第311話 エルケと込み入った話を色々とした。
俺はエルケにいきなりキスをされてびっくりしてしまい、少し力ずくでエルケから離れる。
「いきなりどうしたんだ、無理矢理こんな事をするなんて。」
「何と申されましても……求愛行動ですが?」
そんな素っ頓狂な声で言われても困る。
「エルケはパーン族の長だろう、今は休んでもらってるけどさ。
長がそんな簡単に夫を決めるべきではないと思うけど……閉鎖的な暮らしをしていたんだし伝統とかあるんじゃないのか?」
「伝統だけでは命を守れないと教えてくれたのはこの村です。
キュウビさんの話通りに普通の交流を続けていたら、伝統通り災厄の集塊に魔力を注ぎ続け何か良くないことが起きていたでしょうし。
一族の汚点である上位は、村がパーン族の里の最奥まで問答無用で攻め込んでくれる口実を作ってくれたのは感謝するべきかもしれません。
メアリーさんには非常に申し訳ないことをしましたが。」
確かにメアリーが誘拐されてなければ取引だけで終わっていただろうし、災厄の集塊がどうなってるかなんて想像もつかない。
村の住民なら何とかしてしまうかもしれないが、それでも全くの被害無しとはいかなかっただろうし。
でもやっぱり許せないな、そんなの結果論に過ぎない。
「そういえばあの上位に関して処罰はどうするか決めてたりするのか?」
「村長の奥様方から色々お聞きしましたが同情の余地無しですね、災厄の集塊だって結果論ですし。
一族から追放しますよ、戦闘に関しては優秀だったので非常に残念だったんですが。」
「パーン族が閉鎖的な生活をしてても今まで生きれたのってその戦闘の力だけなのか?
他に何か生きるために役立つ力があったりしたら教えてほしい。」
メアリーから何か能力があれば村のために使わせるよう話を持っていきたいと言われていたのを忘れていた。
今がまさに絶好のチャンス、上位がどんな能力を持ってるか聞き出しておかないと。
「唯一無二かどうか分かりませんが、笛の音で聴いた者の感情を操る能力はあります。
自身以外という無作為な範囲過ぎるので使用を禁じていますが……。」
ほんっとに役に立たないな。
音で感情を支配するのは一対多ならかなり強力だけど、あいにくそんな戦術に頼るほど戦力に困ってはないし。
「あ、それと御子と神官は姿を変化させて空以外ならどこへでも行ける機動力を持っています。
これは私にも備わっているのですが……それっ。」
エルケはそういうと下半身を魚の姿に変身させる、その姿でも器用に地上を移動しているので本当にどこにでも行けそうだ。
むしろそっちの能力を紹介するべきじゃなかっただろうか、一気に検討の余地が出てきたぞ。
あいつらを許すには足りない気もするが……水陸両用の働き手は相当貴重ではある。
「これ、水の中でも行けるのか?
もし行けるなら、呼吸とかはどれくらい持つんだ?」
「もちろん水の中でも可能です、水陸共に移動出来るのは強みかなとは思いますね……必要かどうかはさておいて。
呼吸に関してはそこまで持ちませんが……魔術を併用すれば5分以上は水中で行動出来ますね。」
「充分仕事に使用できそうな範囲ではあるな……。
エルケは追放だと言ってたが、ちょっと村でもその能力が欲しいかどうか話し合いをさせてくれ。
陸で活動出来るのは様々な種族がいるが水中はマーメイド族だけだし、そのマーメイド族も陸に上がれば車椅子を使わなければ移動にもひと苦労なんだよ。
働き手として非常に優秀だとは感じているから。」
「村長は慈悲深いですね、そんなところもまた好きではあります。」
ぐっ、ちょっと話がそらせたと思ったのにそんな事は無かった。
その後もエルケはくっついたりキスしたりを繰り返してきたが、今はその時じゃないと何度も説明して何とか分かってもらえた。
別にエルケの気持ちを拒否するわけじゃない、パーン族も村に移住するというなら受け入れる。
だが今は災厄の集塊を何とかするのが最優先だ、今はイザベルにカウンター術式を組んでもらっている段階だから時間が余っているだけで。
何とかしに行くならまた村の戦力が多く必要になるし空気も張り詰めるだろう、夫婦の契りを交わしてすぐそんなゴタゴタになるのはエルケ自身嫌なはずだし。
しかし大人し気な雰囲気の子なのにこんな積極的だったとはな……正直びっくりしている。
しかし体型はかなり幼いのにしっかり女の子なんだな、抱き着かれた時柔らかかったし。
次の日。
エルケは俺と一緒に寝ると言ってきたが拒否した、そんなに急がなくてもいいだろうに。
イザベルに進捗を伺いたいが、昨日の感じでは出来てなければ訪ねても無理だろう……イザベルから何か言ってくるのを待つしかないかな。
何かあるまでは鍛錬所でなまった体を動かそう、このままじゃ刀を使いこなすようになるのなんて何年先になるか分かった物じゃないな。
準備体操を行い筋トレ、素振りとこなしていると外が少し騒がしくなっているのに気付く。
何かあったのかと窓から外を覗くとイザベルを中心に、オスカー・シモーネ・ザスキア・シュテフィ・ユリア・アストリッドと魔力が高い種族の長が勢揃いしている。
「あ、村長いたいた。
カウンター術式が完成したから今皆に説明してるところなの、一緒に聞いてくれないかしら。」
「分かった、そっちに行くよ。」
俺は素振り用の木刀を片付けて皆のところへ向かう、プラインエルフ族でもカウンター術式の発動に貢献出来るなら俺の魔力も使えそうだ。
「それじゃ最初からもう一度説明するわね。
カウンター術式をあの場に構築し終わったら、そこに誰かが魔力を流し続ける……その間はカウンター術式が発動してあそこに溜まった魔力が放出され魔素に還るわ。
ただそんな長い間魔力を流し続けるのが困難なんだけど……。」
「アラクネ族から魔力量を底上げする装飾品を借りたら、私一人でどうとでもなるわよ。
借りなくても何とかなるとは思うけど念のためね。」
術式を発動させるための魔力をシュテフィが一人で何とかすると言った、心配だが他の人は「じゃあ任せた。」という雰囲気。
本当に何とかなるのだろうか、話でしか聞いてないからどれくらいの魔力量を有しているのか想像がつかないんだよな。
だがそれが見えてるシモーネが何も言わないということは大丈夫なんだよな……シュテフィも改めて規格外だと思う。
「後はそのカウンター術式が発動している間、近くに居る者は魔術による影響を受けないようにしてあるわ。
つまりあの封印の中に居る何かとはガチンコ肉体勝負ってわけなんだけど。」
「そんなのワシの出番に決まっておろう、そんなまだるっこしい事をしなければ復活出来ない存在など楽しみで仕方がないわ。」
オスカーが怖い笑顔を浮かべる、出来ればそいつを殺さないでやってほしい。
「よし、それじゃ準備をして出発するとしようか。
部隊編成は任せるよ、俺は妻達に伝えて来なくちゃ。」
「うむわかった。」
そう言ってその場はそれで解散、やっと肩の荷が下りそうで良かったよ。
解散する時にアストリッド達に何をするか聞いたが島の探索の続きをするらしい、そっちもよろしくな。
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