合いも終了、後はあいつらの謝罪を聞いて島へ送って完全にひと段落かな?


疲れた……まさか一つの種族との交流をするためにここまでトラブルが続くなんて思ってなかったよ。


次の宴会ではしっかり英気を養わせてもらおう、この前は休もうとしても休めなかったし。

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