第306話 イザベルの知識で災厄の集塊がどうにかなるかもしれないことが分かった。

「何よもう……世界が危ないからって慌てて連れて来られたんだけど。

 ドラゴン族に対応出来ない事が私にどうにか出来るとも思わないわよ、それよりもう少しで服飾造形の仕事が終わりそうだからそっちに戻りたいの。」


ドラゴン族がイザベルを呼んできてくれたが、当の本人は物凄い乗り気じゃなさそうである。


あれだけ黒魔術に憑りつかれてたのに、そんな服飾造形に必死になるとは思ってなかった……当初は後者を受けてくれるがどうか不安だったのに。


「そう言わないでイザベル。

 ドラゴン族でも抑えきれない魔力の塊があるのよ、そういうのを無力化もしくは弱体化するのは黒魔術の得意分野じゃないのかしら?

 それとも服飾造形にかまけすぎて黒魔術は使えなくなったの?」


シュテフィが悪い顔でイザベルを焚きつけるように煽っていく、それを聞いたイザベルは嫌そうな顔から一転……何かを思いついた顔で聞き返す。


「魔力の塊って言ったかしら?」


「えぇ、私は直接それを見てないけど。

 ここに居る村長とシモーネさんがそう言ってるから間違いないわよ。」


「それなら何とかなるかもしれない。

 一度そこに連れて行ってくれないかしら、どれくらいの規模か見てみたいし。

 ザビンは今から言う物を準備しておいて、術式の組み立てと計算はしておくから。」


「分かりました!」


ザビンはここに到着して早々イザベルに言われた道具を取りに帰る、ちょっと不憫だ。


しかし黒魔術って何かを破壊することに特化している物だと勝手に思ってたよ。


何せ黒魔術ってシュテフィが使おうとしていた術式しか知らないからな、あれも不発だったし。


「それじゃ村長、災厄の集塊とやらがある場所まで案内してくれるかしら。」


「分かった。

 それじゃアラクネ族は装飾品の追加作成を、それ以外の種族は装飾品の分配と他に何か出来ることがあるかの議論をしててくれると助かる。」


「「「「「分かりました!」」」」」


皆に指示は出せたしイザベルを連れて災厄の集塊の場所へ行くとするか。


出発しようとしたら、流澪とウーテもこっちに来たいということで一緒に来てもらう事になった。


「妬いてるの?」とイザベルにからかわれていたが二人とも顔を真っ赤にして否定する……そこまで否定しなくてもいいじゃないか。




「これが災厄の集塊ね、確かに魔力の塊だわ。

 しかしまぁこれはすごいわね。」


イザベルが災厄の集塊を見上げて感心している……確かにすごい規模だが感心している場合じゃない。


その後もイザベルは災厄の集塊の周りを歩いたり眺めたりしている。


術式の組み立てや計算とかをしているんだろうが、何かに書いたりしなくて大丈夫なのだろうか。


「イザベル、何とかなりそうか?」


「結論から言うと何とかなるわよ。

 そもそもこれが黒魔術だから余計簡単ね、術式の解析さえ終わればカウンターの術式を重ねてやればあの魔力の塊は霧散するはず。

 ……これをずっと封印してたっていう人に会えるかしら?」


「呼んでくるよ。」


俺はエルケを呼びにその場を離れる、その間もイザベルはじーっと災厄の集塊を眺めていた。


何か引っかかってる表情だし疑問があるんだろうか?


近くで休憩してたエルケを連れて来たのでイザベルと話をしてもらうことに、何か進展があるといいけど。


「私は村に滞在させてもらってる黒魔術師兼服飾造形師のイザベルよ、貴方がこれを封印してた人ね。

 単刀直入に聞くわ、本当に何かを封印していると先代から伝えられた?」


「はい、それは間違いなく。

 災厄の集塊という名前は、封印の時に注がれた魔力が溢れて集まっているので後から付けられたとは聞きましたけど。」


「そう、そもそも封印に使われた魔力が溢れる事自体がおかしいの。

 それが封印ならとんだ欠陥術式、今すぐに直すべきだけど……それが形を保ってまるで繭のように何かを守っている、これもまたおかしい。

 でもそういう術式を組み込んでるなら話の筋が通るし、そういう黒魔術はあるのよね――実践的じゃ無さ過ぎて誰も使わないはずなんだけど。」


「待って、それって周りに魔力を貯めるのが当初の目的じゃないの?」


話を聞いていた流澪が怖い事を言い出す、それが目的ってどういうことだ?


「私もそう思ってる、中に意思があるけど命が無いということは精霊のような存在が災厄の集塊の中心に存在しているの。

 けど何らかの理由でパーン族がそれを保護、もしくは捕獲してここで何代にも渡ってその存在が成長するための魔力を貯めている――っていうのが私の見解。

 ちなみにパッと見た感じもう魔力の貯蓄量が限界に達そうとしているわよ。」


そんな……今までのパーン族の長が自分の人生を投げ打ってまでしていた地籠はそんな事の為なのか?


そもそも地籠をしなくてもこいつは放っておいても何も問題は無かったのかもしれないな……流石にエルケが気の毒になる。


エルケは話を聞いて気絶しちゃったし、余程ショックだったのだろう。


「何か対策は無いのか?」


「カウンター術式があるって言ったでしょ。

 とりあえず簡単な試算は頭の中で終わったから、村に帰ってちゃんと検算した後術式の構築かしらね。

 そこまで時間はかからないと思うわ、念のためシュテフィさんを私の家に連れて来てくれると助かるかな?」


「分かった、そのようにしておくよ。」


頭の中で計算出来るってすごいな、俺なんて2桁の掛け算の暗算ですら怪しいぞ。


「イザベルさん、全くこの件に関係ない話をしていい?」


「何かしら?」


「547819×34516の答えは?」


「18908520604じゃないの?」


「……ちょっと待って!」


流澪がとんでもない桁数の掛け算をイザベルに投げかけたがイザベルが即答、流澪は答えが分かってないのか地面に筆算を書いて検算を始める。


30秒ほどで終了したのだろう、そこにはイザベルが言った答えである18908520604が書かれていた。


「イザベルさんずるい!

 そんな計算早いんだったらクリーンエネルギー機構の研究に参加してほしかったわ!」


「え、えぇ……言ってくれれば計算くらいしたのに。

 というかこれ特殊能力みたいなものなの?」


「充分すごいと思う、正直羨ましい。」


不謹慎かもしれないがイザベルの新しい能力が見つかった、それはそれとして早くイザベルを村に送らないと。


災厄の集塊の中身が成長する前に手を打たなければな。

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