第304話 災厄の集塊の対応について話し合った。
「災厄の集塊ねぇ……生命力は無いけど魔力の量は物凄いわ。
ただ魔力がここに集束しているだけのような気もするのだけれど。」
シモーネが目の前に浮かぶ災厄の集塊を能力で見て意見を述べてくれる。
生命力が無いという事は生き物ではない事は確定、しかし視認できるほどの魔力がここに集まってるってとんでもない事だと思うんだけど。
「エルケさん、災厄の集塊について代々伝わっていることはありますか?」
「ここには遥か昔にパーン族を壊滅寸前まで追いやった存在が封印されているんです。
その封印を維持するのが長の務め……。
外部との交流を断っているのも万が一の時に巻き込まないようにと案じてなんですよ。」
「しかしもうそれはしなくて良いのではないか?
シモーネ殿の言う通りならここに生命体は居ない、ただ封印がそこにあるだけでは?」
「確かにローガーの言う通りだ。
生命体が無いなら地籠なんてやめて普通に暮らしていいんじゃないか?
パーン族の上位以外は村で保護している、上位の処分が決まればエルケも村に来るといい。」
なんて事はない、もうエルケは封印を維持するために自分を犠牲にしなくてもいいんだ。
こんな小さな子がここまでやせ細っているんだ……最低限の食事しか食べてないだろうしほぼ地籠をしていた生活なら日光もまともに浴びていない。
「地籠なんてやめて外に出よう――」
「待ってください、それはまだ早計かもしれません。」
俺がエルケを連れ出そうとした矢先、メアリーがそれを制止する。
「どうしてだメアリー、ここには封印されている生命体は居ないんだぞ?」
「ラウラ、災厄の集塊の反応は?」
「真っ赤です、今までで一番敵意を感じるですよ。」
どういうことだ、さっきシモーネが生命力の反応は無いって言ってたじゃないか。
「開様、ここにドリアード様を召喚してくれますか?
確認したいことがありますので……。」
「あ、あぁ……分かった。」
こんな地中深くに自然は無いのでまた怒られるのかと思いながらドリアードを召喚。
「ちょっと村長、呼ぶときは一度意思疎通をして……って、地中じゃ仕方ないか。」
「そういうことだ、すまないな。」
エルケはドリアードを見るや否や必死に祈り始めた、世界を代表する大精霊は神のようなものなのだろう。
実際あの神より仕事してるし。
「ところで何の用なの?」
「単刀直入にお聞きします。
ドリアード様に命はありますか?」
ドリアードはメアリーの質問を聞いて災厄の集塊をちらりと見る、しばらくすると納得した顔を浮かべた。
「そういうことね、その質問をするということはアレが何かは分かってるってこと?」
「確信はありません、ですが見当はある程度ついてます。」
「魔術の適性が無いのによく見破れたものね、あったとしても気づくかどうかは術者次第なんだけど。
メアリーちゃんの質問に答えるわ、正確に言うと私に命は無い……この世界に私が存在するという概念が刻まれていると言えば分かるかしら。
私が同位体を出さずに消えると、私が居たという痕跡が世界から消えるの――どの文献にも誰の記憶にも残らない。
精霊の死とはそういうものよ。」
メアリーの質問にも驚いたがドリアードから聞かされた言葉にもビックリする、シモーネは目を大きく開いてパチクリさせているし、エルケに至っては顔面蒼白状態。
ローガーとハインツも驚きを隠せてない様子だ。
「2人だけ分かってる様子だけど、どういう事なんだ?」
「私も分かってるですよ。」
メアリーとドリアードに質問するとラウラが頬を膨らませて割り込んできた、ごめんって。
「あれは精霊……とは違うんですが、成り立ちとしては非常に似たものだと思います。
なのでドリアード様のように魔力だけで存在出来ますし意思もありますね……ちなみに気づけたのはラウラの索敵魔術が反応していたからですよ。
姉妹であり長らく一緒に旅をしていたもあって、表情から結果を読み取れるようになりましたから。」
メアリーの説明を受けてようやく災厄の集塊の正体が何となく分かった……だがどうやって対策すればいいんだろうか。
魔力だけで存在出来るなら、これからもずっと封印をかけ続けなければならない。
「ドリアード様、不躾な質問をしてよろしいかしら?」
「貴方はあのリムドブルムの奥さんね、いいわよ。」
「夫と私の全力をドリアード様は受け止めれる?」
「無理よ消えるに決まってるじゃない。
でも先に言っておくわ、それでも恐らくあの魔力の塊は消せないわよ?」
シモーネはそれを聞いてムッとした表情を浮かべる、恐らく自分の力で何かをねじ伏せることが出来ないのは初めてなのだろう。
あれだけ規格外の力を持ってると、まずそんなことは起こらないだろうし……ましてやオスカーと力を合わせても無理だとドリアードに意見されている。
自分より高位な者の意見は聞かざるを得ないのか、悔しそうに歯を食いしばった。
「ちなみにドリアードと直接の関係はあるのか?」
「関係無いわよ。
あれは自然に生まれたものでもなければ、私のように神様に作られた存在でもないし……それに前者なら私が対応してるわ。」
「それって――」
「しっ、エルケさんの心に傷がつくかもしれません。」
ドリアードを見てからずっと無心で祈りを捧げているエルケ、さっきの会話も耳に入ってないみたいだ。
災厄の集塊はドリアードと関係ないし、自然に発生したものではない……なら考えれるのは恐らく人工的に作られた何か。
パーン族の先祖が何をしたか分からない、もしかすると何かの事故で災厄の集塊が生み出されたかどこかから流れて来たか……確かめる術は無いけど。
「とりあえずこれをどうするか考えなければ。
ローガーとラウラはエルケに付いてやっててくれ、ハインツはエルケに充分な食糧を手配・運搬を頼む。
メアリーはシュテフィとラミア族の一部に頼んで、エルケの手伝いをしてやるよう指示を頼む。」
「村長、ドリアード様にどうにかするのは無理だと言われたから私に指示は無いの?」
シモーネが少し怒っている、そういうわけじゃないから。
「それはシモーネが今の力のままなら、だろ。
そのあたりも含めてドラゴン族とアラクネ族、それに魔力を持った種族と作戦会議だ。」
「――なるほど、それは面白そうね。」
ドリアードは何の話か分かってないようだがシモーネは分かったらしい、嬉しさと狂気のようなものが混じった笑みを浮かべて少し怖いけど。
さて、災厄の集塊を何とかするために村でやれることを全部やるとするか。
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