第312話 災厄の集塊を消し去るために村を出発した。
妻達に災厄の集塊を何とかしに行ってくると伝えると、全員付いてくることになった。
カタリナが戦闘になるかもしれない場面に来るのは珍しいな、どういう風の吹き回しだろうか。
「私も行きます。」
話を聞いたエルケは昨日までのデレデレした顔とは全く違う真剣な表情。
元気になったようでよかった――思った以上に回復が早そうで安心したよ。
「もちろんだ、皆でパーン族を苦しめた元凶を無力化してやろう。」
「「「「「はいっ!」」」」」
妻達とエルケは揃って返事をする……無力化するのはシュテフィとオスカーであって俺達じゃないけどな。
「……何だこの大部隊は。」
「理由を話したら皆行きたいと言ってきてな。
災厄の集塊自体はワシ一人でどうとでもなるから、他の者は村長の護衛でいいならと伝えてある。」
これ全員俺の護衛なのか!?
各種族の長と精鋭達が大集合してるんだけど、村の警備が手薄になりそうで少し心配になる。
だがそのあたりの配分をオスカーが失敗するわけないので信頼しよう、もしかしたらオスカー一人じゃどうにもならないかもしれないし。
そんな相手が敵じゃない事を祈ろう。
「よし、それじゃ災厄の集塊を根絶しに出発する。
安全第一、誰も欠けることなく村に帰るぞ!」
「「「「「おおぉぉぉー!!!!!」」」」」
鬨を上げて士気の向上も充分――さぁ、これでパーン族との騒動もひと段落だ。
部隊が続々とサキュバス・インキュバスの里に続く魔法陣へくぐっていく、俺はドラゴン族と妻達に挟まれてちょうど部隊の真ん中くらいで魔法陣へ。
完全に守られてるな、でも村の魔法陣だし殿でもよかったと思う。
そこからドラゴン族の背に乗って移動し、パーン族の里へ到着。
上位がピザを食べているのが目に入る、美味しい料理を食べて笑顔になっているようで何より。
嫌いな奴でも自分の村の料理を美味しく食べてるのを見ると少し気分が良くなるな、あっちはこの大部隊を見て驚いてるけど。
ピザ落とすなよ?
上位を尻目に地下洞窟へ、最奥に到着すると災厄の集塊は変わらず可視化出来るほどの魔力を光らせてそこに鎮座している。
「本当に何も起きてない……1日でも魔力を注ぐのを怠ると封印が解かれて里は滅びるって言われてたのに。」
俺達を信頼してくれてたのは嬉しいけど、もし見込み違いだったらここは本当に滅んでたし上位も死んでただろう。
エルケ、割と酷いことしてるぞ?
「それじゃイザベル、カウンター術式を頼む。」
「分かったわ。
展開にそんな時間はかからないからシュテフィさんも手伝って。」
「はいはい。
それより、私が全力で魔力を注いでも壊れない術式に仕上げてよ?」
シュテフィの指と腕にはいつもは付けてない装飾品がある、恐らくアラクネ族から魔力量を増幅されるものを借りてきたのだろう。
術式は本当に大丈夫なのだろうか?
「安心して、あくまでこの術式は魔力を変換するものだから。
変換した魔力をあの蓄積された魔力にぶつけて放出し、魔素に還していくのよ。」
「なぁんだ、つまんないの。」
もっとすごいことが起こるのを想像していたのだろうか、俺としてはそれで充分なんだけど。
それから数分後。
「術式展開完了したわ、それじゃシュテフィさんお願い!」
ホントに早かったな、そこまで難しいことはしてないのだろうか?
「任せなさい、行くわよ災厄の集塊!」
シュテフィは悪い笑顔をしてカウンター術式に魔力を注いでいく。
どうしてこううちの村の住民はそんな悪役の笑顔をする人が多いんだろう……もっと普通にしてほしい。
実力者ほどそういう顔するから怖いんだよ。
なんて思っていると、災厄の集塊の周りにあった魔力がどんどん放射状に飛び散り見えなくなっていく。
こっちに飛んできたので慌てて避けるが、特に何もならない。
術式を通ってないただの魔素は何も影響を与えないのかな、びっくりして損した。
「災厄の集塊が……弱まっていく……!」
エルケは泣きながら嬉しそうな声で呟く、もう自分の人生をかけて封印しなくていいのを実感してるんだろうな。
だがあれは貯めていた魔力を放出させているだけ、中身に影響は恐らくないだろう。
「そろそろ全ての魔力が放出されるわ。
オスカーさん、頼むわね。」
「任せろ。」
あれだけあった魔力はものの数分で放出され魔素に還っていった、中身のシルエットも少し見えている。
そこまで大きくはなさそうだが……と、確認しながら見ていると俺の視界にドラゴンの羽が突如映る。
放出した瞬間にオスカーが変身して中身を取り押さえたのだろう、逃がさないためなんだろうが急なのでびっくりした。
「グォォォォォッ!!!」
もう安心だろうと全員の気が緩んだ瞬間、オスカーが苦しそうな鳴き声をあげてその場にいた全員が一気に警戒しだす。
あのオスカーが苦しむって何があったんだ!?
「あなた!」
オスカーに呼びかけるシモーネ、その後すぐにドラゴンの姿になりオスカーの手元をまさぐっている。
手で押さえたはずだろうしそこから何かされているのは間違いないからな。
だがすぐに離れて周りを見渡し始める、どうしたのだろうか。
すると人間の姿に戻ったシモーネが皆に説明し始める。
「何も居ないし何も無い……何かが体内に侵入して生きてるんだけど固まってしまったというのが正しいかしら。
あの人とは別の魔力が見えてるから間違いないわ。」
「そんな……体内に侵入されたらいくらオスカーでも!」
「オスカー様は大丈夫なんですか!?」
「災厄の集塊のせいで……やはり私がずっと封印していれば!」
「オスカー様……!」
俺を含めた皆がオスカー様を心配する声を上げる、オスカーなら何が来ても大丈夫だと安心しきってしまっていた。
ありとあらゆる可能性を考慮して攻めだけでなく守りも万全にしておくべきだったろう……村長失格だ、くそっ!
俺に何が出来るか、残された皆の力をどう合わせればオスカーを救えるか必死に考える。
「皆何を言ってるの、あの人を見くびりすぎじゃないかしら?」
心配している皆をよそに、シモーネはあっけらかんとした表情をしていた。
むしろ少し笑っている、どういうことだ?
「グォ……ォ……ォォオッ!」
オスカーが再び苦しそうな鳴き声を上げた直後、人間の姿に戻る。
「ふぅ……まさか魔力で構成された体を活かして体内に侵入してくるとはな。」
え、あれ……オスカー……大丈夫なのか?
何が起きたのか分からない、一体どういう事なんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます