第307話 イザベルが解明したことを伝えると、エルケが大泣きしてしまった。
災厄の集塊を何とかするため一度村へ帰る、イザベルが家で計算をするらしいからな。
俺はシュテフィを呼んでこないと、と思ったらイザベルが俺に話しかけてくる。
「村長、2日ちょうだい。
その間にあの黒魔術へのカウンター術式を完成させるから。」
「待つと言っても災厄の集塊の魔力の貯蓄量は限界なんだろ?
時間を空けて大丈夫なのか?」
「そもそもあれは放っておけば何も起きない、それは黒魔術を研究してきた者として断言するわ。
あれを封印するために魔力を注ぐっていうこと自体が間違いなの、だから放っておけば溢れることもないわ。
それは村長から皆に伝えておいて、それじゃシュテフィさんをよろしくね。」
イザベルはそう言い残して家の中に入っていく、イザベルから伝えてくれと頼もうとしたがガチャリと鍵をかける音がしたので諦めることに。
俺が言って分かってもらえるだろうか……イザベルの言う事が事実なら仕方ないよな。
俺はシュテフィにイザベルが家に来てほしいと言ってたのを伝えて、もう一度災厄の集塊がある場所へ向かう。
途中パーン族の上位に話しかけられたが無視しておいた、今あいつらに関わっている暇は無いし。
災厄の集塊の前へ到着すると、皆エルケから教わったように魔力を注いで封印の手助けをしている。
「皆一旦封印の手を止めてくれ!
村長命令だ!」
「は、はいっ!」
魔力を注いでたラミア族とドラゴン族は俺の声を聞いて一瞬で手を止めた。
村でもかなり魔力量が多い2種族の手を止めれてよかった、イザベルの話ではもう少しで限界らしいからな。
限界に到達したら中に居る何かが成長する術式が起動するという事なんだろう、あれ自体が黒魔術だと言ってたし。
「村長、どうされたんですか?」
「あぁ、実はな――」
俺はイザベルから聞いたことを皆に伝える、皆はイザベルが何か言ってたのは知ってたがよくわかってなかったらしい……危なかった。
「と、いうわけだから放置で構わないらしい。
後はイザベルに任せよう、恐らく災厄の集塊に関しては彼女が最適任だ。」
「ドリアード様が夫と私の全力でもどうにも出来ないと言ったのはそういう事だったのね……この話を聞いて合点がいったわ。」
シモーネが納得して穏やかないつもの表情に戻った、ドリアードに災厄の集塊を消すのは無理だと言われてから相当腑に落ちなかったんだろうな……ずっと眉間にしわが寄ってたし。
ドラゴン族は自然の力を操る、だがその自然の力も多くは魔力を使用して放っているのだろう。
そして自然を司っているのは精霊だ。
シュテフィと契約しているノームは魔力を要求するし、俺がドリアードの力を利用するにも魔力を使う。
要するに自然の力を使役するのは魔力を使うのと同義。
それを全力で災厄の集塊に打ち込んでも吸収・貯蓄されて中の者が一気に成長するだろう。
ドリアードが言う事は全部合っていたという事だ……本当にすごいな。
「そんな……今までパーン族が必死に言い伝えを守ってきたのは……。」
エルケは頭を抱えて蹲ってしまう、エルケ自身人生の長い間災厄の集塊に魔力を注いできたので相当なショックを受けているんだろう。
「エルケの代で知れただけでも幸運に思おう。
村へ招待するよ、ゆっくり休んでくれて構わないから――上位の扱いは落ち着いたら決めてくれたらいい。」
俺はエルケの背中をポンポンと叩き慰める、するとエルケの中で何かが切れたのか「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」と大声で泣き出してしまった。
大粒の涙が地面にこぼれ落ちていく、そんなエルケを俺は抱きしめてやるしか出来ない。
そして見た目以上にやせ細っているのに気付く、本当に何もかも我慢して災厄の集塊を封印するために地籠をやってきたんだな。
何とかしてやりたい――こんな可哀想な子を見捨てれないし。
「皆、今から俺はワガママを言うから賛成するか反対するか選んでくれ。
エルケをこの件から離脱させ村でゆっくり羽を伸ばしてもらってそのまま住んでもらう、仕事もしばらくはしてもらわないつもりだ。
今エルケに必要なのは十分な食事と心の治療だと考える、皆の意見はどうだろうか?」
「私は賛成です、自分を犠牲にしてここまで頑張ったことが間違いだったうえ信頼していた同族はあのザマですから……救う価値のある命を救えて良かったと考えますよ。」
メアリーは賛成、と。
「私は現時点では賛成も反対もしないでおくわね。
ドラゴン族の長の妻をしている身として厳しい目線で意見を言わせてもらうわ……。
まずはパーン族がしたことの責任をしっかりと取ってもらわないと、災厄の集塊に関しては仕方ないにしても村にしでかした事くらいはね。
それをきちんと出来たなら賛成だわ、可哀想だと思ってるのは本当だもの。」
シモーネは現状中立か、だが意見としては分からなくはない――俺としてはその件も待ってやりたいけどな。
「私は賛成。
シモーネおば様の言う事も分かるけど、私個人としてエルケさんを何とかしてあげてほしいわ。
責任を取るのはそれからでも遅くないはず、許せない事をしたのは事実だけど被害は無かったんだから。」
ウーテは賛成か、ほぼ俺と同意見だな。
その後他の人も続々と意見を言ってくれたが大多数が賛成だった。
シモーネの意見に同調する人は何人かいたが反対する人は0、皆優しくて良かったよ。
「それじゃあエルケも一旦村で保護するという事でいいだろうか。」
「仕事をさせないならパーン族の住居では無く、別のどこかのほうがいいのでは?
長という立場からも一度解放してあげてはいかがでしょう。」
メアリーが意見を出してくれてハッとする、保護しているパーン族の所で暮らしてもらうつもりだったからな。
言われてみれば、そこに入ればエルケは長なんだよな……そこに居るだけでパーン族の責任が発生してしまう。
「私の家で見ましょうか?」
「別の意味で疲弊するからやめてやってくれ。」
シモーネの家は流石に可哀想だ、見知らぬ土地で最強のドラゴンの家に居候とか最上級の罰ゲームだと思う。
「仕方ない、俺の家で過ごしてもらうとするか。」
泣きながらも俺達の会話は聞こえていたのだろう、エルケは涙をこぼしながらも「何を言ってるんだろうこの人達は。」みたいな顔になっている。
俺がそう言うとエルケはメアリーに毛布で簀巻き状態にされた後、ウーテに担がれてそのまま村へ行ってしまった。
「何ですか何ですかぁぁぁぁ……。」というエルケの少し情けない声が地下に響き渡る。
とりあえず俺達も帰るとしよう、イザベルの術式が完成するまでここに用事は無いからな。
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